グループ面接(グループ討論)の概要と評価ポイント
金沢医科大学医学部の二次試験では、グループ面接(グループ討論形式の面接)が実施されます。同じ年齢のグループを作るために、朝から年齢の若い順番に面接が実施されます。面接官3名に対し受験生3~6名で行われ、討論時間は約15~20分です。討論前に受験生全員で同じテーマの課題文を別室で約9~10分読み、要点をメモします。
課題文は別室に置いたまま、メモだけをを持って面接室に移動すると、各受験生の席に課題文に関する質問シートが置かれており、2分程度で回答を考えます。質問シートの質問は受験生ごとに別の質問です。
その後、順番に回答と自分が討論したいテーマを1分程度で発表し、全員の発表後に自由討論がスタートする流れです。
このグループ討論は他大学にはあまり例のない独自形式であり、受験生同士の議論の様子を面接官が観察・評価します(討論の様子はビデオ録画されますが気にしないでください )。面接官は討論中一切口出ししないため、受験生だけで議論を進行する必要があります。最悪の場合、誰も発言せず沈黙が続いてそのまま終了してしまうこともあり得ます。したがって、沈黙が生じた場合でも誰かが話題を提供し、議論を途切れさせないことが重要です。
評価される主なポイントは、単に知識や意見の優劣ではなく、コミュニケーション能力や協調性、思考力、人間性など総合的な態度です。同大学の入学者選抜要項によれば、グループ討論で求められる学生像として「周囲に対する協調性や思いやりの心をもち、あらゆる面で自己啓発を怠らない人」と記されています。これはすなわち、自分の意見ばかり主張して目立とうとしたり、他者の意見を否定するような態度はNGということです。代わりに、他の受験生が発言しやすいよう配慮しながら、自分の考えもしっかり伝え、円滑なコミュニケーションを図れるかが評価されます。与えられた課題に対して論理的に考え、自分なりの意見を持つことも重要ですが、討論ではそれ以上に相手の話を傾聴し、適切に相槌や質問を返す姿勢が重視されます。実際、討論中にとんちんかんな発言をしたり黙り込んだりして議論を止めてしまうことは避けるべきだと指摘されています。また、自分だけ目立とうとする自己中心的な振る舞いや、ディスカッションに夢中になるあまり他者を批判するような言動も減点対象です。こうした態度面を含めたコミュニケーション力・協調性が主に評価されると考えられます。
グループ面接での過去のテーマ例
グループ討論のテーマは毎年変わりますが、傾向として医療や社会に関する問題が頻出です。過去には以下のようなテーマや質問が取り上げられています:
• 医師不足(医師の数が不足する問題) – 医学部入試では定番のテーマで、事前知識があると議論しやすいとされています。
• がん告知の是非(患者にがんの診断を伝えるべきか) – 患者への真実告知を巡って意見が分かれやすく、下手をすると討論が対立的になりがちなテーマですが、医療倫理に関する知識があると適切に議論できます。
• 安楽死と尊厳死 – ALS患者の嘱託殺人事件(京都府で起きた事件)で話題になったテーマで、生命倫理に関する深い知識が問われました。
• 被災地における看護師の役割 – 災害発生時における看護師の役割について。チーム医療の観点から看護師の仕事内容や重要性を理解しているかが問われます。
• 地球温暖化 – 医療直接関係というより社会問題ですが、原因・結果や解決策など一般教養として知っておくべき内容で、的確に説明できることが求められました。
• 人口増加と飢餓 – 世界的な人口増加に伴う食糧不足の問題。南北問題や富の再分配など、医療とも関連付けて議論を発展させることも可能なテーマです。
近年は医療現場の具体的な状況を想定したシナリオ型の質問も見られます。例えば2024年度前期入試では、「末期がん患者に希望を持たせるためにはどのような対応をするか」「患者からの質問にどのように対処するか」といった、医療従事者としての対応策を考えさせる実践的な問題が出題されています。また別の年の例では、「医師と患者の信頼関係が大切だが、それにはどんな問いかけが有効か」という趣旨の文章を読ませた上で、「病気として見るか疾患として見るか」「持病を抱える親友に『体調が悪いの』と言われたらどうするか」等、コミュニケーションや倫理観を問うような設問が与えられたケースも報告されています。このように、純粋な医療問題から医師患者間のコミュニケーション、生命倫理、社会問題まで多岐にわたるテーマが扱われていることがわかります。
過去問や受験報告を見ると、医療倫理や時事問題に関する知識がディスカッションの助けになることは明らかです。たとえば日本医師会が公表している『医の倫理について考える~現場で役立つケーススタディ~』などを読んでおくと医の倫理に関する基礎知識が身につき、これらのテーマにも対応しやすくなると指摘されています。事前に医療ニュースや社会問題にも目を通し、自分なりの意見をまとめておくと良いでしょう。
グループ面接攻略のポイントと最新動向
