医学部受験を目指す皆さんにとって、膨大な知識を効率よく暗記することは合否を左右する重要課題です。人間の記憶には「忘却曲線」という現象があり、何もしなければ新しい情報の約8割を1週間後には忘れてしまいます。この忘却に打ち克ち、効率的に暗記する鍵となるのが「思い出す」学習法、つまりアクティブリコール(積極的想起)です。今回は、アクティブリコールを活用して効率的に覚える4つの暗記法を紹介します。それぞれの特徴、向いている科目や用途、効果的な使い方のコツを詳しく解説するので、自分に合った方法を見つけてみましょう。
目次
フラッシュカード式の単語カード
フラッシュカード式の単語カードは、小さな暗記カードの表に質問や用語、裏に答えを書き、リングで束ねて持ち歩ける形式の暗記ツールです。カードをめくりながら自問自答することで、ただ文章を読むだけでなく脳に「思い出す」刺激を与えるのが最大の特徴です。このテスト形式の反復練習によって記憶の定着が強まり、教科書をただ読み返すよりも忘れにくくなることは多くの人が実感している通りでしょう。フラッシュカードは昔から子供から大人まで幅広く利用されてきた暗記の定番ツールで、スキマ時間にも手軽に活用できるのも魅力です。通学中やちょっとした待ち時間でもサッと取り出して勉強できるため、忙しい受験生にも最適です。
向いている科目・用途
フラッシュカードは一問一答形式で覚えるあらゆる科目に活用できます。例えば、英単語や古文単語などの語学系、理科の専門用語、生物の分類名、化学の元素記号、歴史の年号や人物名など、覚えるべき用語とその意味・内容を対にできるものに向いています。医学部受験では膨大な英単語や生物・地学の用語暗記が必要ですが、これらをカード形式にしておけば順番を変えて確認することも可能なので、語句の丸暗記だけでなくランダムに出題されても対応できる実力が付きます。また、公式や定理の証明、重要事項のQ&Aなどもカード化することで効率よく覚えられます。
効果的に使うコツ
- 間隔を空けて繰り返す: 覚えたカードも短時間で何度も連続して見るのではなく、少し時間を置いてから復習する「分散学習(間隔反復)」が効果的です。例えば、暗記した当日・翌日・1週間後…と徐々に復習の間隔を延ばすことで、長期記憶に定着しやすくなります。自分で復習タイミングを管理し、「忘れる前にもう一度思い出す」を意識しましょう。
- 苦手カードを重点的に復習: フラッシュカードの利点の一つは、覚えにくい項目だけを集中的に復習できる点です。一通りチェックしたら、正答できなかったカードや自信のないカードに印を付けたり別の束に分けたりして、繰り返し優先的に復習しましょう。得意なカードは復習頻度を下げ、苦手なカードは頻度を上げることで効率アップにつながります。
- 順番を入れ替えて暗記: カードをシャッフルして順番を変えながら確認する習慣をつけましょう。決まった並びで暗記していると、前後の文脈や順序で記憶してしまいがちです。ランダムな順番でテストすることで純粋な暗記力を鍛えられ、試験本番でも順不同の出題に対応しやすくなります。
- 時間をかけすぎない: カードは自作もできますが、自作に時間をかけすぎるのは禁物です。問題を書き写すのに熱中しすぎると本末転倒になりかねません。市販の単語カードや既存の単語帳を上手に活用したり、アプリを利用したりして効率化しましょう。もちろん、書いて作る過程自体が記憶につながる面もありますが、医学部受験のように時間との勝負ではバランスが重要です。
赤シートで隠す暗記法(赤文字シート暗記)
赤シートで隠す暗記法は、教科書や問題集の赤色で印刷された重要部分を赤いシート(下敷き)で覆い隠し、見えなくすることで暗記する方法です。市販の参考書や一問一答集などでは、最初から重要語句や解答が赤文字で印刷され、付属の赤シートで隠せるようになっているものも多くあります。赤シートを被せるだけで瞬時に穴埋め状態になり、自分で問題を解くように知識を思い出せるのが特徴です。この手軽さから、赤シートは学生なら一度は手にしたことがある暗記アイテムでしょう。読むだけの勉強になりがちな人でも、強制的に想起練習ができるため、受験勉強において定番となっています。
向いている科目・用途
