奈良県立医科大学医学部医学科では、医学の学びに不可欠な英語力を重視したカリキュラムを編成しています。特徴的なのは、一般的な大学で必修となる第二外国語(ドイツ語やフランス語など)の授業を設けず、英語教育に重点を置いている点です。その代わりに欧米の文化に触れる科目を取り入れるなど、英語力の養成と国際的な教養の両立を図っています。以下、1年次から卒業まで年次ごとの外国語教育の内容と特徴を丁寧に説明します。
目次
1年次の外国語教育
英語(Academic English)基礎力養成
入学後まず取り組むのが英語の基礎力養成です。1年次前期・後期を通じて「英語I・II(Academic English I・II)」が必修科目として配置されており、各学期に2単位(各60時間)の集中した英語学習があります。これらの授業では、大学レベルの読解や文章表現、基礎的なコミュニケーション能力を養うことが目的です。ネイティブスピーカーを含む複数の外国人教員による指導が行われており、医学の専門教育に入る前段階で英語の運用能力をしっかり身につけられるよう工夫されています。高校までの英語から大学の学術的な英語へと橋渡しし、将来医学論文を読んだり国際的な場で意思疎通したりする土台を築く時期です。
第二外国語に代わる西洋文化教育
奈良県立医科大学では1年次に他大学のようなドイツ語・フランス語の語学クラスは必修として存在しませんが、その代替として「西洋文化論」という科目が後期に必修となっています。この講義ではドイツ文化・フランス文化・英語圏文化のいずれかについて学ぶ内容が用意されており(担当教員ごとにテーマ分担)、学生はいずれかのクラスで欧米文化の歴史や社会について学習します。例えばドイツ文化のクラスでは劇場文化や音楽史を通じてドイツ語圏の文化的特質に触れる講義が行われます。こうした文化教育を通じ、言語そのものの習得ではなく各国の背景や価値観の違い・共通点を理解することで、グローバルな感性を養う狙いがあります。英語運用能力の向上と並行して異文化理解も深めることで、将来医療人として国内外で活躍する視野を1年次から培います。
2年次の外国語教育
医科学英語(Medical Science English)
2年次になると、英語教育はより医学専門に近い内容へとシフトします。必修科目「医科学英語」では、医学・医療分野に関連した英語運用能力を養うユニークな授業展開がなされています。例えば、奈良県立医大の医科学英語では英語による即興型ディベート手法が導入されており、医療や社会問題に関するテーマについて英語討論を行います 。学生たちは「日本は安楽死を合法化すべきである」「オンライン診療を積極的に推進すべきである」といった医療に関わる論題について即興で肯定・否定の立場に分かれて議論し、英語で自分の意見を発信する訓練を積みます。ディベートでは与えられた論題に対しわずか15分で議論の立論準備を行い、各チーム20分ほどの英語討論に挑むという高度な内容ですが、この実践を通じて英語で論理的に考え発信する力や専門的な話題について議論する力が養われます 。担当教員や外部の有資格ジャッジによるフィードバックも専門的で、学生たちは「ディベートは楽しく、英語にも医学にも役に立つ」とその効果を実感しています。医科学英語の狙いは単なる語学力向上に留まらず、将来グローバル社会で活躍する医療人に必要な幅広い資質、例えば英語での発信力、論理的思考力、プレゼンテーション力、チームで協働する力等を総合的に育成することにあります。実際、奈良にいながら海外の医療専門家(卒業生を含む)による英語オンライン講義を受ける機会も設けられており、ロールモデルから刺激を受けられるのもこの科目の特色です。
選択制の英語強化プログラム
2年次には上記の必修英語科目に加えて、希望者対象の発展的な英語プログラムも用意されています。例えば「Advanced Clinical English I」という発展クラスが課外で開講されており、医療英語の応用力を更に高めたい学生が受講できます(※授業終了後の16:40~18:10に実施)。このようなクラスでは国際的な英語試験(IELTSやTOEFL)対策としてスピーキング・リーディング演習を行うパートや、ライティング・リスニング演習を行うパートに分かれる専門的指導が提供されます。加えて、必要に応じて基礎力補強のためのリメディアル(補習)英語クラスも用意され、学生一人ひとりのレベルや目的に応じたサポート体制が敷かれています。これらは成績評価に直結しない自由参加のプログラムですが、将来留学を視野に入れる学生や、更なる語学力向上を目指す学生にとって大きな助けとなっています。
3年次の外国語教育
医学・医療英語(English Communication in Medicine & Science)
3年次には「医学・医療英語」と呼ばれる必修科目が開講され、いよいよ専門的な領域で英語を使うための実践的スキルと心構えを養います。この科目は、医学会(学会発表)や臨床の現場で英語を用いてコミュニケーションを取る際の注意点や障壁(ピットフォール)を学ぶ内容になっています。現在の英語力そのものを試すのではなく、今後医師・研究者として遭遇しうる様々な場面で「どのように英語で伝えればうまくいくか」を考えさせる授業です。具体的には、「臨床や学会の場で英語をコミュニケーション手段として活用するには何が必要か」を考察し、「英語が通じない」と感じる状況の背景にはどんな要因(文化や考え方の違いなど)が潜んでいるかを理解することが目標に掲げられています。例えば日本語脳と英語脳の違いを認識し、英語特有の口語表現や多様性に気づくこと、さらに文化・社会的背景の違いがコミュニケーションに与える影響を知ることなど、言語運用だけでなく異文化コミュニケーションの観点を重視した内容です。このように3年次の医学・医療英語では、語彙や文法の学習よりもコミュニケーション力の質的向上に焦点が当てられており、英語で情報を発信・共有するときに起こり得る課題を理解して克服する力を養成します。これにより学生たちは、将来英語で患者や他国の医師と接するとき、単に言葉を知っているだけでなく相手に伝わるよう工夫できる姿勢を身につけることが期待されています。
