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医療現場でなぜ接遇が重要なのか? 医学部受験生が知るべき「医師に求められる心構え」

病院やクリニックで患者さんと接するとき、医療従事者の態度や振る舞いが患者さんの安心感に大きく影響することをご存知でしょうか。近年、医療の現場では医師を含むスタッフのコミュニケーションや接遇の重要性が今まで以上に注目されています 。高度な医療技術や知識はもちろん大切ですが、それと同じくらい「患者さんに対する接し方」が信頼される医師になるための鍵となっています。ここでは「接遇」という言葉の一般的な意味から、医療における接遇が持つ特別な意味と重要性、そして将来医師を目指す皆さんに求められる心構えについて、丁寧に解説していきます。

受付で笑顔で患者に応対する看護スタッフ。医療現場では、笑顔でのあいさつや相手に安心感を与える態度など、患者に寄り添った接遇が欠かせません。患者さんは不安や緊張を抱えて来院することが多いため、優しく温かな応対が信頼感につながります。

接遇とは何か

まず、「接遇(せつぐう)」という言葉自体の一般的な意味を確認してみましょう。辞書によれば接遇とは「もてなし。接待。あしらい」といった意味合いの言葉です。簡単に言えば、相手を丁寧にもてなすこと、心のこもった応対をすることを指します。日常生活やビジネスの場面でも使われる言葉であり、ホテルや飲食店でのサービス提供など「接客」に近い意味で捉えられることもあります。

医療における接遇とは

それでは、医療における接遇とは具体的にどのようなものなのでしょうか。一般的な接遇の概念に加えて、医療の現場では患者さんの置かれた状況に応じた特別な配慮が求められます。

医療機関を訪れる患者さんは多くの場合、体の痛みや病気への不安、検査への緊張感など、マイナスの感情を抱えています。そのため、医療従事者には飲食店やホテル以上に患者さんの心情に寄り添った対応が求められるのです。例えば受付から診察、会計に至るあらゆる場面で、表情・言葉遣い・身だしなみなどに気を配り、患者さんの不安を少しでも和らげることが医療接遇の目的となります。

医療接遇とは一言で言えば、「患者の立場や気持ちに寄り添い、安心感を与える応対」のことです。診療や看護の質がどんなに高くても、接遇が不十分だと患者さんは十分な安心を得られません。逆に、医療者が親身で丁寧に接すれば「この病院なら安心して任せられる」と感じてもらえるでしょう。医師や看護師は専門知識を提供する立場ですが、患者さんと対等な目線に立ち、思いやりを持って接することが信頼関係の構築に不可欠です。上から目線の威圧的な態度では患者さんは本音を言いづらくなり、良好な関係を築けません。したがって、医療の現場に特化した接遇とは、患者さん一人ひとりの不安や苦痛に理解を示し、心身に寄り添う姿勢で接することを意味します。

さらに医療接遇は、単に患者満足度を上げるだけでなく医療の安全性にもつながっています。患者さんとの十分なコミュニケーションが図れれば、症状や要望を正しく聞き取ることができ、誤解やミスを防ぐことができます。例えば説明不足で患者さんが治療法を誤解したり指示に従わなかったりする事態は、接遇・コミュニケーションが行き届いていれば避けられるかもしれません。医療接遇は「相手を思いやる応対」というソフト面の話ですが、結果的には治療の質や安全性を支える重要な土台となっているのです。

医師に求められる接遇の具体例

患者さんに安心して治療を受けてもらうため、医師には具体的にどのような接遇スキルが求められるのでしょうか。ここでは医療接遇の観点から、医師が日常診療で心がけるべき接遇の具体例をいくつか挙げてみます。

丁寧なあいさつ・声かけ

患者さんと顔を合わせたら、まずは明るく落ち着いた声であいさつをしましょう。笑顔で名前をお呼びし、「こんにちは」「本日はお越しいただきありがとうございます」など一声かけることで、患者さんとのコミュニケーションの扉が開かれます。ただし、大きすぎる声や威勢の良すぎる態度はかえって威圧感を与える場合もあります。患者さんの症状や年齢に合わせ、穏やかで失礼のないトーンであいさつすることが大切です。

