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医学部入試の新潮流「MMI面接」とは?海外発の多面的評価法を徹底解説

MMIとは何か、その形式と特徴

MMI(Multiple Mini Interview)は、近年医学部入試で採用が増えつつある新しい面接形式です。従来の一対一の長時間面接とは異なり、複数の短い個人面接(ステーション)を受験生が順番に回って受ける仕組みになっています。各ステーションごとに提示されるテーマや課題が異なり、面接官も毎回入れ替わります。受験生はそれぞれの場面で質問に答えたり討論したりしながら、自身の考えを論理的に伝える力や判断力、知識、適応力などを評価されます。短時間で多面的に評価することで、一人の受験生について公平かつ信頼性の高い総合評価を得られる点が特徴です。

MMIでは医療倫理、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップなど、現代の医療現場で重要視される資質を測るための質問が各ステーションで出されます。正解が一つに定まらないテーマも多く、受験生はその場で考え、自分の意見を的確に伝えることが求められます。例えば横浜市立大学のMMIでは、「西日本に第2の富士山を作るならその意義・問題点・場所・資金調達を提案せよ」や「地球外生命体の形状を描いて理由を説明せよ」といった突飛な質問が実際に出題されています。このように複数のテーマで多角的に評価できるのがMMIのメリットであり、一人の面接官の主観に左右されにくい公平性も備えています。

海外でのMMI導入: カナダ・イギリスの背景と目的

MMIは2000年代初頭のカナダで生まれました。カナダのマックマスター大学医学部が、従来の面接では医学部での将来の成績を十分予測できないこと、そして医師に必要なコミュニケーション能力・倫理観など非認知的スキルを評価できていないことという二つの課題に対応するため、2001年頃からこの新たな面接法の開発を始めた経緯があります。MMI方式は2004年にマックマスター大学で正式に導入され、その後カナダ国内の他大学をはじめ世界各国の医学系教育機関で採用が広がっていきました。評価方法としての信頼性や将来のパフォーマンスとの相関が高いことが知られるようになり、医学部以外にも歯学部、薬学部、獣医学部などでも活用されています。

イギリスにおいても2010年代以降、MMIは医学部入試で広く用いられる形式となりました。現在、イギリスの多くの医科大学で面接は従来型のパネル面接かMMI方式のいずれかで実施されており、複数の短いステーションを通じて受験生の人間性や適性を評価する手法が定着しています。これは医療現場で求められる価値観(患者中心の医療、チーム医療への適応など)に合った学生を選抜する目的があり、学力試験だけでは測れない人間的資質を重視する海外の潮流が背景にあります。

日本でのMMI導入: 初採用校と導入時期

日本でMMI方式を初めて入試に導入したのは東京慈恵会医科大学です。慈恵医大は日本の医学部入試におけるMMIの先駆けとなり、その方式が他大学にも参照されました。具体的な導入時期は2010年代半ばとみられ、以降少しずつ他校にも広がり始めました。例えば横浜市立大学医学部では、2016年度入試から新設した特別公募制の推薦入試においてMMIを採用しています。当時まだ珍しかったMMIですが、「学生の資質を多面的に評価できる」として注目され、2010年代後半から徐々に日本の医学部でも導入例が増えてきた状況です。

横浜市立大学のケースでは、一般入試とは別枠の推薦入試(地域枠)を開始するタイミングでMMIを取り入れました。このように、日本では特別入試(推薦入試や帰国生入試など)の一環として導入が始まり、のちに一般入試の面接形式として採用する大学も現れています。私立大学を中心に導入が進みましたが、近年では国公立大学でも特定選抜でMMIを試行する例が見られ、日本の医学部入試において新しい潮流になりつつあります。

日本における導入理由と医療教育上の狙い

日本の医学部がMMIを導入する背景には、受験生を公平かつ総合的に評価したいという狙いがあります。従来の面接では出身高校や経歴などが面接官の先入観に影響しがちという指摘がありましたが、MMIでは原則そうした個人情報は尋ねず受験生も明かさないルールになっています。たとえば制服での受験を禁止し、受験生の属性が評価に及ばないよう配慮されます。一人の学生に複数の面接官が独立に評価を下すため、特定の面接官の主観に偏らない公平性の高い選考が可能です。東京慈恵会医科大学がMMIを導入したのも、「一人ひとりの語る内容にしっかり耳を傾け、多様な医師を育てたい」という思いがあったためだといいます。MMIによって受験生一人ひとりの人柄や資質を丁寧に汲み取り、多様な人材を公正に選抜できることが期待されています。

さらに、現代の医学教育が求める学生像の変化もMMI導入の大きな理由です。近年、医療は患者や多職種を含む「チーム医療」が主流となりつつあり、医師には高度な知識だけでなくコミュニケーション能力や協調性、倫理観が強く求められるようになりました。一昔前であれば学業成績のみで評価されがちでしたが、「これからの医師に必要な資質」を備えた学生を見極める方法としてMMIが適していると考えられたのです。実際、海外ではMMIで合格した学生の方が臨床実習で優れた能力を発揮するという報告もあり、2013年に開催された「医学部入試の課題と改革」に関する国際シンポジウムでもその点が話題となりました。横浜市立大学ではちょうどその頃、新しい推薦入試の導入を検討していた主要メンバーがシンポジウムに参加しており、「臨床実習の適性が高い学生を選抜できる」MMIに着目して採用を決めた経緯があります。このように、知識偏重ではない総合力(人間力)を持つ医学生を選抜し、将来の良医を育成することが日本におけるMMI導入の狙いとなっています。

