医学部専門個別予備校

日本人向け海外医学部一覧:進学可能な国と主要大学

日本人が進学可能な海外医学部:国別の概要と主要大学

海外の医学部は、日本の大学にはない柔軟な進学ルートや国際的な環境を提供しています。日本人学生が進学可能な国として特に人気・注目されているのは、ハンガリー、チェコ、フィリピン、イタリア、中国です。これらに加え、ポーランドやルーマニア、ブルガリアなど東欧諸国、英語圏の一部(米国・英国・オーストラリアなど)も選択肢として挙がりますが、後者は入学要件が非常に厳しいため一般的ではありません。以下に主要国・地域ごとの医学部進学の特徴と代表的な大学をまとめます。

ハンガリー

東欧随一の医学教育国。6年制医学プログラム(英語コース)が充実しており、セメルワイス大学(ブダペスト)、ペーチ大学、セゲド大学、デブレツェン大学といった国立大学が有名です。歴史ある高品質な教育を英語で受けられ、卒業時にはEU全域で通用する医師資格を取得できます 。日本人留学生の受け入れ実績も豊富です。

チェコ

中欧の名門大学が揃う国。6年制の英語医学プログラムを提供しており、カレル大学(プラハ、複数の医学部あり)やマサリク大学(ブルノ)が代表例です。EU加盟国であるため卒業と同時にEU共通の医師免許を得られます 。東欧の中でも教育水準が高く、日本人学生にも近年人気が高まっています。

フィリピン

東南アジアで英語が公用語の国。フィリピンの医学部はアメリカ式で4年制の医学大学院(メディカルスクール)に該当します。つまり、高校卒業後すぐに進学する場合、まず4年制大学で学士号を取得した上で医学部に進む必要があります。代表的な大学にはフィリピン大学(国立)、サントトマス大学、セブにある私立医科大学などが挙げられます。英語で教育が受けられ、学費も日本より大幅に安いことから「日本の医学部より入学しやすく学費が安い」点が魅力です。後述するように、日本の医師国家試験受験資格も得られる可能性があります。

イタリア

歴史ある医学教育国で、近年は国立大学の医学部英語コース(6年制)を整備しています。ミラノ大学、パヴィア大学、ローマ・サピエンツァ大学、ボローニャ大学など複数の国立大学がIMAT(国際医学部入試)と呼ばれる英語試験を通じて留学生を受け入れています。イタリア国立大学医学部の学費は年間数十万円程度と極めて安く(約2,000〜3,000ユーロ) 、教育の質も高いことで知られます。ただし入試の競争率は非常に高く、EU各国を含めた志願者が集まるため難易度は入学段階で高めです(例年「9割落ちる」と言われるほど狭き門との指摘もあります)。

中国

医学部の数が非常に多い国で、外国人留学生向けに英語で授業を行う6年制医学課程(MBBS)を提供する大学が多数あります。例えば温州医科大学(浙江省)や大連医科大学、上海の復旦大学医学部などは海外からの留学生受け入れ実績があります。学費は大学によりますが、年間約50~100万円程度と日本の私立医学部に比べれば低廉に設定されているケースが多いです。近年、中国政府は医学教育の国際化に力を入れており、毎年1万人以上の留学生を医学MBBSコースに受け入れているとも報告されています。日本からも学力次第で偏差値50台でも合格可能といった触れ込みで紹介されることがあり、国立大学に準じた学費で入学できる新たな選択肢として注目されています。

その他東欧諸国

上記ハンガリー・チェコ以外にも、ポーランド(例:ヤギェウォ大学=クラクフ医科大学、ワルシャワ医科大学)、ルーマニアブルガリアスロバキアクロアチアなど、EU加盟の東欧諸国には英語で学べる医学部が存在します。これらも6年制で卒業時にはEU内の医師資格が得られるため、日本人が進学先として選ぶ例が増えています。学費の安さ(年間数百万円以下)や入学のしやすさが魅力ですが、大学・国によって教育の質や進級の難易度に差があります。

英語圏(米・英・豪など)

アメリカやカナダの医学部は基本的に大学卒業後に進む4年制のプロフェッショナルスクールであり、かつ留学生の受け入れ枠が極めて限られるため、日本の高校生が直接目指すケースはほとんどありません。一方、イギリスやオーストラリア、アイルランドには高校卒業後直接入学できる5~6年制の医学部があります。ただし入学要件として現地の大学入試資格(Aレベル試験やIBなど)や共通試験(UCAT/BMAT等)が課され、募集人員も僅少で学費も高額になります。このため、英語圏への直接進学はハードルが非常に高いことから、一般的には東欧やアジアの英語医学プログラムが日本人には現実的な選択肢となっています。

