日本の医学部入試で女子受験生が不当に差別されていた問題は、2018年に東京医科大学の不正入試事件が発覚したことで社会に大きな衝撃を与えました。以降、文部科学省や各大学による調査、対応が行われ、この問題の是正に向けた取り組みが進められています。ここでは、私立医学部を中心とした過去の女子差別入試の事例と、その後講じられた改善策、対応についてご紹介します。また、「女性医師は出産、育児で離職しがちだから仕方ない」といった差別を正当化する論調にも触れ、それに対する批判と反論を述べます。さらに、女子医学生や女性医師を応援し、彼女たちが活躍できる環境整備の重要性を訴えます。日本の医療の未来のためにも、医学部での女子差別は二度とあってはなりません。
目次
2018年に明るみに出た医学部入試での女子差別
2018年に女子受験生への得点差別が発覚した東京医科大学のニュースは社会全体に衝撃を与えました。東京医科大学では女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑制していたことが内部調査で明らかになったのです。発端は2018年7月。東京医大への汚職事件捜査をきっかけに不正入試疑惑が発覚したことでした。東京医科大学は調査の結果、長年にわたり女子受験生の得点を一律に減点する不正を行っていました。その不適切な点数操作によって本来であれば合格していた多くの女子受験生が不合格とされていたのです。第三者委員会の中間報告では「東京医大が不正をしていた期間からすると被害者は少なくとも2万人以上」と指摘されており、女子医学部受験生に対する組織的差別の被害規模は甚大でした。
この東京医大の女子差別入試問題を受けて、文部科学省は全国の医学部を緊急調査しました。その結果、東京医大以外にも複数の大学で女子受験生を不利に扱う不正が判明し、2018年秋までに私立大学医学部を中心に計10大学が募集要項に明記しない不適切な得点調整、差別的とも言える入試を行っていたことを公表しました。公表された大学には、順天堂大学、昭和大学、北里大学、聖マリアンナ医科大学などが含まれます。順天堂大学では、女子受験者の合格基準点を男子よりも高く設定し、多浪(複数年浪人)受験生も不利に扱う合否判定を行っていたことが判明しました。順天堂大学ではこのような不公平な基準による選別を少なくとも判明している範囲で10年ほど前から続けており、「不適切だという認識はこれまではなかった」と公表し、第三者委員会の指摘を受けてようやく改善を表明しています。このように複数の医学部で長年にわたり女性差別的な入試操作が横行していた事実が明るみに出たのです。
文科省と各大学による不正発覚後の対応
一連の不正入試問題が発覚した後、文部科学省や関係機関、各大学は速やかに対応に乗り出します。まず文科省は2018年末、不正が認められた大学に対して是正措置を求めるとともに、救済策を講じました。具体的には、東京医科大学や順天堂大学など不正を行っていた大学に対し、本来合格していたはずの受験生を追加合格として受け入れるよう指導、2019年度に限り医学部の入学定員を臨時で超過して受け入れる特例を認めました。これにより、2019年春までに東京医大で44人、順天堂大学で48人、日本大学で10人をはじめ、関連する複数大学で合計145人もの追加合格者が救済措置として入学を認められています。文科省はあわせて、各大学が今後このような不正を繰り返さないよう入試制度の公正確保に関するガイドラインを策定し、性別や年齢を理由とした一律の合否判定基準を設けることは「不適切」であると明確に打ち出します。このガイドラインでは、多浪生や地域枠についても合理的な範囲で入試要項に明記しない一律差別は不適切とされ、透明性の高い入試運用が求められることになりました。