現在MMIを採用する主な医学部

現在、日本の医学部でMMI面接を導入している大学は少しずつ増加しています。主な実施校として以下のような大学が挙げられます 。

東京慈恵会医科大学医学部:日本初のMMI採用校。一般入試の二次試験面接でMMI形式を導入。6つの課題について各7分ずつ、6人の面接官と順に一対一面接を行います。計約60分かけ、多面的な課題(生命倫理に関する知識を問うもの等)への対応力を評価します。面接評価は段階評価で行われ、「面接テクニックを見るのが目的ではない」とされています。

東邦大学医学部:一般入試でMMIを実施。約3分のミニ面接を4回行い、それぞれ異なるシチュエーションに基づく質疑応答をします。論理的表現力と高いコミュニケーション能力を持つ人材を求めており、MMIに加えてグループ討論も組み合わせて評価している点が特徴です。個人面接と集団討論の両面から、協調性や発信力を総合的に見る工夫がされています。

藤田医科大学医学部:一般入試でMMIを実施。形式は他大学と少し異なり、与えられた課題文を1分間黙読→5分間で自分の考えを述べるプレゼンテーションという形で進行します。この流れを4ステーション繰り返し、計4つの異なる課題に取り組みます。質疑応答ではなく発表形式をとるユニークなMMIで、受験生の思考力と表現力を評価しています。

横浜市立大学医学部:学校推薦型選抜(地域枠推薦入試)にて2016年度からMMIを導入。内容は5つのテーマ、(1)社会性、(2)志望理由、(3)協調性、(4)独創性、(5)倫理性について各約10分の面接を行う方式です。テーマごとに実践的なシナリオ課題が用意されており、正解のない問題に対する受験生の対応を評価します。MMIの配点は共通テスト(学科試験)と同等に高く設定されており、同大が求める資質を持つ人材を重視して選抜する仕組みになっています。

岡山大学医学部:国際バカロレア(IB)入試枠においてMMIを試験的に導入しています。実際、岡山大学IB入試で合格した受験生がMMI形式の面接で突発的な質問に答える場面があったことが報告されています。このように一部の国公立大学でも特定の選抜区分でMMIを採用し始めており、今後導入校が増える可能性があります。

受験生・保護者にとってのMMI: 準備の難しさと評価基準の変化

MMI方式の面接が導入されることは、受験生や保護者にとって入試対策のあり方が変わることを意味します。まず、従来より対策が難しいと言われます。質問の内容が多岐にわたり予測しづらく、暗記した模範解答では太刀打ちできないからです。実際に奇抜な課題や即興的な問いかけが出されるため、日頃から多方面の知識に触れ、自分の言葉で考えをまとめる練習が重要になります。決まりきったフレーズを覚えるのではなく、学校生活や社会で得た経験をもとに自分の考えを論理的に伝える訓練を積むことが有効だとされています。面接練習も従来以上に欠かせませんが、想定問答集を丸暗記するより、どんな質問にも落ち着いて対応できる思考力とコミュニケーション力を養うことがMMI対策の要となるでしょう。

また、評価基準の変化にも注意が必要です。MMIを取り入れる入試では、従来にも増して人間性や適性が合否を左右する比重が高まります。極端に言えば、「筆記試験の点数さえ良ければ合格」という時代ではなくなりつつあります。実際、横浜市立大学の推薦入試ではMMI面接が学力試験と同じ1000点ずつ配点されるなど 、人物評価の占める割合が大きく設定されています。一般入試の従来型面接が「明らかに医師に不向きな人を落とす」目的だったのに対し、MMIでは「望ましい資質を持つ人を積極的に見出す」ことを重視していると大学側も説明しています。このため受験生は学力だけでなく、日頃から自分の考えを深めたり他者と議論したりする経験を積み、人間的な成長にも目を向ける必要があります。

保護者の方にとっても、MMI導入により入試の様相が変わる点は理解しておきたいポイントです。面接官複数体制による公平性の高さゆえに、テクニックに頼った合格は望めず、本当の意味で実力と人間性が評価される入試といえます。裏を返せば、どんな学校出身であっても本人の努力次第で正当に評価されるチャンスとも言えるでしょう。MMIでは受験生の個性や資質が丁寧に見極められます。従来以上に「人となり」を磨くことが合格への鍵となりますが、その一方で公平公正な評価方法である分、ご家庭としても安心してお子さんの挑戦を見守れるのではないでしょうか。

MMI面接は医学部入試における新しい潮流であり、学力のみならずコミュニケーション力・倫理観・協調性といった医師に必要な総合力を評価する試験形式です。カナダ発祥のこの方式はイギリスなど海外で実績を上げ、日本でも2010年代半ばから導入が始まりました。日本初導入の東京慈恵会医大を皮切りに、東邦大、藤田医大、横浜市立大など複数の医学部で採用されています。受験生にとって準備は容易ではありませんが、対策の鍵は知識の暗記ではなく、自分の考えを培い表現する練習にあります。MMIの評価軸を正しく理解し、人間性も含めた総合力を伸ばすことで、きっとこの新しい試験にも対応できるはずです。医師という職業に求められる資質を問うMMIの広がりは、医学部入試がより良い医療者の育成を目指して変革している証と言えるでしょう。




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