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医学部受験生のための奨学金最新事情(2022~2024年最新版)

私立医学部では6年間で2,000万~5,000万円もの学費が必要になることもあり、国公立医学部と比べて経済的負担が桁違いです。国立医学部の6年分の授業料は入学料を含め約350万円前後ですが、私立医学部では初年度だけで平均約482万円(授業料286万円+入学料108万円+施設費等88万円)もの費用が発生し、国立の約6倍です。こうした現状から、奨学金や学費減免制度については医学部を考えている受験生の保護者のかたにとっても、医学部を志望している受験生にとっても重要な課題となっています。

医学部生の奨学金利用率と主要な奨学金制度

奨学金制度には大きく分けて、給付型(返済不要)と貸与型(返済必要)があります。近年は国による給付型奨学金の拡充も進んでいますが、それでも奨学金利用者の大半は貸与型(いわゆる学生ローン)の利用です 。実際、2020年度時点で大学学部学生の約41.4%が何らかの奨学金を利用しており、半数近くが有利子の貸与型奨学金でした 。医学部生に限った最新の調査でも、42.7%もの人が在学中に奨学金や学費減免制度を利用した経験があると回答しています。5人に2人という高い利用率であり、医学部進学にとっての奨学金が重要性がうかがえます。

医学部生が利用している奨学金の種類を見ると、最も多いのは日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金で、利用者の59.6%を占めます。次いで国公立大学の授業料減免制度(18.2%)、自治体や病院などの民間奨学金(12.5%)、JASSOの給付型奨学金(11.7%)、大学独自の奨学金(11.2%)と続きます。

JASSOの貸与型奨学金には、第一種(無利子)と第二種(有利子)があり、第一種は成績・家計基準が厳しいものの無利子で月額3~6万円台、第二種は利子あり(上限年3%)ですが基準が緩やかで月額最大12~16万円まで借りられます 。医学部など特に学費が高額な大学では、第二種奨学金に月4万円の増額貸与が認められており、月額最大16万円(通常は12万円)の貸与も可能です。さらに、経済的に厳しい学生向けには授業料減免と給付奨学金を組み合わせた新制度(修学支援新制度)が2020年に導入され、2024年度からは対象が中間所得層や多子世帯にも拡大されました。2025年度(令和7年度)からは3人以上の子どもがいる世帯の場合、所得制限なしで授業料減免が受けられるようになるなど、公的支援も拡充しつつあります。

高額化する奨学金貸与額と「地域枠」など返済免除制度

医学部生が利用する奨学金の総額は年々高額化する傾向にあります。民間医局の調査では、奨学金や学費減免制度を利用した医学生のうち21.2%が1,000万円以上の支援を受けており、6.9%は支援が1,800万円以上にのぼると回答しています。奨学金だけで医学部の学費全額をまかなっているケースもあると考えられます。このように貸与総額が高額になりがちな医学部奨学金ですが、近年は返還免除(返済不要)となる制度も各種整備されています。

特に注目されるのが「地域枠」における奨学金制度です 。地域枠とは医師不足地域の解消を目的に、卒業後一定期間その地域で医療に従事することを条件に学生を募集、支援する制度です。地域枠で医学部に入学した場合、多くは都道府県の自治体が用意する医学生修学資金(貸与型奨学金)の利用が事実上義務付けられ、卒業後に所定の年数を地域の医療機関で勤務すれば貸与額の全額または一部が返還免除されます。例えば矯正医官(刑務所医師)修学資金では、在学中毎月15万円を貸与し、卒業後に一定期間(臨床研修修了後すぐに3年以上)矯正医官として勤務すれば返還が全額または一部免除されます。自治医科大学や防衛医科大学校のように学費全額免除に加えて、毎月給与支給を行い一定期間の義務勤務を課す独自制度もありますが、一般の医学部進学者に対して上記のような貸与奨学金で対応しています多くの自治体も数多く存在しています。

調査によれば、医学部奨学金利用者の約4人に1人(26.2%)はこうした就労義務付き(地域枠等)の奨学金を利用した経験があります。返済免除型の奨学金は経済的な負担を大きく軽減できる反面、万一途中で義務勤務を果たせなくなった場合には全額返還(場合によっては違約金や利息付き)が求められるリスクがあるので注意してください。制度を利用する際は、将来のキャリアプランや勤務条件を十分に理解した上で選択することが大切です。

奨学金返還の実態:返済期間・負担感は?

では、医学部卒業後の奨学金返還はどのように行われているのでしょうか。医師1,702人へのアンケート結果によると、在学中に奨学金等を利用した人のうち35.8%は「すべて返済済み」、30.7%は「現在返済中」であり、17.8%は「減免制度などにより返済不要」だったと答えています。返済が必要な人の多くは、医師になってから計画的に返済を進めているようです。

毎月の返済額については「1万円以上3万円未満」が38.5%と最も多く、次いで「3万円以上5万円未満」が24.1%, 「5万円以上7万円未満」が12.2%と続きます。中には「毎月10万円以上」返済していた人も14.2%おり、このような場合には月々の返済負担も無視できない金額になります。ただし、医師は他の職業に比べて平均収入が高いこともあり、「返済が負担に感じなかった」と回答した医師が多かったと指摘されています。事実、奨学金返済者への調査では95.9%が「計画通り返済できている(できた)」と回答しており、滞納や延滞に陥るケースはごく稀です。医学部卒業後の安定した収入により、多くの医師は奨学金の返済を着実にこなしていると言えるでしょう。