✓ポイント: 国によって医学部の教育制度(課程の長さや学位、言語)が異なるため、自分の学歴や語学力、将来の希望に合った国・大学を選ぶことが重要です。例えば、高校卒業後すぐに医学教育を始めたい場合はハンガリーやチェコ、イタリアなど6年一貫の本科課程を持つ国が適しています。大学を一度出てから医師を目指す場合はフィリピンや英米のような大学院課程型の医学部も選択肢になります。

次章から、各国ごとの入学要件や準備プロセスを詳しく見ていきましょう。

各国・大学への入学要件と準備プロセス

海外医学部に進学するには、国や大学ごとに定められた入学要件(アドミッション要件)を満たし、所定の試験・手続きを経る必要があります。また日本から進学する場合、現地の試験対策や出願手続きに関する情報収集・準備を進めるうえで、予備校や留学支援機関のサポートを利用するケースも多く見られます。ここでは主要な国について、入学要件と典型的な準備プロセスを説明します。

ハンガリーの医学部 – 入試科目と予備コース

ハンガリーの国立医学部(英語コース)では、日本の高校を卒業した直後でも直接出願が可能です。主な入学要件は以下の通りです。

学力要件:高校の成績(特に理系科目)が一定水準以上であること。具体的な評定平均値などは公表されていませんが、理科系科目で十分な基礎学力が求められます。

語学要件:授業は英語で行われるため、高度な英語力が必要です。TOEFLやIELTSなどの語学スコア提出は必須ではないこともありますが、入学試験で英語力が試験科目に含まれるため実質的に大学が求める水準の英語力を証明することになります(詳細後述)。

入学試験:ハンガリーの各大学は独自の入学試験を課しています。日本でも在日ハンガリー医科大学事務局によって試験が実施され、筆記と面接等から成ります。筆記試験は英語による生物・化学の問題が中心で、高校~大学教養レベルの基礎知識が問われます。英語そのものも試験科目に含まれるため、事前に理系科目を英語で学習しておく必要があります。合格者には面接(主に人間性や動機の確認)が行われるケースもあります。

その他:健康診断書や推薦状の提出を求められることがあります。

準備プロセスとして、日本人志願者の多くはハンガリー医科大学日本事務局が提供する情報やイベントを活用しています。事務局主催の説明会や願書受付があり 、さらに短期集中予備コースと呼ばれる入試対策講座も設置されています。予備コースでは入試科目の英語・生物・化学などを集中的に学び、試験突破を目指します 。ハンガリーの医学部は「門戸は広いが進級で厳しく選抜する」傾向があり 、入学後についていくためにも入学前から予備教育で基礎固めをしておくことが推奨されています 。

チェコの医学部 – 日本事務局を通じた出願

チェコの主な英語医学部(カレル大学医学部、マサリク大学医学部など)も、高校卒業程度の学力を持つ留学生を積極的に受け入れています。ハンガリーと同様にチェコ医科大学事務局(日本)が設置されており、日本語で情報提供や出願サポートを行っています。

入学試験:チェコの大学も独自試験を課す場合が多く、内容はハンガリーと概ね似ています。英語、生物、化学(場合により物理)の筆記試験や、大学関係者による面接が一般的です 。過去には日本でオンライン形式の試験が行われた例もあり、事務局経由で試験日程や対策講座の案内があります。

語学要件:基本的には英語試験に合格すれば別途TOEFL等は不要ですが、医学英語に対応できる読解力・会話力を身につけておく必要があります。

予備課程:チェコではマサリク大学に限り、入学前にチェコ語講座を提供しています (将来現地で臨床実習を行う際にチェコ語力が必要となるため)。また合格者の中で条件付き合格(学力要件を一部満たすものの科目に不足がある場合など)にはプレコースが課されるケースもあります。

準備プロセスとしては、チェコも日本事務局が願書受付の代行、試験日程の調整、現地渡航サポートまで一貫して行っています。日本人学生の募集も公式に行われており、資料請求や相談会を通してスムーズに出願準備ができる環境が整っています。近年では現役高校生が卒業後ただちにチェコ医学部に入学する例も出てきており、予備校などで英語・理科対策をしながら高校在学中に情報収集・出願する動きも見られます。

フィリピンの医学部 – 学士取得とNMAT試験

フィリピンの医学部(メディカルスクール)は大学院教育に分類されるため、出願時点で学士号(4年制大学卒業資格)を持っていることが大前提です。したがって、日本の高校生が直接フィリピンの医大に入学することはできません。典型的なプロセスは次のとおりです。

