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診療科別に見る医師の忙しさとQOL:都市部勤務医のリアルな働き方

東京や大阪といった都市部の病院勤務医について、診療科ごとの労働環境(忙しさ)とQOL(生活の質)には大きな差があります。厚生労働省の『医師の勤務実態調査』(令和元年調査)の結果によれば、週あたりの平均勤務時間は診療科によって約46時間から61時間と大きく異なっています。一般に、手術や救急対応の多い診療科は長時間労働になりやすく、当直・オンコール(待機呼び出し)の頻度も高いため、ワークライフバランスは厳しくなりがちです。一方で、緊急対応の少ない診療科では勤務時間が比較的短く抑えられ、休日取得やプライベートの時間を確保しやすい傾向があります。以下に主要な診療科について平均的な忙しさの指標をまとめます。

診療科別の平均週勤務時間(都市部病院勤務医)

表は厚労省調査による病院常勤医師の週平均勤務時間です(オンコール待機時間等を含む)。数字が大きいほど忙しい(労働時間が長い)ことを示します。

診療科(専門領域)平均週勤務時間1
外科61時間54分
脳神経外科61時間52分
救急科60時間57分
整形外科58時間50分
産科・婦人科(産婦人科)58時間47分
総合診療科57時間15分
内科(一般内科)56時間13分
泌尿器科56時間59分
耳鼻咽喉科55時間02分
皮膚科53時間51分
放射線科52時間54分
病理診断科52時間49分
麻酔科54時間06分
形成外科54時間29分
小児科54時間15分
リハビリテーション科50時間24分
眼科50時間28分
精神科47時間50分
臨床検査科46時間10分
全診療科平均56時間22分

表のとおり、外科・脳神経外科・救急科などは平均で週60時間を超える長時間労働で最も忙しい部類です。これらは緊急手術や救急対応の頻度が高いためで、実際「外科(一般外科)」は週約62時間と最長でした。逆に臨床検査科や精神科、眼科、リハビリ科などは50時間前後で、比較的勤務時間が短い傾向にあります。特に臨床検査科は週46時間程度と最も短く、検査業務中心で夜間対応が少ないことが反映されています。また、都市部と地方部を比較すると、20~50代の医師では勤務時間に大きな差はなく、地域差よりも診療科差のほうが勤務時間に影響しているようです。

当直・オンコール頻度による忙しさの違い

忙しさを左右するもう一つの要因が当直・オンコール業務です。都市部の大病院では多くの診療科で夜間や休日の対応が求められますが、その頻度にも科ごとの差があります。厚労省の調査によれば、救急科の医師は実質「ほぼ必ず当直がある」状態で、日直ありと答えた医師が約92%、宿直ありが94.4%にも達しました。脳神経外科も当直や待機が多く、月4回以上オンコールで呼び出される医師の割合は36.7%と全科でトップです。次いで産科・婦人科(産科婦人科)が31.3%、内科系(呼吸器・消化器・循環器など)が30.9%、外科が29.0%、麻酔科が23.0%と続いており、これらの科では月に4回以上も呼び出される医師が2~3割いる状況です。一方、眼科・耳鼻科・皮膚科・泌尿器科などは緊急対応が少ないと考えられがちですが、それでも「月4回以上オンコール呼出あり」が15.3%というデータもあります。つまりどの科でも多少の夜間対応はあるものの、脳外科や産婦人科などではオンコール負担が飛び抜けて多いのが現状です。

こうした夜間・緊急対応の負担が多い科では当然ながら生活の質(QOL)に影響が及びます。例えば当直やオンコールが頻繁な外科系では、夜間の呼び出しや長時間の緊急手術で睡眠や家庭生活の時間が削られがちです。実際、外科医は他科に比べ労働時間が長く、緊急対応が不可欠なため家庭との両立が特に難しいと指摘されています。その結果、後述のように女性医師が敬遠する要因にもなっています。一方で、緊急対応の少ない科は比較的オンコール負担が軽く、その分計画的に休暇を取得しやすい傾向があります。ある調査では産婦人科や精神科、麻酔科は有給休暇の取得率が高めで、逆に外科や救急科は休暇を取りにくい様子もうかがえます。もっとも産婦人科は夜間の分娩対応など負担も大きい科ですが、所属医師数が多い病院では交代制で休みを確保しようとする工夫がされているのかもしれません。

診療科によるQOL(ワークライフバランス・満足度)の差

勤務時間や当直頻度の差は、そのまま医師のQOL(生活の質)にも表れます。一般的に、勤務時間が短くオンコールの少ない科はワークライフバランスが取りやすいため、医師の燃え尽き(バーンアウト)リスクも低めと考えられます。実際、救急科のように過酷な現場は国内外でバーンアウト率が高いことが報告されています。一方、皮膚科のように急変が少ない科では「他科より休む機会が多い」とされ、比較的余裕のある働き方が可能だという声もあります。日本の医師全体で見ると、自分の選んだ専門に満足している人は多く、あるアンケートでは75%の医師が現在の診療科に「満足」していると回答しています。しかし、その裏には「労働時間が長すぎる」「夜間呼び出しがつらい」といった不満もあり、特に忙しい診療科ほど**「将来は勤務先や科を変えてでも働き方を改善したい」と考える医師が少なくありません。近年は働き方改革の流れもあり、医師自身がキャリア選択の際にワークライフバランスを重視する動き**も強まっています。