わかりやすい説明と説明責任の遂行

病状や検査結果、今後の治療方針について、専門用語ばかり並べず平易な言葉で丁寧に説明することは医師の重要な責務です。日本の医療法でも「医師は患者に対し適切な説明を行い、その理解を得るよう努めなければならない」と定められており、単に法律上の義務というだけでなく、患者さんの不安を取り除き信頼関係を築くうえで欠かせません。患者さんが理解できているかを確認し、質問には真摯に答える姿勢を示しましょう。専門知識を噛み砕いて伝えることは難しいかもしれませんが、「自分の家族に話すならどう説明するか」を意識すると伝わりやすくなります。

思いやりのある態度・仕草

患者さんに接するときの所作にも心配りが必要です。診察中は患者さんの方に体ごと向けて、椅子に座る場合もできるだけ目線の高さを合わせ、話を聞くようにしましょう。忙しいときでも腕組みをしたり、ため息をついたり、時計ばかり気にするような仕草は厳禁です 。そうした何気ない態度からも「早く終わらせたいのかな?」と患者さんに伝わってしまいます。逆に、うなずきながら話を聞く、優しい表情で相槌を打つ、必要に応じて「大丈夫ですよ」などと声をかけるなど、相手を安心させる態度を心がけましょう。

表情やアイコンタクト

医師というと真剣な表情をしがちですが、常に怖い顔では患者さんも萎縮してしまいます。かといって闇雲に笑顔でいれば良いわけではありませんが、基本的には柔和で穏やかな表情で接することが信頼感につながります。無意識に眉間にシワが寄っていないか、疲れから無表情になっていないか、意識してみましょう。適度に目を見て話すことも大切です。「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」というメッセージにもなり、患者さんは安心できます。ただし凝視しすぎると緊張を与えるので、様子を見ながらアイコンタクトを取ってください。

傾聴と共感の姿勢

患者さんの訴えを途中で遮らず最後まで傾聴することは、医療における接遇の根幹とも言えます。医師はプロとして的確な判断を下す必要がありますが、早口で質問攻めにしたり結論を急いだりすると、患者さんは「きちんと聞いてもらえなかった」と感じてしまうでしょう。まずは相手の話に耳を傾け、共感できる部分は言葉や相槌で示すことが大切です。「つらかったですね」「心配なお気持ち、わかります」といった一言があるだけでも、患者さんの気持ちは軽くなるものです。傾聴によって患者さんの本当の悩みや希望を引き出すことができれば、治療方針の選択もスムーズになります。

丁寧な言葉遣い

患者さんへの言葉遣いにも最新の注意を払いましょう。医師として適切な敬語を使うのは当然ですが、それ以上に相手に伝わりやすい言い回しを選ぶことが重要です。専門用語を乱用せず、日常的な表現に置き換えたり、例えを用いて説明したりすると理解が深まります。また、上品で礼儀正しい言葉遣いでありながらも、あまりに形式ばりすぎず親しみやすさも感じられるような話し方が理想的です。患者さんを敬いつつ、その心に寄り添った言葉選びを心がけてください。

以上のようなポイントの積み重ねが、総合的に見て医師の接遇力となります。ある医師は患者目線から見た「好ましい医師の接遇」について次のように述べています。「笑顔で人を包み込む柔軟な姿勢で対応し,まず患者の性格を見抜き、そして、病態の原因,治療と予後について筋道立てて簡潔に明白に説明する」ことが望ましい接遇だというのです。挨拶ひとつから説明の仕方に至るまで、医師には高いレベルでのコミュニケーション能力と気配りが求められていることが分かります。

医療現場での接遇と患者の関係性

医療における接遇がしっかりしているかどうかは、患者さんとの関係性に直結します。わかりやすい説明や思いやりある対応を受けた患者さんは、「この先生(病院)は自分に寄り添ってくれる信頼できる存在だ」と感じ、安心して治療を受けられます 。その結果、何かあったときには「またここに相談しよう」「家族にもこの病院を勧めよう」と思ってもらえるでしょう。このように接遇を徹底することで患者さんからの信頼を得られ、クレームやトラブルの防止にも効果を発揮します。実際、接遇が良い医療機関では口コミや紹介を通じて新たな患者さんが増え、既存患者さんのリピート率も上がるというデータがあります。接遇の良し悪しが患者さんの満足度だけでなく、病院全体の評価や経営にも影響を与えることがわかります。