1. 4年制大学を卒業:医学部進学希望者は、生物学や化学などプレメディカルな専攻で学士を取得するケースが多いですが、実は専攻分野は問われません。文系出身や社会人経験者でも、卒業後に医師を志して入学している人が多数います。日本で大学を卒業してから出願する人もいれば、フィリピン国内の大学でプレメディカルコース(例:生物学専攻)を履修して学士を取る人もいます。

2. NMAT受験:フィリピンでは全国共通の医学部入学試験としてNMAT(National Medical Admission Test)が年複数回実施されています。フィリピン国内または海外指定会場で受験可能で、内容は英語による基礎学力テストです。英語力と理系知識(数学・科学・読解など)を測定する試験で、高得点を取るほど上位校への出願で有利になります。

3. 出願:NMATのスコアと大学卒業証明書・成績証明を各医科大学へ提出し、出願します。多くの大学ではNMATスコアが一定以上であることを条件としており、大学独自の筆記試験は課されません。一部の大学では追加で学部長面接などが行われることもあります。

4. 必要に応じ語学研修:フィリピンは公用語が英語とはいえ現地のタガログ語も日常では使われます。ただし医学教育は原則英語で行われるため 、英語力が十分であれば留学生が授業に参加する上で言語面の大きな障壁はありません。英語に不安がある場合、出願前にフィリピンで短期の語学留学をして英語力強化を図るケースもあります。

準備プロセスでは、日本国内の予備校等で「プレメディカルコース」を修了したり、NMAT対策の勉強をすることが考えられます。フィリピンの医大は入学自体は比較的しやすい反面、まず大学卒業資格が必要な点と、入学後の勉強もハードである点に注意が必要です。実際、フィリピンでは医学部の授業はすべて英語、ディスカッション形式の授業も多く、高度な英語運用能力と自主的な学習姿勢が求められます。現地学生ですら毎日寝る間も惜しんで勉強すると言われる程で、留学生にも相応の覚悟が必要です 。

イタリアの医学部 – IMAT試験と出願手続き

イタリアの国立大学医学部(英語コース)への入学は、統一試験であるIMAT(International Medical Admissions Test)の結果に基づいて決まります。IMATは毎年9月頃に世界各地で実施される試験で、イギリスの試験機関が作成する筆記試験(選択肢式)です。内容は科学(生物・化学・物理・数学)および論理・一般教養に関する問題で構成され、英語で出題・解答します。高校で理系科目を履修していれば対応可能ですが、問題の難易度は高く、幅広い知識と思考力が要求されます。

入学要件とプロセス:

学歴要件:高校卒業資格があれば出願可能です(日本の高卒資格でOK)。イタリアは12年教育の国なので、日本の高卒(12年)で同等と認められます。

語学要件:IMAT自体が英語試験のため、別途英語資格は不要ですが、十分な英語力が無いと太刀打ちできません。また入学後、イタリア語も生活・臨床実習で必要になるため、語学習得意欲も重要です。

IMAT出願:受験生は志望順に複数大学をIMAT出願時に選択できます。試験の点数によって志望校にマッチングされ、合格者が決定します。非EU留学生枠は大学ごとに定員があり(例:1校につき数名~数十名程度)、その枠内での順位競争になります。

結果と入学手続き:IMATのスコアが発表された後、希望大学の枠内に入っていれば合格です。秋に入学手続き・ビザ取得を経て渡航します。

準備プロセスとして、イタリア医学部進学志望者向けの専門予備校やオンライン講座が日本にも登場しています。IMATで高得点を取るには、論理問題の対策や英語での理科問題演習が欠かせません。また合格後に備えてイタリア語の基礎を学んでおくと、現地での生活・学習適応がスムーズです。イタリアは学費が非常に安い反面「入試が狭き門」という特徴があるため、国内医学部受験と並行してイタリアも目指すような受験生もいます。予備校によっては国内医学部コースと併用しつつIMAT対策をするプランを提供している例もあります。

中国の医学部 – 大学ごとの審査と募集枠

中国の英語医学課程(MBBS課程)は各大学が個別に留学生を募集しています。入学要件は大学によって異なりますが、一般的なポイントは以下の通りです。

学歴要件:高校卒業資格(12年以上の教育課程修了)が必要です。成績証明の提出が求められ、主要科目の成績が重視されます。

語学要件:英語で授業が行われるコースの場合、一定の英語力証明(TOEFL/IELTSなど)や英語での面接を課す大学があります。ただ、国や地域によっては英語が母語でない留学生も多いため、出願時に明確な基準を設けず入学後に英語補習を行う大学もあります。

