医学部への進学には非常に高額な学費がかかります。他学部に比べて6年間の在学期間が長く、国公立大学医学部では6年間で平均約350万円、私立大学医学部だと平均約3,200万円にものぼります。
例えば私立医学部の中でも学費の安い国際医療福祉大学でも6年間で約1,850万円必要とされるなど、私立医学部の学費は大学によって2,000万~4,500万円前後と大きな差があります。こうした経済的ハードルの高さから、多くの医学部志望者が奨学金制度の利用を検討しています。実際にある私立医学部(昭和大学)では全学生の約25%が何らかの奨学金制度を利用しているとのデータもあります。
ここでは、医学部受験生の保護者や再受験生に向けて、医学部進学に活用できる奨学金制度の全体像を信頼性の高い情報源に基づき解説します。高額な学費への対策として利用できる国の奨学金、公的機関や大学独自の奨学金、返済時の注意点まで網羅してご紹介します。
目次
日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度
まず、多くの学生が利用する日本学生支援機構(JASSO)の奨学金についてです。JASSOの奨学金は大きく分けて「貸与型」(卒業後に返済が必要なもの)と「給付型」(返済不要のもの)の2種類があります 。貸与型にはさらに第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)があり、それぞれ条件や貸与額が異なります。
第一種奨学金(無利子)
月額貸与額は自宅通学の場合で最大54,000円、自宅外(下宿)の場合で最大64,000円と比較的少額ですが、利息が付かないのが特徴です。ただし高校での成績(評定平均値3.5以上など)や保護者の収入に厳しい制限があり、成績優秀かつ家庭の収入条件を満たす学生が対象となります。
第二種奨学金(有利子)
月額貸与額は3万円~12万円の範囲で選択でき、私立大学医学部・歯学部の学生の場合は上限16万円まで増額可能です。利息は在学中はかかりませんが、卒業後に年利最大3%程度(通常1.5%程度)の利息が付加されます。第一種よりも成績基準は緩く(原則「平均以上」の成績)、収入基準もゆるやかなので、多くの学生はこちらを利用します。
第一種・第二種は併用貸与も可能で、条件を満たせば同時に両方の奨学金を受け取ることもできます (ただし第一種の基準が厳しいため、私立医学部で両方利用できる家庭はかなり限られます )。また、JASSOの奨学金は予約採用(大学入学前に高校経由で申し込み審査を受ける)と在学採用(大学入学後に大学を通じて申し込む)に分かれています。高校在学中や浪人生の段階で奨学金を予約しておけば、医学部入学と同時に貸与を受け取ることも可能です。※なお、再受験生の方など高校卒業から2年以上経過している場合は予約採用の対象外ですが、日本学生支援機構に直接問い合わせて在学採用で対応することもできます。入学後に奨学金を利用できるよう、高校卒業程度認定試験の合格者や既卒者でも募集時期を逃さないよう注意が必要です。
入学時特別増額貸与奨学金(入学時一時金)
JASSOの貸与型奨学金には、上記の月額とは別に「入学時特別増額貸与奨学金」と呼ばれる一時金の制度もあります。これは入学初年度にかかるまとまった費用(入学金や前期授業料など)に対応するためのもので、10万円~50万円の範囲で入学時に一括貸与されます。ただし日本政策金融公庫の「国の教育ローン」等から借り入れができない場合に限り利用可能で、申込時にそちらの利用可否も確認されます。医学部は初年度に数百万円単位の納付金が必要になるため、この制度もうまく活用することで入学時の負担を軽減できます。
給付型奨学金(高等教育修学支援新制度)
従来、JASSOの奨学金は貸与型(事実上の学生ローン)が中心でしたが、近年は返済不要の給付型奨学金も拡充されています。特に2019年度に導入された高等教育修学支援新制度では、住民税非課税世帯など経済的に厳しい家庭の学生を対象に、授業料減免と給付型奨学金を組み合わせた支援が行われています。この制度の対象として認定された医学部生であれば、入学金・授業料の全額または一部免除に加えてJASSOから給付型奨学金(月額数万円の生活費補助)の支援を受けることが可能です。具体的な支給額や免除額は世帯収入などの区分によって異なり、国公立大学の授業料相当額を上限に支援が行われます。私立医学部の場合、学費が国公立の水準を超える部分については自己負担となるものの、それでもこの制度により年間数十万円~百数十万円程度の支援を受けられるため、大きな助けとなります。詳しい条件や申請方法は文部科学省やJASSOの公式サイトで公開されています。
★ポイント:JASSO奨学金は最も利用者が多い奨学金制度であり、医学部生も多数利用しています。手続きのスケジュールに注意し、高校在学中から予約申請を検討しましょう。また給付型奨学金の対象となる場合は返済負担を大幅に減らせるため、該当しそうな場合は必ず学校や機構に確認してください。
地方公共団体による医学生向け奨学金(地域枠制度など)
