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医師の子どもは賢くない?医学部合格に立ちはだかる“平均への回帰”の壁

高い学歴や偏差値を持つ親のもとに生まれた子どもは、果たして親と同じように優秀になるのでしょうか。特に開業医など高学歴の親が「ぜひ子どもも医師に」と望むケースでは、期待の大きさゆえに親子で進路を巡る悩みが生じがちです。ここでは、統計学の概念である「平均への回帰」に注目し、親が優秀だからといって子どもも必ずしも優秀になるとは限らない現象について解説します。また、その傾向が医師家庭の職業継承にどのような問題を引き起こすか、国内外のデータや研究を基に現状を捉えます。さらに、こうした課題に対して有効と考えられる教育的アプローチ(子どもの個性尊重や適性の見極め、心理的サポートなど)や、親が持つべき覚悟と姿勢について考えてみます。受験生や保護者の方をはじめ一般の読者にも、データに裏付けられた説得力のある視点を提供できればと思います。

「平均への回帰」とは何か?親の高学歴と子どもの学力の関係

親が非常に高い学力や知能を持つ場合でも、その子どもの能力が必ず同じ水準になるとは限りません。この現象は統計学で「平均への回帰」と呼ばれています。具体的には、極端に高い特性(例:知能指数IQや学力偏差値)を持つ親から生まれた子どもは、親の値よりも平均(平均値)に近い水準に落ち着く傾向があります。たとえば両親がともにIQ120ほどの高い知能を持つ場合、その子どものIQは120より低めの値となる可能性が高いと報告されています。逆に、両親のIQが80程度(平均より低い水準)であれば、子どものIQは親より高くなる(平均に近づく)確率が高まることも知られています。このように子どもの能力値が親世代の極端な値から平均方向へ寄る現象を「平均への回帰」と言います。

では、なぜ平均への回帰が起こるのでしょうか。一つには遺伝と環境の複合的な影響が挙げられます。行動遺伝学の研究によれば、知能(IQ)はおよそ50%が遺伝要因で決まり、残り30%は家庭環境、20%は学校や友人関係など個人固有の環境要因で決定されるとされています 。つまり親から受け継ぐ遺伝的素質が大きな影響を持つものの、それと同時に家庭の経済・教育環境や本人の努力・経験といった要素も能力形成に寄与しているのです。親が高い知能や学歴を持つ場合、確かに子どもも平均より高い能力を持つ傾向はあります。しかし、多くの遺伝子や環境要因が絡み合う中で完全に親と同等の才能が再現される保証はなく、むしろ統計的には「親ほど極端にはなりにくい」方向へと子どもの能力が分布するのが一般的なのです。実際、「親に才能があるからといって子どもに才能があるとは限らない」ことや、その逆もまた真であることが専門家によって指摘されています 。

この現象を別の角度から見ると、親が極めて優秀であるほど子どもは相対的に“平凡”に近づく確率が高まるとも言えます。極端な例ですが、日本最高峰の大学である東京大学に現役合格するような学力は全国トップ約1%の層に相当します。その東大卒の親を一人持つ子どもが東大合格レベルの学力に達する確率は、推計で約10%程度とされています。裏を返せば、東大卒という非常に高い学力を持つ親であっても、その子どもの約9割は親ほどの学力水準に届かない可能性が高いということです。両親ともに東大卒であれば子どもの東大合格率は30%前後まで上がるという試算もありますが、それでも残る7割の子どもは親と同じトップレベルには至らない計算になります。これらはあくまでモデルに基づく推定値ですが、平均への回帰のイメージを掴む上で示唆的です。親が突出した学力を持つ場合でも、子ども世代ではより平均的な水準に戻る力が働く――この統計的な事実をまず理解することが、親の過度な期待を見直す第一歩になるかもしれません。