具体的にQOLが高い(働きやすい)とされる診療科としては、前述のように眼科・皮膚科・精神科・リハビリ科などがよく挙げられます。これらの科は夜間の急患対応が少なく、比較的予定調和的な勤務になりやすいためです。また放射線科や病理診断科も患者と直接相対する業務が少ない分、自分のペースで仕事をしやすいと言われます。ただし一概に「楽な科」と言い切れるものはなく、科によって業務内容ややりがいも異なるため、一概の優劣ではありません。例えば小児科は勤務時間は平均並みですが夜間の急変対応や親御さん対応で精神的負担が大きく、「忙しさ」は数値以上との指摘もあります。また産婦人科は勤務時間こそ長いものの、命の誕生に立ち会うやりがいから高い満足度を感じる医師も多いようです。一方で外科系(外科・脳外科・整形外科など)では「責任の重さや体力勝負で大変だが、技術を磨く達成感がある」といった声が聞かれます。このように忙しさとQOLはトレードオフの関係にあるものの、各科ごとに仕事の魅力と大変さが存在し、それが医師の満足度を左右しています。

男性医師と女性医師の傾向の違い

男女で見ると、医師の忙しさやQOLの感じ方には傾向の違いも指摘されています。厚労省の統計では、週60時間以上勤務する医師の割合は男性41%、女性28%と男性の方が長時間労働者の比率が高くなっています。男性医師の平均週労働時間は約58時間、女性医師は約52時間というデータもあり、これには勤務形態や科の選択の違いが影響しています。一般に女性医師は結婚・出産を機に時短勤務や非常勤に切り替えたり、比較的時間に融通の利く診療科を選ぶ傾向があります。一方、男性医師は結婚後に仕事時間が増えるケースも多く、実際に「結婚すると男性医師は労働時間が増え、女性医師は減る」という調査結果もあります。これは日本では依然として家庭責任が女性に偏りがちなことが背景にあり、育児や家事のため女性医師が勤務をセーブする一方、男性医師は家計を支えるためむしろ働き続けるという構図が浮き彫りになっています。

特に顕著なのが外科系など重労働の診療科における女性比率の低さです。統計によれば、外科医のうち女性はわずか7.8%(男性92.2%)であり、一部の外科サブスペシャリティでは女性医師が1%以下という領域もあります。理由として、前述のように外科は当直や緊急手術が頻繁で労働時間も長く、家庭との両立が特に難しいため、結婚・出産後も常勤で働き続けることが困難になりやすい点が挙げられます。実際、子供のいる女性医師は育児・家事に週35時間も費やしており、子供のいる男性医師の3時間と比べると負担が桁違いだという報告もあります。さらに「配偶者の家事・育児協力が不十分」と感じる女性医師が半数以上にのぼるなど、職場以外の要因で女性医師の時間が奪われている現状があります。このような背景から、女性医師はライフイベントに応じて科を移ったり働き方を調整してQOLを確保しようとする傾向が強いのです。

もっとも、近年は女性医師も増加傾向にあり(2020年時点で全医師の22.8%)、病院側も勤務環境の整備に乗り出しています。都市部の大病院では、当直免除や時短勤務制度の整備、院内保育所の設置など女性医師が働き続けやすい環境作りが進んでいます。男性医師側もワークライフバランス志向が高まりつつあり、育児休業を取得する例も徐々に増えています。厚労省や医師会の調査でも、「勤務先が医師の働き方改革に取り組んでいるか」を転職時に重視する傾向が報告されており、男女問わずQOL向上を求める意識は確実に高まっています。

まとめと比較ポイント

以上をまとめると、日本の都市部における診療科別の忙しさとQOLは以下のような特徴があります。

  • 勤務時間:外科系(外科・脳神経外科・整形外科など)や救急科で特に長く、週60時間を超えることも珍しくありません。一方、眼科・皮膚科・精神科・検査科などは50時間前後と短めです。都市部・地方部で大きな差はなく、診療科の違いによる影響が大きいです。
  • 当直・オンコール:救急科はほぼ全員が当直業務を担い、脳神経外科や産婦人科は月4回以上の呼び出しがある医師が3割前後にのぼります。夜間対応の多い科では睡眠不足や拘束時間増に直結し、負担が大きいです。
  • QOL・ワークライフバランス:忙しい科ほどプライベートの時間は削られがちで、特に救急・外科系は燃え尽き症候群のリスクも指摘されています。逆に比較的余裕のある科では有給消化率が高かったり、自身の専門に満足して働いている割合も高い傾向があります。もっとも医師全体では約75%が自分の専門に満足と答えており、忙しさの中にもやりがいや充実感を見出している様子が伺えます。
  • 男女差:男性医師の方が長時間労働になりやすく、女性医師は結婚・出産で勤務時間を抑える傾向があります。結果として外科などハードな科ほど男性比率が高く、女性医師は比較的負担の少ない科に多い傾向があります。家庭での負担格差も影響しており、働き方に男女差が出ています。

都市部の医師は総じて多忙ですが、その忙しさの質は診療科によって千差万別です。厚生労働省や医師会も科ごとの勤務実態を踏まえて働き方改革を進めており、医師自身もキャリア選択時に「忙しさとQOLのバランス」を慎重に考えるようになっています。今後、特に東京や大阪など都市部の病院では、診療科間の負担格差を是正しつつ、男女問わず医師が高いQOLを維持できる職場環境づくりが一層求められるでしょう。

参考文献・情報源: 公的統計(厚生労働省『医師の勤務実態調査』等)、医師会報告書、労働政策研究機構調査、医師キャリア支援サイトの解説記事など。上述のデータはいずれも信頼性の高い調査に基づいており、本回答では特に都市部病院勤務医の傾向に即してまとめています。



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