国の奨学金以外にも、各都道府県や自治体が医学生向けに独自の奨学金(修学資金)を貸与する制度が多数存在します。これらは一般に「地域枠奨学金」「医師修学資金制度」などと呼ばれ、将来その地域の医療に貢献する意思のある医学生に対して自治体が学費や生活費を貸与するものです。特徴的なのは、一定の条件を満たせば返還(返済)が免除される点です 。例えば大阪府の地域医療確保修学資金では、「将来大阪府内の救急医療や周産期医療等の分野で働く」という条件のもと、在学中の学費・生活費の貸与を受け、所定の医療分野に一定期間従事すれば返還が免除される仕組みになっています。このような制度は医師不足地域や特定分野の医師確保を目的としており、卒業後に対象地域の医療機関で○年間勤務するといった義務を果たすことで、実質的に返済不要の奨学金となります。
各自治体の制度によって貸与額や勤務義務期間、募集人数は様々ですが、私立医学部の学費全額あるいは大部分をカバーできる高額の貸与が受けられるケースが多いです。例えば東北地方のある県では月額20万円の奨学金を6年間貸与し、卒業後9年間の県内勤務で全額返還免除とする制度があります。また自治医科大学のように入学者全員が都道府県からの修学資金貸与を受け、卒業後9年間の地域医療従事で返還免除となる特殊な大学もあります。
地方自治体の奨学金を利用するメリット・デメリット
条件を満たせば多額の学費負担が実質ゼロになるという大きなメリットがありますが、その反面、卒業後の進路が一定期間拘束される点には注意が必要です。例えば希望する診療科にすぐ進めなかったり、指定地域以外で働けない期間が生じます。また万一条件を途中で満たせなくなった場合(途中で勤務を辞めた場合など)は、貸与額を利子付きで返還しなければならないケースもあります。将来のキャリアプランと照らし合わせ、無理なく履行できる場合に活用すると良いでしょう。自治体の募集情報は各都道府県庁や市町村の公式サイト、大学の入試要項などで公表されていますので、志望する地域の制度を早めに調べておくことをおすすめします。
★ポイント:地域枠の奨学金は「学費を肩代わりしてもらう代わりに地域医療に貢献する」という社会的意義のある制度です。経済的負担軽減だけでなく、将来的に地元で医師として働きたいという意思がある場合には積極的に検討しましょう。募集人数が限られているため、入試時に地域枠での受験が必要なケースも多い点に注意してください。
私立医学部の大学独自奨学金・特待生制度
多くの私立医学部では、大学独自の奨学金制度や特待生制度も整備されています。これは大学が独自の財源や寄附金を活用して学生に給付・貸与する奨学金で、成績優秀者や経済的支援の必要な学生に対して授業料を減免したり資金を給付するものです。
入試成績優秀者に対する特待生(授業料減免)
一部の私立医学部では、入学試験の成績上位者に対し初年度ないし在学中の授業料を全額または半額免除する制度があります。例えば東京医科大学では一般入試の成績上位合格者を対象に「授業料減免制度」を用意しています(初年度授業料を大幅免除)。また昭和大学医学部でも、一般入試の成績上位者を「昭和大学特別奨学生」として選抜し、学費を免除する制度があります。こうした制度は入試時の順位によって自動的に適用されるため、経済支援と学力向上の双方を目的としています。
在学生の成績優秀者奨学金
入学後も、各大学で成績上位の学生に奨学金や表彰金を給付する制度が存在します。例えば昭和大学の「シンシアー奨学金」は医学部2~4年次の成績優秀者を対象に、その年度の授業料相当額を給付する奨学金です。定員は各学年数名と限られますが、学業成績と課外活動で優れた学生に対し年間学費を全額カバーする手厚い支援となっています。他にも各大学で学内成績上位者への奨励金、研究奨学金など様々な名称の制度があります。
大学独自の経済支援奨学金
私立医学部の中には、経済的理由で修学が困難な学生に対し独自に貸与・給付を行う奨学金を設けているところもあります。たとえば獨協医科大学では大学独自の「特別奨学金」(給付)や「桜杏会(同窓会)奨学金」など複数の制度を用意し、学費の一部または全額を援助しています。また日本医科大学では「父母会奨学金」として在学生の保護者会からの基金で無利子貸与を行っています。このように大学ごとに名称や資金源は異なりますが、経済的理由による退学者を出さないためのセーフティネットとして機能しているものが多いです。
大学独自奨学金の情報は各大学の入学案内や学生生活案内のページに掲載されています。給付型(返済不要)か貸与型(卒業後返済)か、対象者の条件(成績順位・家計基準など)、給付額や貸与額、募集時期などを確認し、自分が該当しそうな制度には積極的に応募すると良いでしょう。特に特待生制度は合格発表と同時に授与が決まるケースもあり、事前の出願時にエントリーが必要な場合もあります。
★ポイント:私立大学の奨学金・特待生制度は大学ごとに内容が大きく異なるため、志望校ごとに情報収集が不可欠です。学費負担を軽減できるチャンスですので、見落としのないよう各大学の公式発表をチェックしましょう。入試難易度だけでなく学費支援制度の充実度も、大学選択の重要な観点になり得ます。
奨学金の返済と注意点