発展英語プログラム(Advanced II)
2年次に引き続き、希望者向けの高度英語クラス「Advanced Clinical English II」も3年次に設定されています。こちらは医療英語のより高度な内容を年間を通じて学ぶ自由参加科目で、プレゼンテーション演習やディスカッション、医学研究に必要な英語スキル(論文抄読や抄録作成など)に重点を置いた指導が行われます。2年次までの必修科目で培った力をさらに専門的・実践的に発展させたい学生が、このプログラムを通じて語学力を研鑽しています。
4年次の外国語教育
4年次(医学科4年生)になると、医学部のカリキュラムは基礎医学から臨床医学へと本格的に移行し、日常の授業は専門科目や実習が中心となります。この段階では定例の外国語科目はカリキュラム上設定されていません。1〜3年次で完了した英語科目で培った力を各自が応用し、必要に応じて英語文献を読んだり国際的な医学情報を参照したりしながら専門課程を進めていく形になります。例えば講義によっては最新の医学論文(英文)が紹介されることもあり、自ら積極的に英語の資料に当たることが求められる場面も出てきます。英語教育は授業科目としてはいったん一区切りとなりますが、大学としても学生が自主的に英語力を維持・向上できるよう環境を整えており、語学学習支援のリソースや教員からのアドバイスなどバックアップ体制は引き続き用意されています。4年次は臨床実習開始前の準備期間でもあり、この時期に学生たちは英語で書かれた専門書・論文を読む力や、必要に応じて国際的なガイドラインを理解する力を各自で伸ばしていきます。こうした自主的な学習を通じて、英語をツールとして使いこなす意識がさらに醸成される年次と言えるでしょう。
5年次の外国語教育
医学科5年次からはいよいよ本格的な臨床実習(ベッドサイド実習)が開始されます。大学附属病院や関連病院で実際の患者さんを担当し、診療チームの一員として研修的な実習を行う忙しい日々となるため、語学の講義科目は設置されていません。しかし、奈良県立医科大学では国際的な臨床経験を積む機会も提供しています。希望者は5年次の臨床実習の一環として海外の提携病院や大学で臨床実習を行うことが可能で、大学も渡航費用の補助など支援制度を整えています。実際、近年は5年生の有志を海外の医療機関に派遣し、現地で数週間の実習を経験させるプログラムが拡大しており、令和時代の医学教育の特徴となっています。こうした海外臨床実習に参加する学生にとって、1〜3年次に培った英語コミュニケーション能力が大いに役立つのは言うまでもありません。現地の医師や患者とのやり取り、症例プレゼンテーションやディスカッションなど、英語で医学を実践する経験を通じて、更なる語学力の飛躍と国際感覚の醸成が図られます。また学内でも、海外実習に行かない学生を含め、最新の英文文献抄読会や英語症例報告会など任意参加の機会が設けられることもあり、5年次以降も英語に触れる環境づくりが工夫されています。つまり5年次は実地で外国語(主に英語)を活用する段階であり、講義での学習を実践力へと変える重要な時期となります。
6年次の外国語教育
医学科6年次は卒業直前の学年であり、引き続き臨床実習(クリニカル・クラークシップ)と医師国家試験に向けた準備が教育の中心となります。正式な英語の授業科目はありませんが、臨床実習の中で国外の最新知見に触れたり、将来の研修先・専攻先を見据えて海外文献を読んだりする機会が自然と生まれます。大学としても卒業時までに身につけておくべき英語力の目安を定めており、学生は各自そのレベルに達するよう努力することになります。例えば症例報告や卒業研究の論文を書く際には英語文献からの引用が不可欠ですし、指導教員から国際的な論文データベースの活用法を学ぶ場面もあります。奈良県立医科大学では、医学科の6年間を通じて培った英語力を卒業後も研鑽し続けることを奨励しており、希望者には引き続き海外留学の支援も行っています 。実際に卒業後、海外の医療機関で研修を積む先輩医師もおり、在学中に磨いた語学力がキャリア形成に活かされています。6年次までの集大成として、学生は英語で専門知識を収集・発信できる素地を完成させ、医師国家試験合格後には国際的な場でも活躍し得る新米医師として巣立っていきます。
おわりに
奈良県立医科大学医学部医学科の外国語教育は、伝統的な語学教育の枠を超えて実践的かつ国際的です。英語を中心に据えたカリキュラムによって、学生は早期から英語力を鍛え上げ、加えてドイツ語・フランス語圏の文化にも触れることで広い視野を養います。年次が進むごとに英語教育の内容も一般教養的なものから専門的・実践的なものへと段階的に深化し、卒業時には医学専門職として国際社会に対応できる語学力とコミュニケーション力が身についています。 これは受験生や保護者にとって、単に医師免許取得のためだけでなく将来世界に羽ばたく素地を大学で形成できる大きな魅力と言えるでしょう。奈良県立医科大学は、このように丁寧で充実した外国語教育を通じて、「良き医療人」を世界規模で育成することを目指しているのです。
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