返済に要する期間は人によって様々ですが、「15年以上かかった(かかる見込み)」という回答が37.0%と最も多く、半数以上(54.9%)が返済に10年以上を費やす見込みであることも分かりました。一方で「3年未満」で返し終えた人も14.4%おり、医師になってから短期間で繰上げ返済する人も一定数いるようです。いずれにせよ、奨学金の返済は長期戦になりがちなので、借入時から将来の返済計画を念頭に置いておくことが重要です。

返済を終えた医師たちの声としては、「奨学金を利用して良かった(満足・やや満足)」が75.3%にのぼり、奨学金のおかげで自身の夢である医師への道を切り拓けたという前向きな意見が大半を占めます。一方、「手続きが煩雑で大変だった」、「借入額が大きく心理的負担を感じた」という声もあるようです。奨学金は将来への投資であると同時に借金だということが実態です。返済が長期に及ぶことで、結婚や出産などライフイベントへの影響を指摘する専門家もおり、必要以上に借りすぎない慎重さも求められるでしょう。

地域差から見る奨学金利用状況と背景

日本全体で見ると奨学金利用率には地域差があることがデータから明らかになっています。大学学部学生における奨学金利用率を都道府県別に比較した統計では、最も高い沖縄県では66.1%もの学生が奨学金を利用しているのに対し、最も低い滋賀県では17.9%にとどまっています。首都圏を含む都市部ではおおむね奨学金利用率が低めで、自宅から通学できる環境や家庭の収入水準の高さが背景にあります。一方、東北地方、九州地方の中には学生の半数以上が奨学金を借りているという道府県が20もあり、特に青森・宮崎・鹿児島などでは60%超と高水準です。地域ごとの親世代の所得中央値との比較では、所得が低い県ほど奨学金利用率が高いという明確な負の相関関係も報告されています。

このような地域差が医学部進学にも大きな影響を与えていることは確実です。所得水準の低い地域出身の学生ほど、医師になるために奨学金という借金を背負ってでも進学せざるを得ない状況が浮かび上がっており、何らかの形で是正が求められます。特に地方出身者が都市部の医学部に進学する場合、学費に加えて生活費、下宿費用も嵩むため、その傾向が一層強まると言えます。

以上のような背景から、前述の地域枠奨学金や自治体の修学資金制度は、特に地方学生の進学支援策として非常に重要な役割を果たしています。各都道府県では独自に医学部進学者向け奨学金を用意している場合がありますので、自分の出身地域や志望校の所在地の制度を確認し、医学部進学について経済的な計画を立てることが望ましいと思います。

奨学金利用のポイント:FPの視点と進学判断への影響

ファイナンシャルプランナー(FP)の視点から、医学部進学と奨学金利用のポイントも整理します。まず前提として、医学部進学の資金計画は早め早めの準備が肝心です。世帯年収600万円前後のご家庭では、私立医学部の学費負担は大きすぎて、事前の十分な貯蓄や奨学金の活用なしには現実的ではありません。経済的に厳しい場合は国公立医学部を目指すか、私立医学部でも特待生制度(学費減免)や豊富な奨学金枠を持つ医学部進学を検討することが推奨されます。また、在学中に利用できる奨学金制度について十分に情報収集し、利用できる給付型、返還免除型の制度を利用できる場合には、積極的に応募してください。大学、自治体、病院の奨学金情報は公式サイトで公開されていますので、見落としのないよう確認しましょう。入学後の場合には自大学のまず学生課の窓口に相談してください。在学中の医学生が経済的な問題で、学業継続な状態を放置する医学部はありません。何が何でも医学部生として学業が継続できるように親身になって相談に乗ってくれるはずです。

奨学金を賢く活用する上での注意点としては、「借りすぎない」ことと「返済計画を立てる」ことです。医学部生の場合、在学中は無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金を併用できるとはいえ 、卒業後にまとまった借金が残ってしまうのは事実です。利子の付く第二種を利用する場合は必要最小限の額にとどめ、利子が発生しない間(在学中)に繰上げ返済できるものは返しておくと、将来の負担を減らすことができます。また、卒業後の進路によって収入が得られる時期も異なるため、研修医~専攻医の間は返済額を抑え、医師として十分な収入を得てから返済額を増やすなど、ライフステージに合わせた返済計画も考えておくと安心です。

さらに、地域枠などの義務年限付き奨学金を利用する場合は、卒後のキャリアへの影響も考慮しましょう。一定期間は勤務地や診療科が制限されるため、自分の描く医師キャリアと矛盾がないかを吟味する必要があります。義務を全うすれば奨学金返還が免除されるメリットは非常に大きいですが、もし途中で方針転換したくなった場合は多額の返済が一括で降りかかるリスクがあります。将来の専門志向や生活設計まで見据えて、奨学金制度を選択してください。

以上のように、医学部生の奨学金事情(2022~2024年)については、利用率が高くなっている傾向があるということと、多様な制度が拡充していることが特徴です。奨学金は経済的ハードルを下げて医学部進学を可能にする一方、卒業後の返済という責務を伴います。信頼できるデータに基づき最新動向を把握しつつ、自身の状況に合った制度を賢明に選ぶことで、奨学金と上手に付き合っていきましょう。


  • 参考文献・出典
  • 日本学生支援機構「令和4年度 学生生活調査」結果概要(2023年)
  • 日本学生支援機構「奨学金事業に関するデータ集」(令和7年版)
  • 日本学生支援機構「学校毎の貸与及び返還に関する情報」データ
  • 民間医局コネクト「医学部の奨学金・学費アンケート」(2023年11月20日)
  • データえっせい:「奨学金利用率の地域差」(2022年)
  • ファイナンシャルフィールド「世帯年収600万円で私立医学部は厳しいか?」(2024年)


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