入学試験等:中国の大学は筆記試験ではなく書類審査とオンライン面接のみで選考する場合が多いです。面接では志望動機や基礎学力の口頭質問(簡単な科学の問題や高校内容の確認)が行われることがあります。また一部大学では高校卒業程度の学力テストをオンラインで課すことも報告されています。

定員と競争率:中国政府は医学留学生を積極的に受け入れており、多くの大学で毎年100名以上の留学生枠を設けています。比較的入りやすい大学から難関大学まで幅がありますが、日本人の場合、偏差値やセンター試験成績に自信がなくても合格できた例があると宣伝されることもあります。ただし大学のランクによっては中国国内外から優秀な学生が集まるため、例えば北京大学医学部(北京医科大学)など中国トップ校への留学は極めて難関です。

準備プロセスでは、中国の大学それぞれの募集要項(毎年春頃に公表が多い)を取り寄せ、志望校に合わせた対策を取ります。募集要項は中国語・英語で記載されていますが、日本人向けに日本事務所を設けている大学もあります。例として温州医科大学は日本事務所を通じて出願相談を受け付けています 。願書や健康診断書、財政証明(留学に十分な資金があることの証明)など書類準備も必要です。中国留学は他国に比べエージェント経由の手続きが利用されることが多く、その場合エージェントが出願手続きからビザ申請、渡航手配までサポートしてくれます。

なお、中国の医学部では入学後1~2年次は基礎科学や語学(中国語)中心で、3年次以降から本格的な医学専門課程に入るカリキュラムが一般的です。英語コースでも臨床実習は中国の病院で行うため、在学中に中国語を習得し現地患者とコミュニケーションできるようになることが求められます。この点、日本人学生にとっては英語と並行して中国語を学ぶ負担がありますが、逆に語学力を英中二言語で伸ばせるメリットとも言えます。

その他の国・地域の入学要件

東欧のその他国(ポーランド、ルーマニア等)も基本的には6年制英語医学課程で、高校卒業+独自入試(理科・英語)という流れはハンガリーやチェコと共通です。予備コースを持つ大学もあり、留学生受け入れのノウハウが蓄積されています。英語圏の医学部(英国・オーストラリア等)は現地生と同じ入試を経る必要があり、非常に高いAレベルや試験スコアが要求されます。また米国・カナダについて言えば、現地で大学を出てからでないと医学部に進めず、留学生への奨学金も少ないため、現実的な選択としてはあまり考えられていません。

✓準備のポイント: 海外医学部の入試は、日本の大学受験とは科目構成や形式が大きく異なります。多くの場合「英語+理科2科目」が問われ、しかも英語で理科を解答しなければなりません。したがって、高校レベルの理科知識を英語で説明できる力をつけることが重要です。また出願書類(志望理由書や推薦状)を英語で用意する必要もあります。独学で情報収集・準備することも可能ですが、各国の制度に精通した留学支援機関や医学部進学予備校を活用することで、最新情報の入手や試験対策を効率よく行えます。

海外医学部へ進学するメリット

海外の医学部に進むことは、単に「日本の医学部に入れなかったから」という消極的理由だけでなく、将来を見据えた積極的なメリットも多々あります。ここでは主要なメリットを整理します。

入学の門戸が広い:日本の医学部入試は倍率が非常に高く、わずかな定員を多くの受験生が争います。それに比べ、海外医学部は比較的入りやすいところが多く、学力や適性があればチャンスを掴みやすいです。特に東欧やフィリピン、中国などでは、日本の私立医学部よりも低い偏差値層から合格者が出ています。「医師になるためのスタートラインに早く立てる」ことは大きなメリットです。※ただし「入りやすい」からといって誰でも簡単に合格できるわけではなく、十分な準備は必要です。

学費負担の軽減:海外医学部は総じて学費が安い傾向があります。例えばハンガリーの医学部の学費は年間約120~250万円程度で 、生活費を含めても年間300~400万円ほどに収まります。イタリア国立医学部に至っては年数十万円程度と破格で 、条件次第で更に減免や免除も可能です。フィリピンも医学部4年間の授業料はトータルで日本の国立大学医学部と同程度かやや安いくらいで 、私立医学部に比べ大幅に経済的負担が軽減されます。学費のために医学部進学を諦めていた人にも道が開けます。

グローバルな視野と語学力:海外で医学を学ぶことで、国際的な医療観や多様な文化背景を持つ患者・同僚との交流を通じた人間的成長が期待できます。授業言語が英語であるため医療英語が習得でき、将来国際医療協力や海外での勤務を志す際に大きな強みとなります。また現地語も日常生活や臨床実習で習得できるので、英語+αの語学力が身につきます。「医学知識だけでなく人間的にも成長できる」環境は海外医学部ならではです 。