一方で、どんなに医療技術が優れていても接遇が不十分だと患者さんに不信感を与えてしまいます。厚生労働省の調査によれば、外来患者の約2割が「医師の基本的な接遇態度」に何らかの不満を感じているという結果もあります。特に多かった不満内容は、「励ましやいたわり、温かみのある態度が感じられない」という点(不満を感じた人の68.0%が指摘)で、次いで「言葉遣いが適切でない」こと(30.4%)が挙げられました。これは裏を返せば、多くの患者さんが医師に対して「もっと優しく温かな態度で接してほしい」「丁寧な言葉で説明してほしい」と望んでいることの表れと言えるでしょう。接遇が欠けていると患者さんは本音を話しづらくなり、不安や疑問を抱えたままになってしまうかもしれません。そうなると治療にも支障が出かねませんし、患者さんが医療機関自体に抱く評価も下がってしまいます。

逆に患者さんとの信頼関係がしっかり築ければ、多少治療が長引いたり困難な状況があっても、患者さんは納得して協力してくれるでしょう。医師や看護師に対しても安心して悩みを打ち明けたり相談したりできるため、病状の把握や生活背景の理解が深まり、より適切な医療を提供できます。患者さんの安心感・信頼感を生む接遇は、医療を円滑に進める潤滑油であり、患者さんにとっても治療効果を高める重要な要素なのです。

医療現場におけるコミュニケーション能力と接遇

医療の現場ではチーム医療が基本となっており、医師・看護師・受付スタッフなど全員の連携が不可欠です。その中でコミュニケーション能力と接遇力は、患者対応のみならずスタッフ同士の情報共有や協力体制にも大きな役割を果たします。

まず対患者さんに関して言えば、コミュニケーション能力と接遇力は切り離せない関係にあります。医師の優れた接遇とは即ち優れたコミュニケーションであり、患者さんとの双方向のやり取りによって初めて成り立つものです。医師がどんなに接遇の意識を持っていても、伝える力・聞く力といったコミュニケーションスキルが欠けていては患者さんにその思いは伝わりません。例えば患者さんから症状を聞き取るときの質問の仕方一つをとっても、コミュニケーション能力が高ければ「話しやすい雰囲気」を作れますし、そうでなければ患者さんは口ごもってしまうかもしれません。接遇の土台には常に円滑なコミュニケーションスキルがあると言えるでしょう。

さらに、医療接遇は医療チーム内の連携や職場環境にも影響を与えます。 患者さんから感謝や信頼を得られることでスタッフの士気が上がり、スタッフ同士の人間関係も良好になるといったメリットがあります。たとえば、患者さん対応で培った「傾聴する姿勢」や「思いやり」は、同僚とのコミュニケーションにも生きてきます。お互いに気持ちよく働ける環境ができれば、情報共有もスムーズになり医療ミスの防止や業務効率の向上にもつながります。接遇というと対患者さんばかりに目が行きがちですが、職場全体のチームワークや医療安全を支える基盤としても接遇力・コミュニケーション力は重要なのです。

このように、コミュニケーション能力と接遇力は表裏一体であり、医療の質を高めるためになくてはならない要素です。患者さんに選ばれる医師、s医療機関になるためには、医学知識の研鑽だけでなく、人と人との関わり方にも常に意識を向けていく必要があるでしょう。

将来医師を目指すみなさんへ

医学部志望の高校生や浪人生の皆さんにぜひお伝えしたいのは、「医師としての接遇」は今からでも意識して身につけ始められるということです。医療の現場経験がなくても、日常生活の中で人への接し方やコミュニケーションの取り方を磨くことで、将来必ず役に立つ接遇力の土台を作ることができます。以下に、将来医師になる皆さんに今から取り組んでほしいポイントをいくつか紹介します。

