医学部再受験生の面接は、受験生のこれまでの経験や動機を深く問われる場です。特に私立医学部では面接のウェイトが大きく、再受験生に対しては「なぜ今から医学部なのか」といった厳しい質問や潜在的な偏見を持たれてしまう場合もあります。ここでは、再受験生に対する面接官の見方やよくある偏見を整理し、それらを乗り越えて説得力のある志望動機、自己PRを作る方法を解説します。また、年齢差や他学部からの転向を前向きに語るポイント、個人面接、集団面接、MMIなど面接形式別の対策、典型的な質問例とその答え方の方向性も紹介します。さらに、再受験を決めたお子さんへの保護者の理解と精神的サポートの重要性についても述べます。
目次
面接官の視点と再受験生への偏見
医学部の面接では、志望動機だけでなく受験生の年齢や経歴も評価の対象になります。多くの大学では提出書類(志望理由書・エントリーシート)で年齢や社会人経験が明らかになるため、面接官は再受験生のプロフィールを事前に把握しています。そのため、面接官は「なぜこのタイミングで医学部を志したのか」、「現役生や浪人生より社会経験が長いことをどう考えているか」といった点に強い関心を抱きます。実際、再受験生は現役生に比べて社会経験から医療への熱意が深い場合が多く、面接官からは「以前の仕事が合わなかったのか」、「再受験がだめだったらその後どうするのか」など、踏み込んだ質問が投げかけられることも珍しくありません。しかし、そのような質問に慌てるようでは準備不足です。
2018年の医学部入試不正問題以降、文部科学省が介入して制度改善が進みましたが、今でもまだ大学ごとに再受験生への寛容度には差があります。受験者数のデータを見ると、ある大学ではほとんどが現役や1浪生や2浪生までなのに対し、別の大学では30代の受験生が毎年合格しているなど、再受験生を受け入れる姿勢は大学によって大きく異なります。私立大学では再受験専用の面接会場を設けることもあるほどで、いわば「再受験生専用」の特別扱いがされることもあると聞きます。したがって、まず、面接対策を始める前に志望校の再受験生への寛容度や過去の合格実績を調べることが重要です。
面接で再受験生が抱えやすい偏見・心配事には以下のようなものがあります。
- 年齢への偏見:「今さら医学部に入って何をするのか」、「若い学生と馴染めるか」といった疑問を投げかけられる場合があります 。しかし一方で、社会人経験は判断力や責任感の向上につながる強みです。アメリカでは、社会人経験を持って医学部に進学することは一般的です。実際、多くの医学部受験生は大学卒業後に数年の社会人経験を積んでから医学部を目指します。むしろ社会人経験が強みとなると判断されるのですから自信をもって面接に臨んでください。
- 動機への懐疑:志望動機が「決して浅薄な理由ではないか」と探られることがあります。幼い頃からの憧れだけでは、現役生と同じ答えに聞こえるため、再受験の志望動機では「なぜ今なのか」、「これまでの経験がどう活きるか」に踏み込んだ説明が求められます。しっかり準備して面接に備えなくてはなりません。
- 社会経験への期待:社会人経験者に対しては、「入試後も高い意識を持って学べるのか」、「一般教養は十分か」といった期待が高まります 。面接官からは時事問題への知識も強く問われる傾向があります。社会人経験を積んだ人々が受験してきている場合には、実務的なスキルや問題解決能力、コミュニケーション能力、相応の社会的関心を持っていると見なされるのが普通です。
- 不当な減点への懸念:過去に年齢や性別で減点された事例があるため(※2018年の不正入試問題)、再受験生は不当な扱いへの不安を感じることもあります。現在はある程度改善されたとも判断できますが、再受験生自身も自らの正当な主張を持って臨むことが求められます。
これらの偏見や懸念に対しては、受験生自身がポジティブに話を組み立てることが大切です。質問を受けた際には、前向きな返答例が有効です。面接官が潜在的に持つ質問意図(いわゆる「ストレス面接」や多面的評価)を理解した上で、筋の通ったいわゆる大人の回答を準備しましょう。
偏見を乗り越える志望動機・自己PRの工夫
再受験生が面接で合格を勝ち取るには、偏見を上回る説得力のある志望動機と自己PRが鍵になります。まず、志望動機や医師志望の理由は、「いかに自分を知っているか」、「自分と向き合い切れているか」が重要です。具体的には次のようなポイントを重視して準備しなくてはなりません。