不正発覚後の各大学の対応も注目されました。東京医科大学や順天堂大学などは第三者委員会の調査結果を受け入れ、関与した学内関係者の処分や再発防止策の策定を行います。2019年度の入試では各大学が公正な選抜を期す方針を打ち出した結果、女子受験生の合格率が大幅に改善しています。実際、文科省から女性差別の指摘を受けた4大学(順天堂大学、東京医科大学、北里大学医学部、聖マリアンナ医科大学)の2019年度入試における女子合格率は平均13.5%と、男子の12.12%を上回る水準となります。全国81大学全体で見ても、2018年度は男子の合格率11.51%に対し女子は9.46%と約2ポイントの開きがありましたが、2019年度には男子で11.86%、女子で10.91%と男女差が1ポイント未満にまで縮小します。さらに、昭和大学、日本大学、山梨大学など全国26大学で女子の合格率が男子を上回る結果となり、長年続いてきた医学部入試の男女格差是正に向けた大きな前進が見られました。この傾向はその後も続き、近年では女子学生の医学部入学者数が全体の約4割に達する年も出てきています。かつては30%前後にとどまっていた医学部における女子学生比率が向上しつつあることは、不正是正の取り組み効果を示す明るい兆しと言えるでしょう。
「女性医師はすぐ辞めるから仕方ない」という主張とその批判
医学部の女子差別問題が明るみに出たとき、一部では「女性医師は結婚や出産で早期に離職しがちだから、入学者数を抑えるのも仕方ない」という声が上がりました。しかし、このような主張で差別を正当化することには強い批判が寄せられています。現場の医師の中にも、女性医師が産休、育休に入ると残った男性医師や独身の女性医師に負担が集中するという現状から、「女性が少ないほうが職場が回りやすい」という声があったことは事実です。実際に2018年に実施された緊急アンケートでは、医師の65%が東京医大の女子一律減点について「理解できる」または「ある程度理解できる」と回答し、その理由として「女性医師の妊娠、出産に伴う欠員が周囲に負担をかけている現状がある」といった意見が多く寄せられました。中には、「激務の中で妊娠中の同僚の穴埋めをする現実を考えると、東京医大の措置も必要悪という気持ちはわかる」といった声さえあったと報告されています。
しかし、入試段階で女性を排除することは問題の本質的解決にはならないとの指摘が多くの専門家や医師からなされています。上述のアンケートでも、「理解できない」と答えた医師の多くは「女性医師が妊娠、出産、育児で仕事を辞めざるを得ない状況そのものを改善すべきだ」という意見でした。つまり、女性医師が、家庭と仕事を両立できず離職してしまうのは医療現場の制度や環境に課題があるのであり、女性医師本人の資質の問題ではないという視点です。実際、日本の医師の働き方は長時間労働が常態化しており、厚生労働省の2016年調査では病院勤務の女性医師の約28%が週60時間以上働いていると報告されています。これでは出産後に育児と両立しながら勤務を続けるのが困難なのも無理はなく、現状では女性医師がやむを得ずキャリアを中断、離脱してしまう一因となっています。こうした職場環境側の問題を放置したまま、「だから女性を減らそう」というのは本末転倒であり、優秀な人材を入り口で排除する差別的なやり方だと思います。
女性医師の離職率が男性より高い傾向があること否定できません。しかし、その背景には育児支援の不足や超過勤務の常態化など改善すべき職場の課題が横たわっています。したがって、本来取るべき対策は働き方改革や職場環境の整備であり、決して入試における女性差別ではありません。産前産後に代替要員を確保する制度の整備、託児所の充実、フレックスタイムや時短勤務の導入など、女性医師がキャリアを中断せずに働き続けられる環境づくりこそが求められています。実際、政府や医療界でも近年は医師の働き方改革が推進されており、長時間労働の是正や医師確保策の一環として、女性医師の職場定着支援が重要なテーマとなっています。女性医師が安心して出産、育児と両立できる職場が増えれば、「女性だからすぐ辞める」という前提自体が崩れ、入試段階で女性を排除する合理性は完全になくなります。
女性医師が活躍できる環境整備の重要性
医学部入試での女子差別をなくし、公平な機会を保障することは、女性医師の数を増やすだけでなく日本の医療全体にとって大きなメリットがあります。現在、日本の医師に占める女性の割合は約2割強(2022年末時点で23.6%)に過ぎず、これは他の先進国と比べても低い水準です。日本の女性医師比率はOECD加盟国中でも最下位クラスで、2016年時点では21.1%と報告されています。他のOECD加盟国では、女性医師が4~5割を占める国もあります。このように日本の医療業界は長らく男性中心で進んできた歴史があり、女性の医師、研究者が十分に活躍できていない側面があります。医学部入試で女性を不当に扱ってきたことも、女性医師の数が増えなかった一因と言えるでしょう。