医師家庭に見る親子の学力傾向:高偏差値の親でも子も医師になるとは限らない

平均への回帰の傾向は、医師家庭の現状にも表れています。医師は大学受験でも最難関の医学部を卒業する必要があるため、一般的には医師である親は学生時代に極めて高い学力(偏差値)を発揮した人々だと言えます。そのため「医者の子どもは医者になる確率が高い」と昔から言われることもあります。しかし、現実には親が医師だからといって子どもも必ず医師になるわけではありません。ある調査によれば、正確な統計データはないものの体感的な値として、医学生全体のうち親が医師である割合は約30%、私立医学部に限れば約50%程度とも言われています。裏を返せば、医学生の残り70%以上は親が医師ではない家庭の出身だということです。実際、国内の医学部在学生1991人を対象に行われた2021年の調査でも、学生の30%以上が医師の子弟であり、世帯年収1800万円以上の家庭出身者が全体の4分の1を占めるなど、医学部生の家庭環境は裕福層に偏っている実態が明らかになりました。医師家庭は経済力や教育環境に恵まれており、子どもも医学部進学に有利な立場にはあります。それでもなお医学部生の大半は医師家庭以外から来ているのです。この事実は、いかに「親子二代で医師」は当たり前ではないかを示していると言えるでしょう。

親である医師自身の意識も、多様であることがデータから伺えます。開業医を対象にした意識調査は、「子どもに医師になってほしい」と答えた親は約6割で、「勧めない」とした親が約4割という結果が出ています。医師であっても子どもの進路にあえて介入しない、自由に選ばせたいと考える親も相当数いるということです 。医師という仕事自体にやりがいを感じている親ほど「子にも継いでほしい」と望む傾向がある一方、「責任が重く大変な職業だから勧めたくない」と考える親も少なくないようです。つまり、医師家庭だからといって一様に子どもを医師にしようとしているわけではなく、親世代の仕事観や子ども観によって対応は分かれているのです。

もっとも、「ぜひ自分の子も医師に」と望む親にとっては、近年の医学部進学のハードルが一段と高まっていることも看過できません。医学部入試の難易度は年々上昇傾向にあります。従来から国公立大学の医学部は非常に狭き門でしたが、近年は私立大学医学部でも学費引き下げ等の影響で志願者が増え、偏差値がおしなべて上がっています 。例えば2017年開設の国際医療福祉大学医学部は私立ながら学費を抑えた結果、偏差値が70前後と難関校になりました。逆に学費の高い私立医学部は偏差値がやや低めとはいえ、それでも早稲田・慶應・上智といった難関私大理工学部合格レベルの学力が最低限必要とされます 。文部科学省のデータによれば、2015~2018年の医学部合格者に占める現役(高校卒業時)合格者の割合はわずか32~36%程度に過ぎません。言い換えれば、医学部に合格する人の約2/3は一度では合格できず浪人など再挑戦を経ていることになります。この数字は医学部入試がいかに厳しいかを物語っています。親が医師である家庭でも、子どもがこの熾烈な競争を勝ち抜くには相当の学力と努力が必要です。仮に親自身が医学部合格者のトップ層(高偏差値)の出身だったとしても、子どもが同じ水準に届かなければ医学部進学は叶わないわけです。平均への回帰によって子どもの学力が親ほど突出しなかった場合、医師家庭であっても子どもの医学部合格は決して容易ではないと言えるでしょう。

国内のみならず、医師という職業が特定の家庭に世襲される傾向は海外でも指摘されています。例えばスウェーデンの大規模データを解析した研究では、1980年代生まれの医師の5人に1人は親も医師だったと報告されています(1950年代生まれ医師では親が医師だった例は約5%で、それが現在は3倍に増加)。アメリカでも「医学生の5人に1人は医師を親に持つ」といった報告があり、経済的・文化的に恵まれた医師家庭の子女が医学界に多く進出している現状があります。しかしその一方で、前述のように個人レベルで見れば「医師の子だから必ず医師に」という単純な因果は成り立たない点に注意が必要です。親から職業に関する知識や人脈の伝達があるとはいえ、最終的に医学部に合格できるかどうかは子ども自身の学力と適性次第です。次章では、親子で職業継承を望む際に浮上する問題点を具体的に見ていきましょう。

親の期待と職業継承のプレッシャーが引き起こす問題

親が高学歴であること自体は子どもにとって有利なスタートと言えますが、それが過度な期待やプレッシャーとなると子どもの心身に悪影響を及ぼす恐れがあります。親が「自分と同じ医師になってほしい」という思いを一方的に強く押し付けると、子どもは自分の人生が親のレールに敷かれているような息苦しさを感じるかもしれません。特に子どもの学力が親の期待する水準に達していない場合、親の期待と現実とのギャップが親子双方に大きなストレスをもたらすことになります。子どもにしてみれば、どんなに頑張っても親の成績や実績に届かないという劣等感を抱き、自信を喪失してしまう危険があります。また、親から頻繁に「もっと勉強しなさい」、「なぜできないんだ」などと責め立てられれば、子どもの自己肯定感は下がり、場合によっては親子関係が険悪化して反発心ばかりが募る結果にもなりかねません。