- 経験に基づく具体性:社会人としての経験や他学部時代の学びを踏まえ、自分自身の論理的思考で、「医師になりたい」という理由を説明します 。たとえば「社会人として働く中で~という問題に触れ、自分で調べるうちに医師の役割の重要性を強く認識した」といったエピソードを盛り込むと、面接の回答に説得力が高まります 。
- 今だからこその動機:「なぜ今、医学部なのか」という点を重視します。幼い頃からの漠然とした憧れだけでなく、現実の経験や志望校の特色(カリキュラムや研究)を関係づけて答えましょう 。「○○大学では△△の研究が盛んで、自分の志向と合致するため、この環境で学びたい」と具体的に話せば印象が良くなります。
- 自己PRとの一貫性:自己PRでは、自分の長所や努力してきたことを語ります。長所を述べる際は、具体的な経験や成果に結びつけて説明しましょう。逆に短所は正直に伝えつつ、「~を克服するために~に取り組んでいる」という前向きなエピソードを付け加えると、弱点を裏返してアピール可能です 。「慎重すぎる性格で行動が遅れがちでしたが、社会人として仕事をする中でタイムマネジメントの重要性を認識して改善しています」、といった具合です。
面接では、論理的な説明が求められます。単なる決意や熱意の表明ではなく、ロジックを意識して端的に語ることが大切です。長々とした説明は面接官を退屈させる恐れがあるため、「いついつに△△があって、こう考え医師志望に至った」というように簡潔に話す練習をしましょう。感銘を受けた出来事については、「何を感じ、どのように考えたか」をアピールポイントとして明確に示すことが重要です。
また、同業異種からの転向(医療業界の異業種から医師への転職)などの場合には、面接官(多くは現役医師)の興味を強く引くよう具体的な説明が必要です。たとえば元看護師や研究者が医学部を目指すなら、「看護師ではできなかった診断や治療の領域で、より患者に貢献したい」といった視点で、自分が医師に向く理由を論理的に伝える必要があります。面接官自身も身近に同じ職種の職業のかたととの協業を経験しているため、この受験生なら医師として働くのに問題ないと思わせるような、「なぜ医師を選んだか」をという論理的な説明ができれば高く評価されます。
これらの工夫により、再受験生としての特性をポジティブに印象付けましょう。たとえば、慶應大学の再受験合格者は「再受験であることに不安はあるか」と問われた際、「確かに気になる場面もあるかもしれませんが、慶應の学生には偏見を感じない人が多いと前向きに考えています」と答え、経験者としての自信と前向きさを示していました。
年齢差・他学部転科を前向きに語るポイント
面接官から、「年齢」や「前学部での経歴」について質問されることがありますが、これらは逆にアピールの機会とも言えます。年齢差や異なる学部からの転科について話す際は、次の点を意識しましょう。
- 経験と視点の多様性を強調:年長であることは、若い現役生にはない豊富な経験と判断力がある証です。例えば「社会人経験で培った□□力(例:チームリーダー経験や社会常識)を医学の学びに活かしたい」と話せば、年齢はプラス要素になります 。
- 転向理由の一貫性:他学部から医学部に転向した場合、「入学当時と今では目標が変わりました」、「医師という職業への関心が強まった」といった正直な理由を説明しましょう。過去の学部を否定するのではなく、むしろ「○○学部で学んだ△△の知識は医療にも通じる」といった関連性を示しても良いでしょう。医療以外の学部を卒業したが、やはり医師になりたいと感じて素直に伝えるのが好印象だと思います。
- 退学・転校の説明:以前に、他大学の医学部に在籍していた場合、「自分にはその大学より□□大学の方が合っている」と、元の大学の魅力を批判せずに志望校の良さで置き換えて説明すると印象が良いとされています。奈良県立医科大学後期試験の合格者が1年間、奈良県立医科大学で仮面浪人をして、東京大学理科三類、京都大学医学部、大阪大学医学部などに再受験する場合に当てはまるのがこれです。
- 将来設計への自信:年齢差を問われたら、「人生経験を積んだ分、今から6年間の学びを最大限に活かせる」と前向きに述べると効果的です。実例として、ある再受験生は「慶應他学部時代に培った自信から、この環境なら年齢を感じない」と語り、積極的なマインドを示しました。
面接官は再受験生の、「なぜこのタイミングで、なぜ医学部なのか」に強い関心を持ちます。年齢差や異なる経歴は特に日本では、人によってはネガティブに捉えられがちですが、自身の学び直しの動機や医師としてのビジョンと結びつけて説明すれば、「多様性や協調性を重視する医療の場面で、年長者の視点も貴重だ」と理解してもらえるはずです。