多様なキャリアの可能性:海外の医学部を卒業すると、その国や地域の医師資格が得られるため、国際的なキャリアの選択肢が広がります。例えば東欧の大学を出ればEU内で医師として働けますし 、フィリピンの卒業生は上位成績者がアメリカやイギリスなどの医師国家試験に挑戦し、海外で働くケースもあります。日本の医学部を出た場合、どうしても日本国内でのキャリアに限られがちですが、海外で学べば「日本+留学先+第三国」の中から自分の活躍の場を選びやすくなります。

再チャレンジ・セカンドキャリア:一度別の道に進んだ人が医師への夢を諦めず挑戦できるのも海外医学部の良いところです。フィリピンや東欧の医学部では年齢や経歴に関係なく入学が認められます。実際、社会人や他学部卒業後に入学する学生も多数います。日本では年齢が上がるほど医学部受験が不利になる傾向がありますが、海外なら「もう一度医師になる夢に挑戦できる」環境があります 。

日本の受験戦争回避:長年の浪人生活や予備校通いから解放され、早めに医学の勉強を開始できるのもメリットです。日本の医学部入試は精神的・時間的な負担が大きく、必ずしも勉強が好きな優秀な人でも合格できるとは限りません。その点、海外進学という選択肢を取れば、受験競争のストレスを減らしつつ医師への道を歩み始めることができます 。

海外医学部進学の注意点・デメリット

一方、海外で医学を学ぶことには日本国内進学にはないリスクや注意点も存在します。事前によく理解しておきたいポイントを挙げます。

進級・卒業の難易度:海外医学部は「入るのは易しいが出るのは難しい」と言われることがあります。実際にハンガリーなどでは留年や退学が珍しくなく、大量の試験で学生をふるいにかけるシステムです。入学後に厳しい勉強についていけず途中で断念するケースもあります。ある調査では、「留学エージェントが入学しやすい大学を斡旋した結果、入学はできても退学するケースが頻発している」と指摘されています。したがって安易な気持ちで入学せず、入学後も継続して努力する覚悟が必要です。特に言語の壁と専門科目の習得を両立させる大変さは想像以上で、現地での自己管理能力と粘り強さが求められます。

言語・文化の壁:英語で高度な医学知識を学ぶこと自体が大きなチャレンジです。専門用語や解剖学など難解な英単語を理解しなければならず、最初は苦労するでしょう。また臨床実習では現地の患者さんと現地語で会話する場面もあります。例えばイタリアならイタリア語、東欧なら各国の言語、フィリピンでも地方ではタガログ語が必要になることがあります。授業は英語でも、病院実習では現地語というケースは多いため、その語学習得にも取り組まねばなりません。加えて生活習慣や文化の違い、治安の問題にも適応する必要があります。フィリピンでは東南アジア特有の暑さやインフラ事情(豪雨時に交通麻痺など)に戸惑うかもしれません 。治安も都市によっては日本ほど安全でない地域もあるため、自己防衛意識を持つことが大切です。

日本の国家試験とのギャップ:最大の注意点は卒業後に日本の医師国家試験にストレートに進めない可能性があることです。海外で医学を学ぶということはカリキュラムや言語が日本と異なるため、そのままでは日本の国試合格に必要な知識や対策が不足しがちです。実際、日本の医師国家試験の合格率を見ると、国内医学部卒業生が平均90%以上合格するのに対し、海外医学部卒業生からの合格率は平均で50%前後と大きく差があります。ある年のデータでは日本国籍の海外医学部卒受験者35名中14名合格、合格率40%という報告もあります 。日本の医学部に入れればあとは「レールに乗れば大丈夫」ですが 、海外組は帰国後に独自のハードルを越える必要があります。このギャップを埋めるには、在学中から日本の国試傾向を意識して勉強したり、卒業後に予備校で国試対策講座を受けたりと追加の努力・時間が求められます。

ライセンスの問題:外国で取得した医学の学位が必ずしも日本で通用するとは限りません。詳細は後述しますが、日本で医師になるには厚生労働省の審査を経て受験資格を得る必要があります 。大学によっては教育年限やカリキュラムが日本基準を満たさず、最悪の場合「国家試験受験資格なし」と判定されるリスクもゼロではありません。どこの国のどの大学でも良いわけではなく、将来日本に戻る可能性があるならできるだけ日本の認定基準を満たした大学**を選ぶことが重要です。一般に東欧の6年制課程は認定されやすいですが、フィリピンのように4年制課程の場合は予備試験経由になるなど扱いが異なります。この点も承知しておく必要があります。