赤シート暗記法は文章の中で重要語句を隠して覚えるのに最適です。社会科(歴史や地理)の用語や年号、理科(生物や化学)の専門用語、現代文や古文の重要キーワードなど、教科書や資料集に書かれた知識をそのまま暗記したい場面で威力を発揮します。例えば、日本史の一問一答集では出来事の名前や年号が赤字になっており、赤シートで隠して年号を答える練習ができます。また英単語帳でも、単語の意味や用例が赤字で書かれているものを隠してテストする、といった使い方が可能です。参考書の本文をそのまま問題化できるので、別途カードを作らずに済む点で忙しい受験生に向いています。
効果的に使うコツ
- まず理解してから使う: 赤シートに頼る前に、教科書や参考書の内容を一度しっかり読み込み、理解しておくことが大切です。最初から何でもかんでも隠してしまうと、文章のつながりや背景が分からないまま用語だけ暗記することになり、理解が伴わない恐れがあります。赤シートで覚えた点(単語)同士の関係や流れも把握するようにしましょう。
- 隠し過ぎに注意: やみくもに広範囲をマーカーで赤字にすると、シートで隠した際にページが真っ黒になってしまうこともあります。こうなると前後の手がかりが無くなり、かえって思い出しにくくなるので注意が必要です。著者が赤字指定した箇所以外は安易に隠さず、本当に重要なキーワードだけに絞りましょう。
- 繰り返しと間隔復習: 一度隠して答えられた内容も油断は禁物です。時間をおいて何度も赤シートで再テストし、記憶を定着させましょう。覚えた直後だけでなく翌日・数日後・1週間後…と忘れかけた頃合いに再度隠して解くことで、記憶に長く残りやすくなります。
- 間違えた箇所のチェック: シートで隠して答えられなかった箇所には印を付けておく、または別ノートにメモするなどして管理しましょう。次回以降、その印の付いた語句を重点的に見直すことで、効率よく弱点補強ができます。問題集であれば、赤字で答えを書き込んでおいて赤シートで隠すという方法もおすすめです。あらかじめ答えを書き込んでおけば、赤シートでさっと隠すだけで自己テストでき、答え合わせの手間が省けて効率アップにつながります。書き込む作業自体が良い暗記訓練にもなるので、一石二鳥の学習法です。
黒文字を赤マーカーで塗り緑シートで隠す暗記法
赤マーカー+緑シート暗記法は、自分で隠したい文字や図を赤系インクのペンで塗りつぶし、緑色のシートを重ねることでその部分を見えなくして暗記する方法です。緑のシートは赤系のマーカーで塗った部分を隠すことができるため、元々赤字になっていない教科書やノートでも自分で暗記用の仕掛けを作り出せるのが特徴です。写真のように、赤いシートと緑のシートを使い分けることで、それぞれの色でマークした部分を自在に隠すことができます。赤シート暗記と基本原理は同じですが、自分でマーカーを引く分、「ここが重要だ」という意識付けにもなり、能動的な学習スタイルに合っています。
向いている科目・用途
この方法は自分の手で書き込みながら覚える勉強法に適しています。例えば、問題集の解答を別冊で確認する代わりに、答えを赤ペンで書き込んで緑シートで隠すことで素早く自己採点できるようにしたり、教科書の重要用語に赤ペンで印をつけて緑シートで消しながら暗記したりする用途に向いています。書いて覚える派の人には特にオススメで、実際「書くことで覚える」というタイプの人にはこの方法が効果的だと言われています。また、英単語の暗記では単語を緑シートで、意味を赤シートでそれぞれ隠すように色分けしておくと、1つの単語帳で英→和・和→英の両方を練習できます。このように、セットで覚えたい情報(例えば用語とその定義など)を色違いでマークし、赤・緑シートを使い分けることで効率よく暗記することも可能です。
効果的に使うコツ
- 適切なペンを使う: 緑シートで確実に隠すには、赤シート用の赤系マーカー(オレンジに近い発色のもの)を使うことが重要です。普通の真紅のペンだとシートを被せても文字が薄っすら見えてしまう場合があります。市販の暗記用チェックペンセットに付属のペンを使うか、オレンジ系の水性ペンで優しく塗るようにしましょう。
- ハイライトしすぎない: 自分でマーカーを引けるからといって、一度に広範囲を塗りすぎないよう注意しましょう。隠す部分が大きすぎると、周囲の文脈から推測する手がかりがなくなり、覚えにくくなります。基本は短い語句や数字だけを塗るようにし、長い文章まるごと消すような使い方は避けてください。
