難関大学や医学部を目指す受験生にとって、英単語の暗記は避けて通れない重要課題です。 単語集や電子辞書を使って日々新しく出会った単語を覚えていると思いますが、中にはなかなか覚えられない厄介な単語もあるでしょう。実は「覚えにくい単語」ほど、関連する情報を意識的に増やして覚えることで、逆に記憶に定着しやすくなると言われています。
その理由は、単語にまつわる知識やイメージを増やすことで脳内に複数の関連づけ(ネットワーク)が形成され、意味理解が深まり記憶の手がかりが増えるからです。ここでは、この学習法の具体的なメリットと方法を、以下の3つのポイントから解説します。
- 語源を調べて単語の意味的なつながりを強化すること
- 例文を多く読むことで文脈から記憶に定着させること
- 画像検索などで視覚イメージを伴わせて記憶の想起経路を多様化し長期記憶に残すこと
目次
語源から覚える:意味ネットワークを広げる
英単語の語源( etymology )を調べることは、単語の持つ本来の意味や成り立ちを理解することにつながります。語源を知ると、単語はそれ単体で暗記する「記号」ではなくなり、他の単語との意味的なつながりが見えてきます。
例えば「disaster」(災害)という単語は、dis-(否定)+-aster(星:astro)に由来し、本来「星の巡りが悪いこと」つまり不運を意味しました。このように由来を知れば、「災害=星が悪い位置にある(古代の人々は星のせいだと考えた)」というイメージで記憶でき、単語に対する理解が格段に深まります。単なる文字の羅列だった単語が立体的で生き生きとしたものに感じられる効果もあります。
語源学習は、「語根・接頭辞・接尾辞」を手がかりに関連語をまとめて覚えられる点でも効率的です。同じ語源の語根を持つ単語をグループ化して学ぶことで、効率よく記憶できます 。例えば「construct」(建設する)、「structure」(構造)、「destruction」(破壊)などはすべて「stru(ct)=積み重ねる」が語源で、意味の核が共通しています。語源知識のおかげで未知の単語に出会っても推測がしやすくなり、「解読ツール」を手に入れるような効果も得られます。
2023年の心理言語学的な分析でも、語源に注目した学習法は学習者の語彙の定着率を高めることが示されています。語源によって既知の知識ネットワーク(スキーマ)と新単語が結びつき、記憶が保持されやすくなるためです。このように覚えにくい単語ほど語源まで踏み込んで学ぶことで、記憶に残りやすく、意味も理解しやすい単語へと変えていくことができます。
例文を読む:文脈と複数回の露出で定着させる
単語は文脈の中で覚えると記憶に残りやすい──多くの英語指導者が推奨する学習法です。単語と日本語訳を単純に一対一対応で暗記するのではなく、例文の中でその単語に触れることで、実際の使い方やニュアンスと一緒に記憶できます。文脈と結びついた記憶は、脳内に具体的な情景を思い浮かばせるため記憶定着率が高まるとも言われています。実際、単語集だけで暗記していた人が、文章の中で単語を学ぶ「文脈記憶法」に切り替えたところ、試験での単語の認識率が飛躍的に上がったケースがあります。
ある受験生は、単語集で必死に単語だけを暗記していましたが、模試になると「覚えたはずの単語なのに文中で出てくると意味が思い浮かばない」と嘆いていました。原因は明白で、単語と日本語訳だけ機械的に覚えても、その単語がどんな文脈でどのように使われるかが分からないためです。逆に言えば、例文を通じてどのような前後関係やコロケーション(単語の組み合わせ)で使われるかを知ることで、「知っている単語」が「使える単語」へと昇華し、記憶にも残りやすくなるのです。いや、思い出しやすくなるといった方が正確です。
さらに、例文を多く読むことは繰り返し露出(multiple exposures)という記憶上の利点ももたらします。語彙習得研究によれば、同じ単語に複数回出会うことが語彙の長期記憶に不可欠だと示唆されています。例文を通じて一つの単語に何度も触れれば、そのたびに記憶の痕跡が強化され、想起しやすくなるのは自然なことです。
電子辞書の例文表示に要注意