生活面の負担:18歳前後でいきなり海外で生活することになるため、ホームシックや孤独感に悩む可能性があります。家族と離れ、自炊や現地での住居探しなども自分で行うため、生活力が鍛えられる反面、メンタル面のケアも大事です。近年は日本人留学生同士のコミュニティもできつつあり、情報交換しながら乗り越えているようですが 、異国の地で慣れない言語に囲まれ勉強漬けの日々は相応のストレスです。強い意志とセルフマネジメントが要求されます。

将来計画の明確化:海外で医師免許を取った後、どこで働くか早めに考えておく必要があります。たとえば現地でそのまま研修・就職したいなら現地語習得や現地の国家試験対策が必要ですし、日本に戻るなら上述の通り別途準備が必要です。漠然と留学すると卒業時に進路で迷うことにもなりかねません。メリットの裏返しでもありますが、選択肢が多い分、自分で道を切り拓く積極性が必要と言えます。

以上のように、海外医学部進学はメリットとデメリットの両面があります。成功の鍵は「事前によく調べ、入学後も計画的に努力し続けること」に尽きるでしょう。

卒業後のキャリアパス:海外医学部を出た後は?

海外の医学部を卒業した後、医師としてのキャリアは主に(A)卒業国または他の国でそのまま医師として働く道と、(B)日本に帰国して日本の医師免許を取得して働く道の2つに大別できます。それぞれについて考えてみます。

卒業した国・第三国で医師として働く

海外定着を選ぶ場合、まずは卒業国の医師免許を取得するのが一般的です。多くの国では、医大卒業と同時に国家試験合格または臨床研修修了をもって医師免許が付与されます。例えばチェコやハンガリーでは6年次に国家試験に合格すれば卒業と同時にEUで通用する医師資格が得られます。この資格により、本人の希望次第でEU各国で研修医・医師として働くことが可能になります。実際、チェコの卒業生は大半が母国に戻って初期臨床研修を受けるか、ヨーロッパに残ってキャリアを積んでいるとの報告があります。

フィリピンの場合、卒業後に1年間のインターンシップ(卒後臨床研修)を終えることでフィリピンの国家試験受験資格が得られ、試験合格で医師免許取得となります。フィリピン人学生の多くはそのままフィリピン国内で医師になりますが、成績上位の約10%は米国や英国など英語圏の医師国家試験に挑戦して海外で働くケースもあります。このように、英語で医学を学んだ経験は米国USMLE試験などへのチャレンジにも繋がっています。

中国の大学を卒業した場合、基本的に中国国内の医師資格試験(中国医師資格試験)に合格することで医師免許を取得できます。ただし留学生が中国でそのまま働くハードルは高く、近年は卒業後に他国のライセンス取得に挑戦する留学生も多いようです。例えば、卒業後に米国のUSMLEステップ試験をクリアして米国の臨床レジデンシーに進む道や、オーストラリアやシンガポールなどで研修医ポストを得る道などがあります。中国の温州医科大学はWFME認証校であり、その卒業生は2024年以降もECFMG認定を通じて米国受験資格を維持できるとされています。

まとめると、海外医学部卒業後はその国で医師になる別の国の試験に合格して医師になるかの選択になります。EU加盟国の医学部卒ならEU内の移動性が高く、アメリカ型の医学部卒なら英語圏諸国へのアプローチがしやすいといった利点があります。もちろん各国で追加の試験や研修を経る必要はありますが、「世界を舞台に医師として働く」ことも現実的な選択肢となるでしょう。

日本で医師免許を取得して働く

多くの日本人留学生にとっては、最終的に日本で医師になることが目標となるでしょう。この場合、避けて通れないのが日本の医師国家試験に合格することです。ただし日本の国試を受験するには前提として厚生労働省による受験資格の認定を受けなければなりません。具体的なプロセスは次章で詳述しますが、概要を述べると以下の流れになります。

1. 厚生労働省への書類申請:卒業した大学のカリキュラム、卒業証明、現地の医師免許の有無などをまとめた書類を提出し、自分に医師国家試験の受験資格が認められるか審査を受けます 。大学が日本の基準(教育年限・履修時間数など)を満たしている場合でも、最終的には個別審査となり申請者によって認定結果が異なり得ます。