面接形式別の注意点と対応策
私立医学部では面接形式も多様です。ここでは代表的な形式ごとに対策を整理します。
- 個人面接(1対1~複数):最もオーソドックスな形です。面接官は数人で、受験生は一人ずつ入室して回答します。よくある質問は「志望動機」、「医師になりたい理由」、「自己PR」、「医療に関する時事問題」などです。対策としては、基礎的な質問に対する回答を準備しつつ、相手の表情や雰囲気に合わせて会話するよう心がけましょう。あくまで会話形式を意識して、自然な言葉で自分の考えを伝えるのがポイントです。一方的に自分の考えをまくしたてるのではなく、面接官と言葉のキャッチボールができればベストです。
- 集団面接:複数名の受験生が同時に面接を受ける形式ですが、質問内容自体は個人面接とほぼ変わりません 。対策も基本的には個人面接と同様です。ただし、他の受験生の答えが聞こえる点が最大の違いです 。そのため、他の受験生の回答を参考にしたり、自分が話すタイミングを見計らったりする必要があります。他の人に押されすぎないよう、姿勢良く聞く姿勢や要点を簡潔にまとめて話す練習をしておきましょう。
- グループ討論:複数名で討論する形式は最近増えてきています。与えられたテーマについて受験生同士で議論し、その過程を面接官が評価します。医師に必要な協調性やリーダーシップ、共感力を見るための形式なので、「相手の意見を尊重しつつ自分の考えを述べる」、「議論を俯瞰してまとめる」といった姿勢が求められます。なお、この形式を実施する大学の場合には事前に実際に対面でのグループ面接の練習を重ねることをおすすめします。グリットメディカルでも、外部生も交えたグループ面接を大学ごとに実施する予定です。再受験生のかたは、ぜひ受講をご検討ください。
- MMI(Multiple Mini Interview):1回あたり5~7分程度の短い面接を何度も行う新しい形式です。各ブースで異なる課題(文章を読んで自分の考えを話す、行動課題など)に即座に対応します。たとえば、慈恵医大のMMIでは折り紙に名前をつける創造的な課題や、グラフやデータを読み取る問題が出されました。いずれもコミュニケーション力や論理的思考力が問われるため、簡潔かつ明瞭に自分の意見を伝える練習が不可欠です。事前に多様な想定問答を練習しておき、突発的な質問にも動じない訓練を積みましょう。グリットメディカルでは、MMIの練習は予定していませんが、要望に応じて対策授業を行います。関心のあるかたは、下のLINEのお友だち登録をしていただきますと、最新の講座情報をお送りいたします。
以上のように形式ごとの特徴を理解し、それぞれに応じた練習を行うことが大切です。個人面接では「自分の言葉で語ること」、集団面接では「他者と聞き比べながら自分の意見を言うこと」、MMIでは「短い時間で論点をまとめて話すこと」を意識すると良いでしょう。
よく聞かれる質問例と回答の方向性
以下は、医学部面接で頻出の質問例とその回答ポイントです。準備の参考にしてください。
- 「なぜ医師になりたいのか/志望理由は?」:医師志望の理由は最も基本的な質問です。ただし再受験生の場合は「単なる憧れ」では十分なく、経験を踏まえた論理的な説明が必要です。自身の社会人経験で感じた課題や学びを交え、「○○という経験から患者さんをよりよく助けたいと考えた」といった具体例を述べましょう。
- 「なぜこの大学・学部なのか?」:各大学、学部の特徴(カリキュラム、研究テーマ、附属病院の特色など)を調べ、自分の志望動機と結びつけます。「○○大学では□□の研究が盛んで、将来○○の専門医を目指したい自分には最適だと思いました」といった具体的な回答が説得力を高めます。
- 「最近気になった医療系ニュースは何か?」:時事問題の質問には、あらかじめ十分な対策を行っておきましょう。聞かれたニュースについて、内容説明だけでなく「自分はこう感じた/考えた」といった視点を添えるとよい印象です 。知らない場合は正直に「勉強不足で詳しくはわかりません。ただ~と聞いて興味があります」と答え、学ぶ意欲を示すことも大事です。
- 「長所・短所は?」:長所は具体的な経験と結びつけて説明します。短所を聞かれたら隠さずに述べつつ、必ず「それを克服するために○○に取り組んでいる」という努力を付け加えましょう。「慎重すぎて行動が遅くなることがありますが、メリット面ではリスクを考えて着実に動けます。現在は目標時間を設定して行動を早める訓練をしています」といったような形です。