行き過ぎた教育熱心さが虐待的な様相を帯びてしまうケースも社会問題として指摘されています。近年、「教育虐待」という言葉が注目されており、それは「子どもの将来のため」との名目で無理な勉強スケジュールを強いたり、成果が上がらないと過度に叱責や罰を与えたりする行為を指します。首都圏では中学受験の過熱に伴い、子どもが中学生にもならないうちから塾漬けにする親もいますが、こうした極端なケースでは子どもがうつ病や不安障害を発症する例も報告されています。医学部受験は中学受験以上に難易度が高く親の経済力も絡むため、親の側もつい熱が入りがちです。しかし、たとえ親心からの期待であっても、子どもにとって許容範囲を超えたプレッシャーは心の健康を損ねる危険があります。最悪の場合、勉強そのものに拒否反応を示したり、親への反発から意図的に成績を下げるような行動に出たりする子どももいるでしょう。これは親が望んだ結果とは真逆であり、双方にとって不幸な事態です。

また、職業継承を前提に子どもを医師にしようとする場合の実務的な問題も考えておく必要があります。仮に親が開業医で自分のクリニックを将来子どもに譲りたいと考えていても、子どもが医学部に合格できなかったり医師にならなかったりすれば計画は崩れます。そうした場合、クリニックの後継者問題が浮上します。子どもが継がない場合の選択肢としては、クリニックで勤務する別の医師(副院長など)に引き継ぐ、第三者に事業譲渡する(M&A)、あるいは廃業・閉院する、といったパターンが考えられます。

後継者がいないために引退時に閉院せざるを得ない開業医も多いとされます。親としては「できれば子に承継してほしい」と願う気持ちが強いでしょうが、子どもが医師にならなければ経営面でも早めに代替策を検討せざるを得ないのが現実です。このように、親の計画通りに職業継承が進まない場合に備えておく必要があることも、開業医家庭ならではの課題と言えるでしょう。

総じて、親が高学歴・高偏差値で子どもにも同等の成果を求める状況では、心理的な問題(プレッシャーや親子関係の悪化)と実務的な問題(後継者不在による事業の行方)の双方が顕在化し得ます。では、こうした問題に対して親はどのように向き合えば良いのでしょうか。次の章では、子どもの健全な成長と進路選択を支えるための教育的アプローチについて考えてみます。

子どもの個性を尊重し、適性を見極める教育的アプローチ

子どもの将来を思う親としてできることは、「ただ医者にさせる」ために猛勉強を強いることではなく、子どもの資質や希望に寄り添い、その可能性を最大限に伸ばしてあげることです。以下に、親が実践できる具体的なアプローチの一例を挙げます。
子どもの興味・関心や個性を尊重する: 子どもが何に興味を示し、どんな才能の片鱗を見せているのかを日頃から観察しましょう。たとえ親の望む医療分野と異なる分野に強い関心や適性が見られても、頭ごなしに否定せず受け止めることが大切です。個性を尊重された子どもは自己肯定感が高まり、意欲的に行動しやすくなるとされます。まずは子ども自身が情熱を持てるものを一緒に見つけ、それを応援する姿勢を示しましょう。
学力だけでなく「適性」に目を向ける: 医師という職業には学力だけでなく、責任感や共感性、粘り強さなど様々な資質が求められます。子どもがそうした資質を持ち合わせているか、医師になることを本人が本当に望んでいるかを見極めましょう。仮に子どもが理科や数学が苦手だったり人と接するのが好きでなかったりする場合、無理に医師に向かわせることが本人の幸福に繋がるか慎重に考える必要があります。逆に「人を助けたい」という強い意志を子ども自身が持っているなら、多少学力面で不安があっても親子二人三脚で補い合うことで道が開ける可能性もあります。得意科目や強みを伸ばし、苦手分野は戦略的にカバーする工夫をするなど、子どもの適性に合わせた学習支援を検討しましょう(昨今では一部の私大医学部で科目を絞った受験が可能になるなど、努力次第で活路を見いだせる制度もあります)。
「親だからこそ」のサポートを提供する: 経済的・教育的に恵まれた環境は大いに活用しましょう。ただし、それは子どもを無理に塾漬けにするという意味ではありません。たとえば医師である親なら、日常会話の中で医療の魅力ややりがいについて話してあげることでしょう。あるいは子どもが興味を示すなら病院の職場体験や医療ボランティアへの参加を支援し、職業観を育てる手助けをするのも有意義です。親の人脈で信頼できる家庭教師やメンターを紹介してあげるのもよいでしょう。大切なのは、親が“監督”ではなく“伴走者”として寄り添う姿勢です。子どもが困ったときにはいつでも相談に乗り、失敗しても受け止める存在であることを伝えてください。
心理的なサポートと健全なプレッシャー管理: 子どものメンタルヘルスにも注意を払いましょう。受験や将来への不安で子どもが押し潰されそうなとき、親は単に「頑張れ」ではなく心のケアを優先する必要があります。時には勉強から離れてリフレッシュする時間を設けたり、専門のカウンセラーや教師と連携して子どもの不安を軽減したりすることも選択肢です。親の期待を伝えるにしても、「あなたならできる」という励ましの言葉とともに、「たとえ医者にならなくても大丈夫だよ」という安心感を与える言葉を伝えるよう心がけてください。過度なプレッシャーは逆効果であることを忘れず、プレッシャーとモチベーションのバランスを取ることが重要です。