2. 認定区分の決定:審査の結果、「①本試験直接受験資格」または「②予備試験受験資格」あるいは「③認定不可(受験資格なし)」のいずれかに判定されます。東欧の6年制で現地の医師免許も取得しているようなケースでは①が与えられることが多く、4年制課程卒業で現地ライセンス無しなどの場合は②になる傾向があります。認定基準の詳細は後述します。

3. 予備試験(該当者のみ):②予備試験ルートと判定された場合、いきなり国試本試験は受けられません。まず医師国家試験予備試験という試験に合格する必要があります。予備試験は一次(筆記・CBT形式)と二次(実地試験・OSCE形式)から成り、医学部4年次相当の知識・技能を問うものです。合格率は低く、特に外国人にとっては日本語で行われる筆記に苦戦するとも言われます。

4. 臨床修練:予備試験に合格した者は1年以上の臨床修練(実地修練)を日本の指定病院で行う必要があります。これはいわば日本の臨床現場に慣れるためのインターンのようなもので、実地修練を終了して初めて医師国家試験の受験資格が得られます。

5. 国家試験受験・合格:年1回実施される日本の医師国家試験本試験を受験し、合格すれば医師免許取得となります。

上記のように、日本で医師になるには時間と手間がかかります。しかし近年、東欧など認定扱いの大学を卒業した場合は予備試験を経ずに直接国家試験を受けられるケースも増えており、その分スムーズになりつつあります。例えばチェコのマサリク大学やカレル大学は日本の受験資格基準を満たしている大学とされ 、卒業生は個別審査ののち直接国試受験が認められることが多いようです(※それでも絶対ではなく法改正等の影響は受けます )。ハンガリーの4大学も同様に基準を満たすと公式に言及されています。

日本の医師国家試験に合格すれば、あとは日本の医学部卒業生と同じく2年間の初期臨床研修(いわゆる研修医)に進み、その後は各科専門医を目指すなどキャリアを積んでいきます。実際に海外医学部を卒業して帰国後に日本の国試に合格し、医師として活躍している人々も既に存在しています。ハンガリー国立大学医学部進学プログラムの卒業生実績によれば、2024年2月実施の第118回医師国家試験ではハンガリー医学部卒業の日本人38名が合格したと報告されています。年々、海外卒で国試合格する人は増加傾向にあり、日本国内でも少しずつ認知が高まっています。

もっとも前述の通り国内組に比べれば合格率は低めであるため、海外在学中から日本の国家試験を見据えた勉強を取り入れるなどの工夫が必要です。また国試対策に関しては、ハンガリー日本事務局などが卒業生向けに国試対策講座を提供していたり 、海外医学部卒業生同士で勉強会を開いたりといった動きもあります。卒業後に予備校に通い直して合格を勝ち取った例もあります。いずれにせよ、「海外で医学を学んだけれど最終的に日本で医師として働く」ことも充分可能であり、実績も積み重なっていることは強調しておきたいポイントです。

日本の医師免許を取得するためのプロセス【厚労省の制度と成功例】

前節で概要を触れた、日本で医師免許を取得するための手続きについてここで整理します。特に厚生労働省の定める認定基準予備試験制度に焦点を当て、どのような条件を満たせば日本の国家試験を受けられるのか説明します。

厚生労働省による受験資格認定制度

日本の医師法では、外国の医学校を卒業した者が医師国家試験を受けるには厚生労働大臣の認定が必要と定められています。この認定は提出書類による審査で行われ、前述したように「本試験受験資格」または「予備試験受験資格」または「資格なし」が判定されます。

審査における主な認定基準は厚労省から公表されており、以下の項目がチェックされます 。

①医学教育の年限・課程: 医学教育として6年以上の一貫教育を受けているかどうか(進学課程2年以上 + 専門課程4年以上 = 合計6年以上)。5年制の場合は総履修時間数が5,500時間以上あれば6年相当とみなす特例があります。予備試験ルートの場合は5年以上・専門課程4年以上かつ3,500時間以上が最低条件です。また高校卒業から医学部卒業までの通算年数も見られ、直接資格なら18年以上(5年制なら17年以上)、予備試験資格なら17年以上が必要とされています。

②卒業後年数: 卒業後10年以内であること(ただしその間医業や医学教育に従事していた期間は除外)。あまりにも昔に卒業していると医学知識が古くなるため、このような規定があります。

③教育環境: 卒業大学の教育環境(附属病院の有無や教員数など)が日本の大学と同等レベルであること。予備試験ルートの場合は「日本の大学より劣っていないこと」と少し緩和されています。

④公的な承認: その医学校が所在国の政府や国際機関で正式に認められた機関であること。具体的にはWHOの世界医学部名簿(World Directory of Medical Schools)に掲載されていることが要件になっています。

