日本の主要な私立進学校では、卒業生の中で医師(および歯科医師)となった者だけで構成される同窓会組織が存在するケースがあります。特に関西の進学校(洛南高等学校、洛星高等学校、灘高等学校など)について調査したところ、以下のような状況がわかりました。
私は大阪府の公立高校出身ですし、外国語学部英語学科出身なのでこのような組織に所属したことはありません。しかし、以前一緒に仕事をしていた仲間が洛星高校出身であり、彼が「洛星医師の会」の役員をしていましたので、一度総会にオブザーバーとして参加し、日頃からも話を聞いており高校の同窓会組織にはこんなに大規模な職業別組織があるのかと驚きました。
彼とは今でも話をします。「洛星医師の会」はいま「京都ドナルド・マクドナルドハウス」の設立のための活動を非常に積極的に活動していると聞きました。本当に社会的な意義を追求している組織だと思います。
有名私立進学校における「卒業生医師の会」
洛南高等学校 やまぶき会 医療分科会
1999年7月11日設立 。洛南高等学校同窓会「やまぶき会」の下部組織として発足。医療(医学・歯学)分野の卒業生による懇親・情報交換、および現役洛南生への指導・情報提供を目的としています。
洛星高等学校 洛星医師の会
約30年以上の歴史があり、2025年1月に第34回の会合が開催されています。洛星同窓会の中の職業別OB会として位置付けられており、会員登録者数は約2,295名にのぼります。
灘高等学校 該当組織なし
調査したかぎり灘高校には医師限定の公式同窓会組織は確認できません。灘高校は毎年卒業生約220人中70人程度が医学部に進学すると言われるほど医学部進学者が多いものの、医師のみを対象とした同窓会は少なくとも公には存在しないようです(非公式な同期内グループ等はある可能性があります)。
開成高等学校 医学開成会
2008年前後に発足。2024年に第17回総会を開催予定。毎年多数の生徒が医学部に進学する開成高校の卒業生医師が結束し、医療の発展や医療を受ける人々の安心に貢献することを目的としています。公式サイト上で総会報告や活動情報を公開しています。
愛光学園 愛光医会
毎年「総会・新年会」を開催し、OB医師・歯科医師が多数参加 。愛光医会は本校卒業の医師による会で、開業医から勤務医まで幅広いメンバーが年間を通じて様々な活動を企画・運営しています。愛光歯会は歯科医師の同窓組織で、同様に活動しています 。若手OBの参加も増えており、世代を超えた交流が図られています。
上記のように、洛南や洛星では公式に医師限定の同窓会組織が存在し活発に活動しています。一方、灘のように公式にはそのような組織が見当たらない学校もあります(医学部進学者数は非常に多いものの、同窓会自体が職業別組織を持たない可能性があります)。また、関西以外でも開成(東京)や愛光学園(愛媛)といった有名進学校で医師OB会が組織化されており、それぞれ独自の名称で活動しています。
主な活動内容
医師限定の同窓会組織は、主に以下のような活動を行っています(各校共通の傾向と具体例)
定期的な総会・懇親会の開催
年に1回程度、大規模なOB医師の集まりを開催します。例えば洛南「医療分科会」では医師・歯科医師・医学生による懇親パーティー兼講演会を毎年開催しており、非常に好評を博しています。洛星医師の会でも毎年正月明けに京都市内のホテルで総会、講演会、懇親会を行っており、第34回の会合では京都府知事や京都市長(ともに洛星OB)を来賓に迎えるなど盛大に開催されました。開成の医学開成会でも毎年総会が開かれ、集合写真が残されています。
講演会・研修的イベント
総会時に医学、医療に関する講演を行うのが通例です。OBの中から著名な医師・研究者を講師に招き、最新の医療知見や専門分野の話題を共有します。洛星医師の会では大阪大学教授のOBによる高齢者医療の最先端に関する講演や 、学園理事長(医師OB)による母校の現状報告を兼ねた講演などが行われ、参加者(OB医師)にとって日々の臨床に役立つ内容となっています。医学開成会でも公式サイト上でテーマ別の座談会記事を公開するなど 、知見交換の場を提供しています。
情報交換・ネットワーキング
OB同士の交流を深めること自体が重要な活動目的です。懇親会では卒業期の垣根を超えて先輩・後輩の医師同士がネットワークを構築します。洛星医師の会では、参加した医学生(OBで現在医学部在籍中の後輩)一人ひとりに自己紹介の場を設け、先輩医師との交流につなげています。また懇親会では知事や市長といった異業種の著名OBとも気軽に意見交換ができる雰囲気で、出席者は喜びを感じたと報告されています。洛南医療分科会では会員近況報告や情報交換のための会報発行も行っており、会員名簿を整備してネットワーク強化に努めています。
現役生・若手OBへの支援