- 「浪人・再受験の理由は?」:前年不合格だった理由は正直かつ前向きに説明します。何が不足していたのか、今年はそれをどのように克服したかを話しましょう。他学部からの転向の場合は「医療とは無関係の学部にいましたが、患者さんの○○な姿を見ているうちに医師になりたい気持ちが強まり、御校で学び直したいと思いました」、といった動機を素直に伝えます。以前の在籍校を辞めた場合は前の大学の批判はおすすめできません。「御校の□□の教育方針に魅力を感じました」と話すと好印象です 。
- 「入学後に取り組みたいこと/将来どんな医師になりたいか?」:面接官からは明確な将来像を持っているかを見られます。ただ「勉強したい」だけでは印象に残りません。臨床医志望なのか研究医志望なのか、志望診療科、地域医療への貢献など具体的なビジョンを準備してください。所属大学の得意分野(研究領域など)に合わせて話すと説得力が増します。
- 「もし医師になれなかったら/再受験がうまくいかなかったら?」:再受験ではこのような質問が問われることがあるようです。答えるときには、「他の選択肢しか残っていない」と悲観するのではなく、「失敗したら◇◇の仕事に活かす」と前向きに話すか、あるいは「医師になることがどうしても希望なので、合格するまで志望校に向けて努力を続けます」と強い意志を示しましょう。
- ケース問題(MMIでの課題例):MMI形式では、ある状況図やグラフを読み解く、グループで討論する、絵やデータから意見を述べるなど、多岐にわたるテーマが出されます。答えるときには決して焦らず、論点を整理してから話すよう心がけましょう。
以上のような想定質問に対しては、事前に模範解答を丸暗記するよりも、「何を一番伝えたいか」のコア部分を固めておくことが大切です。特に、再受験生には面接官から高い期待が寄せられるため、自身の経験を軸にしつつ冷静に意見を述べる練習が望ましいと思われます 。
保護者の理解と精神的サポートの重要性
再受験を決めたお子さんを支える保護者の役割も非常に大きいと感じます。ご両親にはまずお子さまの気持ちを理解し共感する姿勢が求めらえると、長年の経験から感じます。試験の結果や進捗を責めるのではなく、「今回は大変だったね」、「次はどうやって対策しようか」と励ましながら一緒に考えるなど、お子さんの自尊心を守るお声かけをお願いしたいところです。
場合によっては、再受験生の医学部受験の勉強は長期戦になりがちで、家族生活にも負担がかかります。たとえば勉強時間が増えて家族との時間が減ることも避けられません。ご両親には、学習環境の整備(静かな勉強スペースの確保や学費の検討など)や家事の分担、金銭面の計画を一緒に考えるなど、精神的・物理的サポートを行うことが期待されます。お子さまが勉強に集中できるよう励まし、適度にリフレッシュの時間を取らせる配慮も効果的です。
最後に、再受験生は自分でも再度困難な医学部受験に挑戦することに不安やプレッシャーも感じやすいものです。保護者は、「結果ではなく努力の過程を尊重する」、「何よりも健康を気遣う」ことを心がけていただきたいと思います。共感的な対話を続けることで、お子さんは精神的に安心して受験当日に臨むことができます。
必ず道は開ける
私立医学部の再受験面接では、再受験生特有の視点や動機を生かした自己アピールが重要です。面接官は年齢や経歴を前提に質問してくるため、あらかじめその意図を理解して論理的・前向きに回答する準備をしましょう。志望動機や自己PRは、経験に裏打ちされた具体性と論理性を意識して構成し、自身の強みとして積極的に伝えます。事前に、面接形式(個人・集団・MMI)に応じた十分な練習も欠かせません 。
面接対策は受験生本人だけでなく保護者の理解と協力によって大きく支えられます。ご両親はお子さまの気持ちに寄り添いながら、必要なサポートを行っていただきたいと思います。これらの準備を丁寧に重ねることで、再受験生も面接官の偏見を乗り越え、納得のいく回答ができるようになります。合格を目指して、一歩ずつ着実に進めてください。必ず道は開けます。
グリットメディカルでは、保護者のみなさんからのご相談にもおこたえしております。ご本人さまには申し上げない内容も保護者のかたにはお話しさせていただくこともあります。医学部再受験についてもご質問やご相談がおありの場合には、どんなことでもご相談ください。下のLINEの友だち登録からご登録ください。
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