⑤現地の医師免許取得: 卒業後に当該国の医師免許を取得していることが望ましい(直接資格認定には必須)。予備試験ルートでは未取得でも構いません 。

⑥日本語能力: 留学生など日本の中高を卒業していない者には日本語能力試験N1合格が求められます。これは日本人には該当しないケースですが、外国籍の方が受験する場合のハードルです。

以上を満たしていれば本試験受験資格が認められ、5番の現地免許が無いなど一部基準を満たさないが大枠問題ない場合は予備試験資格となります。例えば、ハンガリーやチェコの6年制卒業生で現地の医師免許も取得済みなら①~⑤を概ね満たすため本試験OKとなりやすいです。一方、フィリピン卒業生は4年制課程(進学課程は別途あるが一貫教育とはみなされない)なので①を満たさず予備試験ルートになるのが通常です。

※なお、どんな大学でも卒業すればよい訳ではなく、基準を満たさない大学を卒業しても受験資格すら得られない点は強調すべきでしょう。「安易にどこの医学部でもいいと飛びつかず、将来を見据えて大学選びをする」必要があります。

医師国家試験予備試験とは

予備試験は上述の通り、本試験を直接受ける資格がない人のための踏み台試験です。年1回実施され、一次試験(筆記)と二次試験(実地)があります 。

一次試験(筆記): 出題範囲は医学部で学ぶ基礎・臨床医学全般ですが、その水準は国家試験本番よりやや低く、どちらかといえば共用試験CBT(Computer Based Test、医学部4年次に課される全国共通試験)程度とされています。マークシート形式で行われ、日本語で解答する必要があります。科目は解剖学、生理学、内科学、外科学、産婦人科学、小児科学、社会医学など幅広く、合格基準は公表されていませんが毎年15%前後の合格率と言われます。

二次試験(実地): 一次合格者のみ受験可能です。模擬患者を用いた診察や、医療面接、手技の基本(バイタル測定など)および医学知識の口頭試問等が行われます。いわゆるOSCE(客観的臨床能力試験)の形式です。こちらも日本語で実施され、日本の医学生が大学で受けるOSCE試験に準じた内容です。

予備試験に合格すると、前述の1年間の臨床修練(研修医見習いのようなもの)を経てから国家試験本試験の受験資格が得られます。この流れを踏むのは主にアメリカやフィリピンなど非6年制課程出身者や、現地免許を取らずに帰国したケースです。予備試験はハードルが高いため、可能であれば現地で医師免許まで取得して直接本試験を狙うほうがスムーズと言われます。

海外医学部卒業生の日本での成功例

すでに幾人もの先輩がこのプロセスを経て日本で医師になっています。その一例として、ハンガリー医学部卒業後に帰国し国家試験に合格したAさん(仮名)のケースを紹介します。

Aさんは日本の高校卒業後、ハンガリーのセメルワイス大学医学部に入学。英語での授業と現地での実習に苦労しつつも6年間で卒業し、ハンガリーの国家試験にも合格。EUの医師免許を取得しました。帰国後すぐに厚労省に書類申請を行い、認定の結果予備試験免除で国家試験受験資格が認められました。Aさんは在学中から日本の医師国家試験対策本で独学していたこともあり、卒業翌年の国試に見事一発合格。その後は日本の大学病院で初期研修を開始し、現在は消化器外科の医局に所属して専門医取得を目指しています。Aさん曰く「海外で学んだおかげで英語論文への抵抗がなく、国際学会発表も任されるなどむしろ強みになっている」とのこと。国試勉強は大変だったものの、「ハンガリーで学んだ基礎医学の深い理解が役に立った」と振り返っています。

他にも、チェコのマサリク大学卒業後に帰国し、予備試験を経て国試合格・現在日本の病院で研修中の方や、フィリピンのセブ医科大学を卒業し予備試験合格後に国試もパスして地域医療に従事している方など、成功例は年々増加しています。厚労省の発表によれば、平成30年代には毎年100~200人規模の海外卒業生が国家試験を受験し、その半数前後が合格している状況です。

重要なのは、「海外で卒業しても日本で医師になれる」という道筋がきちんと制度化されていることと、そのために自分が何をすべきか計画しておくことです。特に在学中から日本語の医療知識をキープすること、帰国後は予備校や勉強会で最新の試験傾向に触れることなどが成功のカギとなります。厚労省も外国医学部卒業者向けに情報サイトを公開し、予備試験の案内等を行っています 。制度を正しく理解し、粘り強く努力を続ければ、海外で得たものを活かしつつ日本で医師として活躍することは十分に可能なのです。



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