紀伊半島の奥深く、神々が宿るとされる聖地——高野山、熊野、そして日本一広い村として知られる十津川村。
観光客にとっては癒やしのパラダイスですが、医療従事者、特に「医局人事」の視点から見ると、ここは日本屈指のタフな地域医療の最前線です。今回は、この険しい山々に囲まれた聖地をどの大学の医局が守っているのか、その地域貢献の勢力図を解説します。
目次
高野山・熊野エリア:和歌山県立医科大学の「絶対防衛圏」
和歌山県側の聖地を語る上で、和歌山県立医科大学(和歌山医大)の存在を抜きにすることはできません。
高野山(伊都郡高野町)
高野山周辺は、歴史的に和歌山医大の強力な影響下にあります。
- 主要病院: 高野町立高野山病院など。
- 勢力図: ほぼ和歌山医大の単独支配です。
- 特徴: 標高約800メートルの宗教都市。冬の積雪や凍結という過酷な環境下での医療維持は、地元の公立医大としてのプライドそのものです。
熊野エリア(田辺市・新宮市)
熊野三山を擁するこのエリアは、和歌山医大を軸としつつ、少し勢力図が複雑になります。
- 主要病院: 紀南病院(田辺市)、新宮市立医療センターなど。
- 勢力図: 和歌山医大がメインですが、地理的に三重県に近いため、新宮周辺では三重大学の影響も一部見られます。
- 裏事情: かつては大阪圏の大学(阪大など)からの派遣もありましたが、現在は専門医制度の影響もあり、和歌山医大による「全県一区」的な統治が加速しています。
十津川村:奈良県立医科大学の「誇りと執念」
奈良県最南部、もはや「陸の孤島」とも称される十津川村。ここは奈良県立医科大学(奈良医大)の独壇場です。
- 主要病院: 十津川村生活再建学習センター(旧・十津川村国保診療所)を核とした地域医療ネットワーク。
- 勢力図: 100% 奈良医大といっても過言ではありません。
- 特徴: 十津川村は奈良医大にとって「地域医療の聖地」のような扱い。若手医師が僻地医療を学ぶ場として、またベテランがその経験を還元する場として、非常に強固な派遣体制が組まれています。
- トピック: 奈良県全体が「奈良医大一本」にまとまろうとする傾向が強く、他県の医局が入り込む隙はほとんどありません。
なぜ「県立医大」がこれほどまでに強いのか?
通常、都会であれば東大や阪大といった旧帝大が強い影響力を持っていますが、このエリアで県立医大(和歌山・奈良)が圧倒的なのには理由があります。
- 自治体との連携: 県立大学である以上、県の医療計画と完全にリンクしています。
- ドクターヘリの運用: 山間部での救急搬送はドクターヘリが生命線。大学病院が基地病院となり、ダイレクトに現場を支えています。
- 「逃げられない」使命感: 他府県の大学にとって、これらの地域は「遠すぎる派遣先」ですが、地元の県立医大にとっては「守るべき地元」なのです。
まとめ:聖地の医療は「地元の矜持」で持っている
高野・熊野・十津川。これらの地域で体調を崩した際、あなたを診てくれるのは、おそらく和歌山医大か奈良医大の志を持った精鋭のドクターたちです。
- 和歌山側: 和歌山医大の鉄壁の守り
- 奈良側: 奈良医大の執念の地域医療
- 境界線: 三重県境付近でわずかに三重大学が顔を出す