医療の現場では女性医師ならではの貢献も強く求められています。産科、婦人科、小児科などでは患者が女性医師を希望するケースも多く、女性ならではの気配りや共感力が発揮される場面はは数知れません。多様な人材がいることで医療チームの視野が広がり、患者に寄り添った医療の提供にもつながります。女性医師の増加は医療の質向上や患者満足度の向上にも寄与するのです。また、人口構造の変化に伴い医師不足が懸念される日本において、優秀な女性人材を医学部入試で排除してしまうのは大きな損失です。政府は医師数確保のため医学部定員を増やす政策を取ってきましたが、せっかく門戸を拡大しても女性差別があっては社会全体の損失です。真に持続可能な医療提供体制を築くためには、男女関係なく意欲ある人材が平等に医学を志し、平等にキャリアを積めるようにすることが不可欠です。
幸い、2018年の不正入試問題以降、各医学部は選抜の公正さを高める方向へ進み出しました。現在では多くの大学で入試方法の見直しや情報公開が進み、受験生にとって公正な競争環境が整いつつあります。また、医療現場においても若手医師の働き方改革やワークライフバランス推進の動きが広がりつつあり、結婚、出産後もキャリアを続けやすい取り組みが増えてきました。女性医師の復職支援プログラムや、子育て中の医師をサポートする制度を設ける病院も出てきています。男女問わず医師一人ひとりが無理なく長く働ける環境を整えることが、結果的に医療提供体制の安定化につながります。女性医師が当たり前に活躍できる環境を整備することは、日本の医療の質と持続性を高める上で避けて通れない課題なのです。
未来の医療のために男女差別のない医学部入試へ
医学部入試における女子差別は、才能ある多くの女性たちから医師になる夢を奪い、医療界全体の信頼を損ねる重大な問題です。過去に明らかとなった不正入試はようやく是正への一歩を踏み出しましたが、根本的な意識改革と環境整備はまだ道半ばと言えます。日本の医療の未来を担うのは、現在努力を重ねている若い医学生たちです。その中には数多くの女性も含まれています。性別によって機会が閉ざされることのない公平な医学部入試を徹底し、情熱と能力を持つ学生が等しく医学の道に進めるようにすることが大前提です。また、入学後も男女が対等に学び、卒業後も対等に研鑽を積める環境を維持していくことが重要です。
女子差別のない医学部入試を実現することはゴールではなくスタートです。その先の医師としてのキャリアの中で、結婚や出産といったライフイベントを迎えても女性医師が自分の望む形で働き続けられる社会を作っていかなければなりません。それは同時に男性医師にとっても働きやすい職場を作ることにつながり、患者さんにとっても安心できる医療体制を築くことになります。女性だからという理由で夢を諦める必要など決してありません。医学を志す女子受験生の皆さんには、自身の努力を信じて道を切り開いてほしいと思います。またそのご家族も、どうかお嬢さまの夢を後押ししてあげてください。現場で奮闘する女性医師の皆さんも、あなた方の存在が後に続く世代の道を照らしています。困難もあるかもしれませんが、少しづつでも状況は改善の方向に進んでいます。
最後に、日本の医療界が真に患者に寄り添い、多様性に富んだ持続可能な体制を築いていくためには、医学部における女子差別などあってはならないということを強調します。一人ひとりの才能と努力が正当に評価される公平な世界を目指して、私たち社会全体が引き続きこの問題への関心を持ち続け、声を上げ続けることが求められています。未来の医療を担うすべての若者たちへ、性別に関係なくエールを送ります。あなたの夢と情熱が、日本の医療の明日をより良いものにすることを私たちは信じています。
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