以上のようなアプローチは、「子どもを医者にさせる」こと自体が目的なのではなく、子どもが自分の力で将来を切り拓くことを親が後押しすることに主眼を置いています。子どもがたとえ医学部以外の進路を選んだとしても、これらの姿勢は決して無駄にはなりません。むしろ、親から尊重と支援を受けた経験は子どもの人生全般にポジティブな影響を与えるでしょう。

子どもの人生は子どものもの——親が持つべき覚悟と姿勢

最後に、医師である親が心に留めておくべき姿勢について考えてみましょう。結論から言えば、「子どもの人生は子どものものである」という原則に立ち返ることが何より大切です。親が高学歴であれ医師であれ、子どもには子どもの個性と人生があります。親はその良き案内人・支援者であって、決して子どもの人生を自分の思い通りに操縦する操縦者ではありません。たとえ親が「自分と同じ道に進んでほしい」と強く願っても、最終的に進路を選ぶのは子ども自身であり、親にできるのは最善の助言と環境づくりまでです。

医師家庭の場合、「自分が築いたクリニックを子どもに継がせたい」という思いもあるでしょう。しかし、仮に子どもが医師にならず別の道で幸せを見つけたとしたら、それを尊重してあげる度量も親には求められます。親の期待よりも子どもの幸せを優先する覚悟が必要です。親の価値観から見れば医師という職業は魅力的かもしれませんが、子どもにとっては別の生きがいがあるかもしれません。子どもが悩んだ末に医師とは異なる進路を選んだなら、それまでの努力や経験も決して無駄にはなりませんし、親としても胸を張って送り出しましょう。

一方で、子ども自身が「医師になりたい」と望む場合には、親としてできる限りの支援を惜しまないことも大事です。ただしそれは決して「親の期待に応えるために子どもが犠牲になる」ような支援の仕方であってはいけません。子どもが主体的に努力し、親はそれを支えるという関係性を築くことが理想です。親が自分のキャリアや経験を押し付けるのではなく、それらを参考情報として伝えつつも、最終的には子どもの意思決定を尊重する——そんなバランス感覚が問われます。

最後にもう一度強調したいのは、平均への回帰という現象は確かに存在しますが、それは決して悲観すべきことではないということです。親が優秀であっても子どもは子どもなりのペースと道筋で成長していきます。たとえ親の若い頃と比べて「平凡」に見えたとしても、長い目で見れば子どもは親とは違う形で花開く可能性もあります。重要なのは、親がその芽を摘まずに伸ばしてあげることでしょう。親の高い学歴や知識は、子どもを支援する武器にはなっても、子どもの人生を決定づけるものではありません。

「子どもの人生は子どもが選択する」——これはシンプルですが奥深い真実です。高偏差値の親ほどその言葉を噛み締め、良き理解者として子どもの未来を見守る姿勢が求められているのではないでしょうか。子どもが自身の適性と夢に向かって進んでいくことこそが、最終的には親の望む幸せにも繋がるのだと私たちは信じています。

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