グループ討論で合格するためのポイントは、大きく分けて「態度面」と「内容面」の両方にあります。
まず態度面では、先述のとおり協調性と思いやり、積極的な傾聴姿勢が不可欠です。他の受験生を「ライバル」ではなく「討論の仲間」と捉え、全員で協力して全員合格するくらいの気持ちで臨むのが最大のコツです。「同じグループのみんなで合格するぞ!くらいの気持ちで話し合おう」という心構えでのぞむことをおすすめします。討論中は自分の意見を述べるだけでなく、他者の意見にうなずいたり質問を返したりして議論を深めることも大切です。発言順が一巡した後は自由討論になりますが、誰かが詰まってしまった時には別の人がフォローして話題を提供するなど、チームで議論を作り上げる意識を持ちましょう。
一方内容面では、与えられた課題文やテーマに対して的外れでない論理的な意見を準備することが重要です。最初に各自が答える質問は受験生ごとに異なる場合があり(年度によっては全員共通の問いの場合もありますが)、課題文の趣旨に沿った自分の考えを1分程度でまとめて述べる必要があります。この短時間でのプレゼンテーション力も試されます。回答内容はできるだけ具体例や根拠を交えて論理的に述べると説得力が増します。ただし議論が始まったら、用意してきた知識や意見に固執しすぎず、臨機応変に他者の話に応答しながら自分の考えを展開してください。面接官は討論中ほとんど発言しないため、自分たちで議論を広げ深める主導性も評価につながります。
注意すべきNG行動も明確になっていて、以下のような行為は減点対象になります。
• 沈黙してしまうこと(考え込んで発言が止まるのは厳禁)
• 他の受験生への批判(議論に熱中するあまり相手を否定・攻撃しない)
• 傾聴しない態度(人の意見を聞かず自己主張ばかりする姿勢)
• 独りよがりな発言(自分だけ目立とうとする自己中心的な振る舞い)
これらはすべて面接官にマイナス評価を与える振る舞いです。一次試験を突破した時点で合格は目前ですから、不要な減点を防ぐことが肝要です。どんな状況でも慌てず落ち着いて対応し、周囲と協調しながら自分の考えを述べる冷静さが医師として求められていると考えてください。
ビデオ撮影への対処についても触れておきます。グループ討論の様子は毎回録画され、後日改めて評価される仕組みです。カメラが回っているからといって委縮したり意識しすぎたりせず、普段の自分らしい振る舞いを心がけましょう。不正や見かけ倒しのアピールは通用せず、ありのままの協調性や人間性が見られると思ってください。
最新の傾向として大きな形式変更は報告されていません。グループ討論の基本的な流れや評価観点はここ数年一貫しています。ただ、毎年テーマは変化し、医療を取り巻く時事問題や社会状況が反映される傾向があります。近年ではAI医療や感染症、公衆衛生といった話題が他大学で取り上げられる例もあるため、金沢医科大でも時流に沿ったテーマが出る可能性があります。過去にはCOVID-19に直接関連するテーマは確認されていませんが、医師-患者のコミュニケーションや医療従事者の役割といった観点で時事問題が組み込まれることがあります。最新年度(2024年度)の討論では患者との信頼関係や終末期医療の話題が扱われており 、より実践的で倫理観を問う内容が増えている印象です。受験生は直近の医療ニュースや社会問題もチェックし、自分の意見を整理しておくと安心でしょう。
小論文試験の傾向と対策
二次試験では小論文も重要な要素です(配点60点)。60分で課題文型の小論文に解答しますが、その形式に近年変化が見られます。
2019年までは与えられた文章を読んで300字以内で要約する形式でしたが、2020年以降は形式が変更され、課題文の要約とそれに関する自分の意見をそれぞれ200字以内で書く二問構成になりました。具体的には、問1で課題文の要旨をまとめ、問2で「課題文の内容を踏まえて自分の考えを書きなさい」といった指示に応じて意見を述べる形です。字数は各200字程度と比較的短いため、簡潔に要点をまとめ表現する力が求められます。
2021年からはさらに新しい傾向が加わり、課題文を要約させた後でグラフや図表を読み取らせる問題が登場しています。例えば2024年の前期試験では、「一人当たりのチョコレート消費量とノーベル賞受賞者数の関係」を示すグラフが課題文に添えられ、それを踏まえて解答する問題が出されました。このように課題文+図表という複合型の出題が近年見られ、文章読解力だけでなく情報を統合して解釈する力が試されています。グラフが出題される場合、課題文自体も科学的内容を含む難しめの文章であることが多く、受験生にとってややハードルが高い傾向があります。実際、「科学」にまつわるテーマ(例えば統計データや研究結果に関する文章)が増えており、理系的な読解に不慣れだと読みづらく感じるかもしれません。