- 書き込み式問題集で活用: 前述の通り、問題集の解答を書き込んで隠す方法は時間短縮に有効です。間違えた問題には日付を書いておくなど工夫し、後日また緑シートで隠して解き直しましょう。間違えた履歴を残すことで弱点が可視化され、重点復習がしやすくなります。
- 赤シートとの併用も検討: 必ずしも緑シート単独で使う必要はありません。前述の英単語の例のように、赤シートと緑シートを組み合わせて双方の色でマーキングしておくと便利です。赤インクで書いた部分は緑シートで、緑インクで引いた部分は赤シートで、と使い分ければ1冊のノートで2通りの隠し方ができ、学習の幅が広がります。
黒文字を緑マーカーで塗り赤シートで隠す暗記法
緑マーカー+赤シート暗記法は、暗記したい部分に緑色の蛍光ペンなどで線を引き、赤いシートを被せることでその部分を見えなくして覚える方法です。昔からある定番の暗記ペン活用法で、緑のマーカーで教科書の大事な箇所をなぞり、赤シートで隠して暗記するといった使い方になります。こちらも仕組みは同じく色の補色効果を利用したものですが、緑のマーカーは通常の蛍光ペンと比べて隠したい部分を完全に消せるよう濃いめの発色になっています。参考書の重要語句に線を引くだけで暗記用教材が作れる手軽さが魅力で、暗記シートとペンのセットさえあればすぐに始められる手法です。
向いている科目・用途
緑マーカー+赤シートは「暗記科目」と呼ばれる分野全般に有効です。英単語や古典単語の意味暗記、地理の地名や統計数字、生物の専門用語、歴史の用語や年号など、ポイントとなる語句を隠してチェックしたい学習に幅広く使えます。実際、英単語帳・用語集・年号集といった受験教材でも、自分で緑のシートを使って隠せるよう欄外に小さく答えが書いてあったりします。覚えたいキーワードだけをピンポイントで隠せるので、要点暗記に向いた方法と言えるでしょう。また、通学中の電車内など場所を選ばずさっと取り組めるのも利点で、医学部受験生のようにスキマ時間も活用したい人に適しています。
効果的に使うコツ
- 色が薄くなったら補充: 緑の蛍光マーカーは使っているうちにインクが薄くなり、赤シートで隠しても下の文字が見えてしまうことがあります。インクが薄く感じたら早めに塗り直すか、新しいペンに取り替えましょう。常にしっかり隠れる濃さを保つことがポイントです。
- 専用の暗記ペンを使う: 市販の暗記ペンセットには、赤シートで隠したときに見えなくなるインクのペンが含まれています。緑だけでなく青やオレンジのバリエーションもありますが、それぞれ発色や見え方が異なります。初心者のうちは定番の緑ペン+赤シートを使い、慣れてきたら青ペン(赤シート非使用時は普通の蛍光ペンのように読めるが、赤シートを被せると文字が読みにくくなる)など用途に応じて使い分けるのも良いでしょう。
- メリハリをつけて線引き: 赤シート暗記法では、とにかく教科書中の重要語にだけ絞ってマーキングすることが大切です。文章のほとんどを塗ってしまうと、赤シートを被せた際に何も読めなくなり勉強になりません。「ここだけは覚える!」という単語や数字だけに線を引き、メリハリのあるページ作りを心がけましょう。
- 原本を汚したくない場合: 教科書や参考書をマーカーだらけにしたくない人は、コピーやデジタルツールの活用も検討してください。コピーしたプリントになら思い切って書き込みできますし、最近では撮影した画像上で赤シート機能を再現できるスマホアプリもあります。スマホアプリなら暗記シートを持ち歩かなくても済み、通学中でも手軽に隠し暗記が可能です。自分に合った方法で「隠して覚える」仕組みを取り入れてみましょう。
暗記法には相性があります。フラッシュカードでゲーム感覚で覚えるのが好きな人もいれば、赤シートで教科書を何度も読み返す方が安心する人もいるでしょう。大事なのは、自分に合った方法でアクティブリコールと反復学習を実践することです。ここで紹介した4つの暗記法はどれも、ただ闇雲に読むより効率よく記憶に定着させるための工夫が詰まっています。医学部受験では覚える量が莫大ですが、適切なツールとコツを活用すれば必ず乗り越えられます。ぜひ色々試して、自分にベストな暗記スタイルを確立していってください。効率的な暗記で知識を武器に、夢の医学部合格をつかみ取りましょう!