母校の在校生や若手卒業生へのサポートも重要な活動です。洛南医療分科会の会則には、在校生や卒業生の進路相談(医学部進学相談)や医局選びの相談に乗ること、交流会の開催などが明記されています。実際、洛南では現在「在校生へのアドバイスの会」を企画中であり 、医師志望の現役生に先輩医師がアドバイスする場を設けようとしています。また愛光学園の愛光医会でも毎年の集まりに若手OBが増加しており 、世代間でのメンタリング(助言・指導関係)が自然に育まれているようです。医学開成会も「開成会」という名称から察せられるように、医師となったOBが結束し後輩たちの協力関係を築く場となっています。
母校や地域への貢献
これらOB医師会は単なる同窓の集まりに留まらず、母校や社会への貢献を掲げることもあります。洛南医療分科会では同窓生や教職員からの医療相談に応じることも活動目的に含めており、母校関係者の健康相談にOB医師が協力する仕組みです。また洛星医師の会では、会のつながりが「医学界のさらなる発展に貢献していくこと」を会報で期待する声も上がっています。具体的には、例えば医師OBから母校への寄付募集アナウンスが懇親会で行われたり、医学界における人脈作りを通じ研究や医療活動で連携する可能性もあります。
以上のように、定期的な会合・講演による知見共有、OB同士の交流、後輩支援、そして母校・社会への還元が、医師限定同窓会組織の主な活動内容です。各校とも特色はありますが、共通して「同じ母校出身の医師」という強い繋がりを生かし、人的ネットワークと知識・経験を次世代に伝えていく役割を果たしています。
会員として参加するメリット
医師限定のOB会に会員(OB医師)として参加することには多くのメリットがあります
強力な人脈形成
同じ高校出身という共通点で結ばれた医師同士のネットワークは、他のどのネットワークにも代えがたい信頼感と結束力があります。実際、洛星医師の会には約2,300人以上の医師が登録されており、客観的に見ても「凄まじいポテンシャル」を持つコミュニティと評価されています 。このような広範な人脈は、医療現場での情報共有や協力、転職・研修先探し、共同研究の相手探しなど、様々な場面で役立ちます。
知識・経験の共有
総会で行われる講演会や座談会を通じて、最新の医学知識や臨床経験を共有できます。多忙な医師にとって同窓会の場で専門分野外の最新トピックを学べることは自己研鑽の機会になります。例えば洛星医師の会では、アンチエイジング治療の最先端や高齢者診療のエッセンスについて分かりやすい講演が行われ、多くの参加者が自身の臨床に生かせる内容を得られたと報告されています。また別の講演では国の科学政策に鋭い提言がなされ、母校の近況も知ることができるなど、知的刺激に富んだ場となっています。
キャリア支援とメンタリング
先輩医師から後輩医師・医学生への助言や支援を直接受けられるのも大きなメリットです。医学部在学中のOBにとっては、同じ高校の先輩という身近で相談しやすいロールモデルが多数いる状況で、進路や専門選択のアドバイスをもらえます。洛南医療分科会のように公式に進路相談を受け付けている組織もありますし 、そうでなくても懇親会で気軽に話す中で「○○大学の医学部ではどのような研修を積むと良いか」「○○科に進むにはどういう経路があるか」といった情報交換ができます。先輩に紹介してもらい医局見学や臨床研修の機会を得るケースもあるでしょう。
同窓生ならではの信頼・安心感
同じ母校の卒業生というだけで初対面でも打ち解けやすく、仕事上でも信頼関係を築きやすい土壌があります。患者の紹介や専門医へのコンサルト(照会)の際に「先生は○○高校のご出身でしたね」と共通の話題があるだけで親近感が湧き、スムーズな連携につながることもあります。また、母校の後輩というだけで自分の時間を割いて相談に乗ってくれる先輩も多く、「お互い様」の精神で助け合える安心感があります。
母校への帰属意識・達成感
OB医師会に参加することで、卒業後年数が経っても母校との繋がりを保ち、恩返しができているという充実感を得られます。例えば愛光医会では1期生が80歳近くになっても元気に参加されており、その姿が後輩たちへの励みになっているといいますs。自分も歳を重ねても母校の理念を共有する仲間と交流できることは精神的な支えとなりますし、若い世代に経験を伝えることで社会に貢献している実感が得られます。
以上のように、情報・人脈・支援・信頼・帰属意識の面で、医師限定の同窓会組織に参加するメリットは非常に大きいと言えます。特に同じ志を持って青春時代を過ごした仲間たちとの交流は、忙しい医師生活の中で貴重な励みや刺激となるでしょう。
会員として参加するデメリット
一方で、医師限定のOB会への参加にはいくつか留意すべき点(デメリットや負担)も存在します。
時間的・経済的負担
忙しい医師にとって、年1回とはいえ決まった日に集まりに参加するのは負担になることがあります。特に勤務形態や当直の都合で参加が難しい年もあるでしょう。また懇親会参加費や年会費(組織によっては会費制の場合があります)の出費も発生します。例えば洛星医師の会では毎回ホテルで懇親会が催されますが、その会費や遠方から来る場合の旅費などは各自負担になります。参加しなければ恩恵も得にくいので、多忙な中時間を作る必要がある点はデメリットと言えます。
組織運営上の役割負担