攻略法としては、まず要約力が肝心です。課題文全体を漫然と読み写すのではなく、筆者の主張や論旨を正確に掴み、それを中心にまとめるよう心がけましょう。文章中の事実や例証を均等に詰め込む必要はなく、あくまで筆者の言いたいこと(主張の骨子)を200字で的確に要約する練習を積んでください。要約がしっかり書けないとその後の意見論述も論点がずれてしまうため、読解→要約の基礎力養成が不可欠です。
次に自分の意見を書く問2では、課題文の内容を踏まえつつも自分の考えを論理的に展開することが求められます。ここで重要なのは、課題文との関連性を保つことです。課題文で提示された問題提起やデータを無視して独りよがりな意見を書くと評価が下がります。特に図表がある場合は、グラフが示す事実に言及しながら自分の見解を述べる必要があります。2024年の例で言えば、チョコ消費量とノーベル賞者数の相関について課題文が論じている文脈を踏まえ、その要旨に沿って自分の考察を書くことが求められました。文章が苦手な受験生ほど「グラフ読み取りならできそう」と飛びつきがちですが、文章内容の理解をおろそかにしてグラフだけ論じるのは失敗のもとです。京都医塾の分析でも、「読解から逃げてグラフだけ説明しようとするのは敗着の一手」と厳しく指摘されています。必ず課題文を丁寧に読み、筆者の主張+図表の示す情報+自分の意見を関連付けて論述するようにしましょう。
練習方法としては、日頃から新聞や科学系の記事など論説文を読んで要約し、自分の見解を200字程度で述べる訓練が有効です。特に科学・医療に関する話題が出やすいため、興味深い医療記事を読み、その要点と意見を書く練習をしておくと本番でも落ち着いて対応できるでしょう。過去の課題文テーマとして公表はされていませんが、傾向として医療制度や生命倫理、科学技術の話題などが多いと考えられますので、その分野の知識や語彙を増やしておくことも役立ちます。
最後に、小論文は配点60点と決して軽視できない科目です。一次試験の学科得点(英数理350点満点)と二次試験の小論文60点・面接等110点は合算され、合否判定に用いられます。小論文・面接のウエイトは高く、ここで差がつく可能性も十分にあります。したがって、小論文対策も手を抜かず確実に行うことが重要です。
個人面接とその他の二次試験要素
金沢医科大学医学部の一般入試(二次試験)では、個人面接は実施されていません。面接試験は前述のグループ討論のみで構成されており、それが面接点110点の評価対象となります 。以前は個人面接も行われていたという情報もありますが 、近年の一般選抜ではグループ面接が面接試験のすべてとなっています。したがって、志望動機や自身の長所短所といったオーソドックスな質問を直接問われる場はありません。
しかし、討論終了後にアンケート(受験調査票)を書く時間が設けられており、ここで「本学について知っていること」「本学の魅力」「併願校」などを記入するよう求められます。これは言い換えれば、志望理由や大学への理解度を問う内容になっています。面接官との対話ではありませんが、自筆で回答を残す形で大学側にアピールする機会といえます。従って、事前に金沢医科大学の特色や教育方針を調べ、自分が感じる魅力や志望理由を明確にしておくことが大切です。例えば、金沢医科大学の理念(「倫理に徹した人間性豊かな良医の育成」 )や教育環境(地域医療への貢献、少人数教育体制など)、他大学にはないカリキュラムなどについて理解し、自分がその大学で学びたい理由を語れるようにしておきましょう。併願校についても正直に記入する必要がありますが、本学第一志望であることが伝わるような書き方が望ましいとされています。アンケートの内容自体が直接点数化されるかは不明ですが、この回答用紙も含めて調査書等とともに面接点110点の評価資料になる可能性があります。油断せず丁寧に記入しましょう。
また、「調査書(高校からの成績・人物評価書)」も二次試験で考慮されます。面接点110点の中には調査書点も含まれているため、学科試験の点数だけでなく高校時代の学業成績や活動歴も総合評価に入っています。もっとも、調査書は直前に対策できるものではありませんので、既に提出済みの場合は気にしすぎる必要はありません。ただし、アンケートで記入する学校生活のエピソードなどが調査書の内容と一貫していると望ましいでしょう。
総じて、金沢医科大学の二次試験対策ではグループ討論と小論文の対策に集中すべきです。グループ討論では協調性・コミュニケーション力を最大限に発揮しつつ、自分の意見も論理的に述べるバランス感覚が鍵となります。一緒に討論する受験生を仲間と捉えて協力し合う姿勢で挑めば、きっと面接官にも良いチームワークと人間性が伝わるでしょう。小論文では課題文の読み取りから要約・論述まで基本を押さえ、的確で簡潔な表現力を養ってください。最後のアンケートでは大学愛や熱意を示し、自分が本学で学ぶのに相応しい人物であることをアピールするつもりで望むと良いでしょう。
こうした対策を万全にしておけば、金沢医科大学医学部二次試験で求められる力を十分発揮できるはずです。公式発表や信頼できる受験報告を参考に準備を進め、ぜひ合格をつかんでください。応援しています。