相手の立場に立つ習慣を持つ

家族や友人と接するとき、「もし自分がこの人だったら何をしてもらったら嬉しいだろう?」と想像する癖をつけましょう。困っている人を見かけたら声をかける、友達が落ち込んでいたら話を聞く、といった日常の小さな思いやりの積み重ねが、将来患者さんへの心配りにつながります。医師になって急に優しく振る舞おうとしても難しいものです。普段から相手の気持ちを汲み取るトレーニングをしておきましょう。

丁寧な言葉遣いとあいさつを心がける

学校や予備校でも、誰に対しても明るいあいさつや丁寧な言葉遣いをするよう意識してみてください。年上の人には敬語を使う、目を見て話す、感謝の言葉をきちんと伝える、といった基本的なコミュニケーションマナーを学生のうちから実践しておくことは非常に有益です。医療現場では初対面の患者さんに敬意を持って接することが当たり前に求められますから、ぜひ今のうちから身につけておきたいところです。

わかりやすく説明する練習をする

医師は自分の考えや医学的な情報をわかりやすく伝えるプレゼンテーション能力も必要です。学校の授業で発表の機会があれば積極的に取り組んだり、理科の難しい概念を文系の友人に教えてみたりするなど、「専門的な内容を平易な言葉で説明する」練習をしてみましょう。これは将来、患者さんに病状を説明するときに必ず役立ちます。また、自分の伝え方のクセを客観的に知るために、家族に協力してもらって説明のロールプレイをしてみるのもおすすめです。

医療現場を体験・観察する

もし機会があれば、病院でのボランティアや医療従事者のインタビュー記事、テレビの医療ドキュメンタリーなどを通じて実際の医療現場に触れてみてください。そこで働く医師や看護師がどのように患者さんに接しているか観察することで、教科書には載っていない「接遇」の大切さを実感できるでしょう。難しい場合でも、かかりつけ医の先生の対応を注意深く見てみるだけでも勉強になります。良い接遇をしている医師ほど患者さんの信頼が厚いことに気づくはずです。

面接試験やコミュニケーション評価への準備

医学部の入試では、学科試験だけでなく面接や小論文で人間性やコミュニケーション力を見る大学もあります。接遇の心構えを持っている受験生は、患者さんへの思いや自分の医療観を語る際にも説得力が増すでしょう。「将来どんな医師になりたいか」を考えるとき、ぜひ「患者さんに寄り添える医師」「信頼される医師」といった接遇面もイメージしてみてください。そうした意識は面接で問われたときにもきっとプラスになるはずです。

以上のような取り組みを通じて、ぜひ医師としてのコミュニケーション力、接遇力を今から養ってください。知識を磨く勉強と同じくらい、人との関わり方を学ぶことも大切です。それは将来、患者さんに信頼される医師になるための貴重な準備期間でもあります。

まとめ

「接遇」という言葉は一見すると堅苦しく感じるかもしれませんが、医療の現場では患者さんに安心して治療を受けてもらうための思いやりとコミュニケーションを指す重要なキーワードです。一般的な接客以上に、医療における接遇は患者さんの心に寄り添う特別な意味を持ち、医師をはじめとする医療従事者に強く求められています。挨拶の仕方から説明の丁寧さ、態度や表情、傾聴に至るまで、医師 接遇の具体例を見てきたように、それら一つひとつが患者さんの信頼感や満足度につながり、より良い医療につながっていきます。

将来医師を目指す皆さんには、ぜひ知識の習得と並行して「人と接する力」を磨いていただきたいと思います。医学部での学びや臨床実習、そして医師になってからも、接遇力・コミュニケーション力は常に研鑽していくべきスキルです。患者さんの立場に立ち、思いやりと尊敬の心を持って接する姿勢を忘れなければ、きっと患者さんに信頼される素晴らしい医師になれることでしょう。

医療における接遇の意味と重要性を理解し、今からできることに取り組むことで、未来の医療現場で大いに活躍できることを願っています。人々の健康を支える専門職として、知識とともに温かな心で患者さんに向き合える医師を目指して頑張ってください。

考えてみるに、これは私たちのような塾、予備校にも当てはまるということに思いがいたりました。受験生や保護者のかたはみんな受験に不安を持っているのですから。私たちも接遇の大切さをこころにとめて日々、生徒や保護者のみなさんに接しなくてはなりません。



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