アクティブに参加すると、場合によっては幹事や世話人などの役割を担うことになり、余計な仕事が増える可能性があります。医師OB会は有志による運営が多く、当番幹事が持ち回りで準備を行ったり 、世話人会への参加を求められたりすることがあります。現役の医師が本業以外に同窓会運営に労力を割くのは大変で、負担に感じる人もいるでしょう。
閉鎖的・縦社会の弊害
同じ高校出身者のみという閉じられたコミュニティであるため、場合によっては排他的なムードになったり、上下関係(先輩・後輩のヒエラルキー)が色濃く出すぎる懸念もあります。医療業界では大学の医局や学閥の繋がりが強いですが、高校単位のOBネットワークが強固だと他校出身者から「○○高校の派閥」と見做される可能性もゼロではありません。実際には高校のOB会は学閥ほど直接的な影響はないものの、内輪意識が強すぎると新しく参加する若手が馴染みにくい雰囲気になる恐れがあります。
参加しない場合の機会損失
デメリットというより裏返しの点ですが、このような会が存在する中で自分だけ参加しない場合、情報や人脈で不利になる可能性もあります。とはいえ参加は強制ではないため、本人の自由意志で不参加を貫けばそれまでですが、周囲が参加していると心理的な疎外感を覚えるケースもあるでしょう。また、誘われたのに何度も欠席していると先輩から「元気がないな」などと思われるかもしれず、気に病む人もいるかもしれません。
メリットが感じられない場合
OB会での交流や情報共有が自分の専門領域や志向に合わない場合、思ったほどメリットを感じないこともあり得ます。例えば研究職に特化しているOBが多い会で開業医としての情報が得づらい、あるいは逆に臨床中心の会で研究者には有益な話題が少ない、といったミスマッチがあると、参加意義を見失ってしまうかもしれません。その場合は時間の無駄に感じてしまうリスクもあります。
総じて、時間・労力面のコストと組織特有の人間関係がデメリットとして挙げられます。ただし、これらは個人の感じ方や参加の仕方によって大きく異なります。多くのOB医師会は参加を強制するものではなく「できる範囲で関わる」スタンスを認めていますので、自身の負担にならない範囲で緩やかに参加することでデメリットを最小化することが可能でしょう。
ウェブサイト・SNSでの活動状況
現代では多くの同窓会組織がインターネット上でも情報発信や連絡を行っています。医師限定の同窓会組織についても、公式ウェブサイトやSNSを活用している例があります。
公式ウェブサイトによる情報公開
開成高校の医学開成会は独自の公式サイトを開設しており、総会の案内や報告、会の目的、役員名簿などを公開しています。サイト上では過去の総会の集合写真や議事録的なレポートも掲載されており、OB以外にも活動の一端が見えるようになっています。洛南高等学校やまぶき会医療分科会も、同窓会公式サイト内に専用ページがあり、設立趣旨や活動報告を閲覧できます。
同窓会本部サイトでの告知
洛星高等学校の場合、医師の会専用のサイトはありませんが、洛星同窓会の公式ホームページ上で「洛星医師の会」の開催報告記事が掲載されています。また次回開催のお知らせや参加申込は同窓会事務局を通じてWeb上で案内される仕組みになっていました。このように、母校同窓会のサイト内で職業別OB会の情報をカバーする形も一般的です。
SNSでの情報発信
SNSを活用する例としては、洛南高等学校同窓会やまぶき会がInstagramやFacebookの公式アカウントを開設しています。これらのSNSでは同窓会イベントの案内や報告が発信されており、医療分科会の活動も含めて告知されています。実際、Instagram上で同窓生への同窓会総会出席呼びかけ(懐かしの先生やクラスメイトと再会しよう等)を投稿するなど、若い世代のOBにもリーチする工夫がされています。医師限定の組織自体が単独でSNS発信しているケースは少ないようですが、親会にあたる同窓会アカウントで情報共有することでカバーしていると考えられます。
メール配信・オンラインツールの利用
従来型の郵送による案内に代わり、メールやウェブフォームでの案内・申し込み受付を行うところも増えています。洛星医師の会では同窓会事務局から会員に一斉メールで開催告知を行い、出席登録もオンラインで受け付けました。また近年のコロナ禍ではオンライン会議システムを用いた総会(洛星医師の会第22回総会はオンライン開催)も実施されました 。このようにITを活用して地理的・時間的制約を緩和する動きも見られます。
総じて、ウェブサイトやSNSはこれらOB医師会の活動において重要な情報インフラとなっています。特に全国に散在する会員に迅速に情報を届けるにはメール配信やサイト更新が不可欠ですし、若手OBにリーチするにはSNSが有効です。今後もオンライン上でのコミュニケーションを充実させることで、さらなる参加者の拡大やコミュニティ活性化が期待できるでしょう。
参考文献・情報源(Webサイトからの情報を元に作成)
• 洛南高等学校同窓会 やまぶき会
• 洛星高等学校同窓会公式サイト
• 開成高校 医学開成会 公式サイト
• 愛光学園「チュータ日誌」第612回(愛光医会・愛光歯会の紹介)