日本の医師の生涯未婚率(男性医師 vs 女性医師)
日本における医師の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)には、男女で大きな差があります。最新の統計データによれば、男性医師の生涯未婚率はわずか数%程度と非常に低いのに対し、女性医師では30%以上にも上ります。つまり男性医師はほとんどの人が結婚する一方で、女性医師は約3人に1人が生涯未婚という状況です。これほど極端な男女差は一般人口における傾向とも逆転しています。実際、日本全体の生涯未婚率(2020年国勢調査)では男性約28.3%、女性約17.8%であり、一般には男性のほうが未婚率が高いのが通常です。しかし医師という職業集団に限るとこの関係が逆になり、男性医師の未婚率は一般男性より格段に低く(=結婚率が非常に高く)、女性医師の未婚率は一般女性より倍近く高いという特殊な状況になっています。
この男女差の大きさは複数のデータ源で確認されています。例えば、厚生労働省の調査によると50歳時点で未婚の医師は、男性医師で約1~3%に過ぎないのに対し、女性医師では13~35%と報告されています。統計の条件や年代によって多少の差はあるものの、いずれのデータでも女性医師の未婚率が男性医師の数倍以上と突出して高いことが示されています。女性医師の未婚率がこれほど高い職業は他にあまり例がなく、「女性医師の3人に1人は生涯独身」という現象はメディアでも取り上げられています(ドラマで「女医の3分の1は生涯未婚、3分の1は離婚、3分の1だけが結婚を継続」という「3分の1の法則」が紹介されたほどです)。男女でここまで結婚状況が異なる背景には、様々な要因が関係していると考えられます。
女性医師の未婚率が高い背景・要因
男女間で生涯未婚率に大きな差が生じる背景には、労働環境や社会的期待(性別役割観)、家庭との両立の難しさなど複数の要因が指摘されています。以下に主な要因を整理します。
- 過酷な労働環境と時間的制約: 医師は長時間労働や不規則勤務が当たり前で、研修医時代から多忙を極めます。男女問わずプライベートの時間確保が難しい職業ですが、特に女性医師の場合、その忙しさが結婚につながる出会いや交際の機会不足に直結しやすいと考えられます。実際、「仕事が忙しすぎて出会いがない」ことは女性医師たちが口を揃えて挙げる悩みです。また、医師国家試験の勉強から卒後の研修・専門医取得まで時間的余裕がなく、結婚を先送りしがちなことも指摘されています。
- 仕事と家庭の両立の困難さ: 女性医師にとって、キャリアを継続しながら結婚・出産し家庭生活を維持するハードルが非常に高い現状があります。厚労省のデータでも、女性医師は出産・育児期にあたる30代前半で就業率が大きく低下し、卒後10年以内に離職や非常勤化する人が多いという典型的なM字カーブを描くことが示されています。つまり子どもを持つ女性医師が常勤医として働き続けることは極めて困難であり、結果としてキャリアと家庭の両立が難しいために結婚自体を諦めたり先延ばしにしたりするケースが少なくありません。家庭との両立ができずに離職を選ぶ女性医師も多い一方、仕事を優先すれば家庭を持ちにくいというジレンマが未婚率の高さにつながっていると考えられます。
- 社会的期待・結婚観のギャップ: 日本社会では依然として「夫は仕事、妻は家庭を優先」といった性別役割分業の意識が根強く残っています。そのため高学歴で多忙な女性医師は、結婚相手として敬遠されてしまう場合があります。男性側に「妻には家庭を守ってほしい」という期待があると、仕事優先になりがちな女性医師との結婚を躊躇する要因になりえます。また一方で、男性医師は結婚相手として非常に人気が高いため、自身が希望すれば結婚しやすい状況にありますが、女性医師は男性から必ずしも高い人気を得られていないのが実情です。実際、男性医師との結婚を専門に扱う結婚相談所が存在するほど男性医師は「モテる」のに対し、「女性医師だからといって男性から求められて困る」という話はほとんど聞かれないとも言われています。このような結婚市場における評価の差が、男女の未婚率の差にも反映されていると考えられます。
- 出会いの機会と配偶者選択のミスマッチ: 医学部在学中は男女比の関係で女性学生が希少な存在となるため比較的交際相手に恵まれやすいですが、卒業して医師になると職場環境は一変します。典型的な病院勤務では看護師や医療事務など周囲に女性が多く男性が少ない職場となるため、女性医師が職場で新たな男性と出会う機会は限られてしまいます。一方で、同僚の男性医師は多数の女性スタッフに囲まれる環境となるため、学生時代に比べ女性医師が男性医師と交際関係に発展するハードルが上がります。さらに、女性医師自身が結婚相手に高学歴・高収入を求める傾向も指摘されています。例えば「どうせなら同業の医師か、自分と同程度の収入・学歴を持つ専門職と結婚したい」と希望する女性医師も多く、相手の条件を絞り込むことで出会いの範囲が狭まっている面もあります。しかし実際には、同じ医師の男性は忙しさゆえに家庭を支えてくれる相手を望んで看護師など他職種の女性と結婚するケースも多く、このミスマッチが女性医師の婚期を遅らせる一因となっています。
- 経済的自立と結婚の優先度: 女性医師は高収入で経済的に自立できるため、「結婚しなくても生活に困らない」点も未婚率を押し上げる要因と考えられます。内閣府の調査によれば、一般に女性は年収が高くなるほど生涯未婚率が上昇する傾向があり、年収1000万円を超える女性の未婚率は平均より高くなるデータがあります。医師はまさに高収入職の代表であり、経済的に独り立ちできる女性医師は無理に結婚に踏み切らなくてもよいという選択肢を取りやすいでしょう。また女性医師は離婚しても自力で収入を得られるため、「結婚生活に無理してしがみつかない」傾向も指摘されています。実際、女性医師は離婚率も他職種より高いとされ、「女性医師は未婚率1/3・離婚率1/3」とも言われるゆえんになっています。このように経済力ゆえの結婚観の違いも、生涯未婚率の高さに影響していると考えられます。
以上のように、女性医師の生涯未婚率が高い背景には、過酷な勤務による時間不足、仕事と家庭の両立の壁、結婚相手に対する社会的・文化的なミスマッチ、そして経済的自立による結婚の選択肢の変化といった複合的な要因が絡み合っています。一方、男性医師は高収入・高ステータスにより結婚相手として非常に需要が高いことから、自ら望めば比較的容易に結婚できる環境にある点も見逃せません。これらの要因が組み合わさり、**「男性医師はほぼ全員結婚、女性医師は3人に1人未婚」**という極端な差につながっていると考えられます。
他国との比較:日本に特有の現象か?