現在多くの受験生が利用する電子辞書では、単語を引いただけでは 例文が自動表示されない機種が一般的です。別途「例文」ボタンを押すなど追加のワンアクションが必要な設計のため、紙の辞書時代に比べて例文に触れる機会が減っている可能性があります。実際、「電子辞書は例文を見るために操作が必要で、用法までしっかり見るなら紙の辞書の方が楽だ」という利用者の声もあります。このような特性上、電子辞書を使う場合は意識的に例文ページを開く習慣をつけましょう。また、市販の単語集でも巻末に例文が掲載されているものがあります。一手間かかりますが、その単語の載った例文を毎回読むようにすることで、結果的に記憶の定着率が上がり、使い方も同時に習得できます。
視覚イメージを活用する:記憶の経路を増やし長期記憶化
視覚的なイメージを単語学習に取り入れることも、難しい単語の記憶定着に大きな力を発揮します。人間の脳は文字情報だけでなく画像情報にも強く反応し、文字と画像の両方で記憶することで記憶痕跡が二重に残るとするのが二重符号化理論(Dual Coding Theory)です。
簡単に言えば、言語と視覚の2つのチャネルで情報を脳に送り込むと、単語を思い出す手がかり(キュー)が倍増するということです。実際、単語と視覚イメージを結びつけて覚える学習者は、文字だけに頼る場合と比べて想起率が飛躍的に向上すると報告されています。ある試みでは、イメージ記憶法を用いて350語の新出単語を学習したところ、約35%だった記憶成功率が80%以上にまで改善したという結果が示されました。視覚情報を活用することで記憶効果が劇的に高まる好例でしょう。
では具体的に、どのように視覚イメージを単語暗記に取り入れるかを考えてみます。もっとも簡単なのは、実物や概念を画像検索してみることです。例えば「majestic(荘厳な)」という単語を覚える際に、検索エンジンで雄大な山脈や荘厳な建築物の画像を見れば、その壮麗な光景と単語が結びつき印象に残るでしょう。名詞であれば実物写真が効果的です。例えば「gazelle(ガゼル)」を覚えるならガゼルの写真を確認するだけで記憶に定着しやすくなります。一方、抽象的な語彙や動詞でも、自分なりの視覚的連想を作ることは可能です。たとえば「convoluted(複雑に絡み合った)」という単語なら、絡まった糸や迷路の画像を思い浮かべるとイメージしやすくなります。「effervescent(活発な・発泡性の)」ならシュワシュワと泡立つ炭酸水の映像が浮かぶかもしれません。このようにキーワードとなる連想画像を頭に描くことで、記憶の手がかりが文字以外にも増え、思い出しやすくなるのです。
単語と画像を組み合わせる学習法としては、自分で絵や図解を書くのも有効です。ノートに単語の意味を表す簡単なイラストやアイコンを書いておくと、それ自体が視覚記憶として脳に刻まれます。ポイントは、画像が単語の持つ核心的な意味に直結していることです。背景が込み入った写真やイラストよりも、シンプルで象徴的な図の方が記憶の助けになります。
自分で描くのが難しければ、既存のピクトグラムやアイコンを利用するのも良いでしょう。例えば「上昇する」を意味する「soar」という単語なら、矢印が上向きになっているアイコンを描いたりするだけでも視覚的な手がかりになります。こうした工夫によって単語に視覚と意味の二重のコードを与えることができ、結果として長期記憶に残りやすい単語学習が実現します。
情報の「厚み」が記憶を強くする
覚えにくい英単語に出会ったときこそ、語源・例文・イメージという三方向から情報の厚みを持たせる学習法を試してみてください。最初は単語1つ覚えるのに時間がかかるように感じるかもしれません。しかし、語源の知識で関連語と結びつけ、例文で使われる場面を思い浮かべ、画像で印象深いビジュアルと関連づけた単語は、もはや丸暗記した単語とは記憶の質がまったく異なるものです。
深く理解して記憶した単語は忘れにくく、多少忘れても何かの拍子に「星が…そうだ災害!」、「あの例文ではこう使われていた」、「あのとき見たしゅわしゅわの画像が浮かぶ」といった具合に複数の経路から想起できます。
情報を増やすことは、記憶の負担を減らすのではなく増やしてしまうように感じられるかもしれません。しかし実際には、その「ひと手間」こそが記憶を強固にし、学習効率を高める近道なのです。難関大レベルの高度な英単語も、ぜひ今回紹介した方法で「自分の記憶に残る知識」へと変えていってください。そうすれば受験英語の語彙も、単なる暗記項目ではなく使いこなせる武器として身につくはずです。