奨学金を利用して医学部を卒業した後には、返済に関する計画と注意が必要です(給付型奨学金を除く)。特に貸与型奨学金を多額に借りた場合、卒業後の返済額も大きくなります。例えば私立医学部でJASSO第二種奨学金を満額近く借りた場合、6年間で総額1,000万円以上の貸与となるケースもありえます。その場合、卒業後の返済期間は通常月賦で20年程度にも及び、利息を含めて長期にわたり家計に返済を計上していく必要があります。実際、日本学生支援機構から約2,160万円の奨学金を借りたある医師は、卒業後も「遠回りな人生」と表現するほど返済に追われたという事例があります。医師は一般的に高収入とされますが、研修医のうちは年収がそれほど高くない場合もあり、奨学金の返済が生活に与える負担は決して軽視できません。
返済を円滑に行うためのポイント
返済スケジュールの把握
日本学生支援機構から貸与を受けた奨学金は、通常卒業の翌月から返還が始まります(据置期間の設定も可能)。自分が借りた総額と利息、返済期間から月々の返済額を算出し、収入とのバランスを確認しましょう。機構からは返還予定表が交付されますので、計画的に資金管理することが大切です。
所得連動返還型制度の活用
近年JASSOでは、新たに所得連動返還型奨学金制度(所得に応じて年毎の返還額が変動する制度)も導入されました。一定の条件下で選択できますので、収入が低い初期研修医の時期などに返済負担を軽減する仕組みとして検討できます。
返還猶予・減額制度
病気や留学、経済的理由で返済が困難になった場合、日本学生支援機構には返還期限猶予や減額返還といった救済制度があります。医師として研修中に収入が不足する場合や、専門医取得のため留学するような場合には、事前に相談することで返済を一時的に止めたり減らしたりすることも可能です。返済に困ったら放置せず、速やかに機構に相談しましょう。
延滞のリスク
奨学金の返済を滞納すると、延滞金が発生したり、個人信用情報(いわゆるブラックリスト)に登録され、将来のローンやクレジット利用に影響が及ぶ恐れがあります。医師として働き始めてからの信用にも関わる問題ですので、延滞だけは避けるよう計画しましょう。
地方自治体の修学資金を利用した場合も、約束通り勤務しなければ返還義務が生じる点に注意が必要です。万一、定められた勤務年限を全うできなかった場合は、それまで借りた額に加え利息や違約金を上乗せして返済しなければならないことがあります。将来設計が変わる可能性も見据えて、最悪の場合返せるだけの資金計画も頭に入れておくと安心です。
奨学金制度を上手に活用するために
ここまで医学部の奨学金制度について幅広く見てきました。国の制度から地方自治体、大学独自の奨学金まで、多様な選択肢がある一方で、それぞれ応募時期や条件、返済条件も異なるため、ご家庭だけで最適なプランを立てるのは容易ではありません。また、奨学金の活用は経済面の問題だけでなく、卒業後のキャリアにも関わる重要な決断です。
奨学金を賢く利用するためのポイント
情報収集を早めに行う
入試情報とともに各種奨学金の募集要項をチェックし、出願や申請の時期を逃さないようにしましょう。特に予約採用型の奨学金や大学の特待生制度は入学前後に手続きが集中するため、受験勉強と並行して準備が必要です。
複数の制度を組み合わせて検討
学費全てを1つの奨学金でまかなう必要はありません。例えば「JASSO第二種+自治体修学資金」で学費と生活費をカバーし、さらに不足分は日本政策金融公庫の教育ローンを利用するといったように、複数の制度を組み合わせることも可能です。ただし将来的な返済総額も踏まえて無理のない計画にしましょう。
専門家に相談する
奨学金選びや返済計画について不安がある場合は、教育資金に詳しい専門家や予備校のアドバイザーに相談するのも有効です。医学部受験専門の機関では、最新の奨学金情報や各家庭の状況に応じたアドバイスを提供しています。プロの視点で検討することで、思わぬ制度の見落としを防ぎ、最適なサポートを受けることができます。
グリットメディカルでは医学部合格に向けた学習指導はもちろん、入学後の経済計画についてもサポートしています。豊富な知識を持つスタッフが、公的奨学金の申し込み手順の相談や、各大学の学費減免制度の紹介など、保護者の方と再受験生をバックアップします。経済的な不安を解消し、夢である医学部進学への道を着実に歩むためにも、ぜひ専門的なサポートを活用してみてください。
まとめ
医学部進学にかかる学費の高さゆえに、奨学金制度の活用は重要なテーマです。日本学生支援機構(JASSO)の第一種・第二種奨学金 や給付型奨学金 、自治体の地域枠奨学金 、私立大学の特待生制度 など、それぞれの特徴と留意点を述べています。大切なのは、自分の状況に合った制度を組み合わせ、将来を見据えた計画を立てることです。奨学金は上手に使えば心強い味方ですが、借りすぎれば卒業後の重荷にもなりえます。信頼できる公的情報 を参考に、家族とも十分話し合って検討してください。
グリットメディカルは専門性の高い情報とサポートを提供し、経済的な不安を乗り越えて志望校合格を勝ち取るお手伝いをしています。奨学金制度を正しく理解し活用することで、医学部への夢を実現する道は必ず拓けます。
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