日本の女性医師の未婚率の高さは際立っていますが、これは国際的に見て特異な傾向と言えるでしょう。他の先進国、例えばアメリカ合衆国や欧州主要国(ドイツ、フランス、イギリスなど)における医師の結婚状況と比較してみます。
アメリカの場合、医師の男女で結婚状況に差はあるものの、日本ほど極端ではありません。医師向け調査によると、米国の男性医師の85%が結婚しているのに対し、女性医師は72%が結婚しているというデータがあります(残りは同棲中が数%ずつ、未婚のまま交際相手もいない「シングル」の割合は女性医師11%、男性医師5%程度)。別の研究でも、米国女性医師の約18.8%は独身(未婚)で男性医師の11.2%より高いという報告があります。確かに米国でも女性医師の方が結婚しない割合はやや高いのですが、その差は日本ほど大きくありません。**「医師の結婚相手としての人気」**も日本とは逆で、米国では男女とも医師同士で結婚するケースが多く、医師の約20%が医師同士の夫婦でさらに25%が医療従事者(看護師など)と結婚しているとの調査もあります。男女いずれの医師も高い結婚率を示し、女性医師だけが大勢未婚のまま取り残されるような傾向は見られません。
欧州主要国でも概ね同様で、女性医師の未婚率が突出して高いという報告は見当たりません。例えばイギリスの医師キャリア追跡調査では、34~36歳時点で女性医師の83%が結婚または事実婚(パートナーと同居)しており、これは同年齢の一般女性(71%)よりむしろ高い水準でした。同調査で男性医師は89%がパートナーありと報告されており、男女差はわずかです。イギリスでは近年医師の半数以上が女性となりましたが、家庭と仕事を両立しつつ多くの女性医師が結婚・出産も実現しています。ドイツやフランスでも女性医師の割合が増える中、女性医師が結婚しないまま多数いるという話題は特に報告されていません。総じて欧米の医師は男女とも高い結婚率を保っており、「女性医師の生涯未婚率が男性医師の10倍以上」という日本のような極端なギャップは確認できません。
この国際比較から浮かび上がるのは、日本の女性医師に特有の結婚の難しさです。日本の医療業界の働き方(長時間労働、休暇の取りにくさ)、社会のジェンダー観、サポート制度の不足などが複合し、他国に比べて女性医師が結婚しにくい環境を生んでいると考えられます。一方で欧米では、女性の社会進出に伴う職場環境の改善や価値観の変化により、女性医師であってもキャリアと家庭を両立しやすい土壌があると推測されます。例えば米英では夫婦で家事育児を分担する意識が比較的浸透し、医師同士・専門職同士の結婚も一般的です。また勤務形態の柔軟化(時短勤務やパートタイム医師など)により、女性医師が家庭を持ちながら働き続けやすい仕組みも整備されています。こうした違いが、日本と他国の女性医師の生涯未婚率の差異として現れていると言えるでしょう。
まとめ
日本における男性医師と女性医師の生涯未婚率の差は際立っており、男性医師がほとんど結婚しているのに対し女性医師は約3割が生涯未婚という逆転現象が見られます。その背景には、過酷な労働環境による時間不足、仕事と家庭の両立の難しさ、性別役割観による結婚相手選びのミスマッチ、そして女性医師の経済的自立といった様々な要因が絡んでいます。また他国と比較すると、このような女性医師の未婚率の高さは日本特有とも言え、欧米では女性医師も含め医師の多くが結婚して家庭を築いています。今後、日本の医療界でも働き方改革や支援制度の充実を図ることで、女性医師がキャリアと家庭を両立できる環境を整え、結果的に結婚や出産の選択肢も諦めずに済むようにすることが課題と言えるでしょう。そのような取り組みが進めば、将来的には医師の生涯未婚率の男女差も緩和されていくことが期待されます。
