医学部受験生や保護者のかたでも、「MMI」という言葉は初めて耳にするものかもしれません。MMIとは「Multiple Mini Interview(マルチプル・ミニ・インタビュー)」の略称で、複数の短い面接を組み合わせた新しい形式の面接試験です。近年、医学部の入試で導入が進んでおり、受験生一人ひとりの資質を多面的に評価できる面接方法として注目されています。ここでは、MMIの概要や目的、従来の面接との違い、メリット・デメリット、具体的な実施方法、対策のポイントについて解説しますので、ぜひ参考になさってください。
目次
MMIの概要と目的
MMI(マルチプル・ミニ・インタビュー)は、カナダで開発された医学生選抜手法を起源とし、現在では海外の医学部で広く採用されている面接形式です。
日本でもここ数年で導入校が増えました。MMIでは、受験生は複数のステーション(面接ブース)を順番に回り、それぞれで異なるテーマの短い面接を受けます。各ステーションには別々の面接官が待機しており、提示された課題や質問に対し受験生が回答・議論します。ステーションごとの所要時間は大学によって様々ですが、一つのブースあたり概ね5~10分程度と短く設定されています。
MMI導入の目的は、医師に求められる資質を総合的に評価することにあります。
現代の医療現場では、高度な知識だけでなく、患者さんやチームとの円滑なコミュニケーション能力、緊急時でも冷静に判断できる力、倫理的な意思決定力などが求められます。従来の一対一の面接ではこうした多面的な能力を評価しづらい面がありました。そこで考案されたのがMMIであり、短時間の対話を複数回行うことで、受験生の思考力・判断力・価値観・対人スキルを幅広く測定しようとするものです。MMIでは毎回テーマや質問内容が変わるため、あらかじめ用意した答えではなくその場で考える力が試される点も特徴です。
横浜市立大学医学部の推薦入試におけるMMI面接では、「社会性」「志望理由」「協調性」「独創性」「倫理性」という5つのテーマについて、それぞれ約10分ずつ計5つの面接を行います。受験生は部屋ごとに異なるテーマに沿った質問を受け、その対応を通じて医学生に必要な資質を評価されます。このようにMMIは、受験生の人間性や適性を多角的に見抜くために導入されています。
従来の面接との違い
MMIと従来型の個人面接との最大の違いは、面接官や質問テーマが一つではない点にあります。従来の医学部面接は、多くの場合1~2名の面接官と受験生が10~20分程度の対話を行い、志望動機や自己PR、高校時代の活動など比較的一般的な質問が中心でした。
面接官が一組のみであるため、どうしても評価者の主観に左右されやすく、質問内容も毎年パターン化しがちです。受験生側も想定問答集を作り込んで準備できるため、練習した「模範解答」を述べるだけになってしまうケースもありました。
これに対しMMIでは、短時間×複数回の面接で様々な角度から質問が飛んできます。
例えばあるステーションでは医療倫理に関するジレンマについて問われ、次のステーションでは医療チームでの自分の役割について問われる、といった具合にテーマが変化します。毎回異なる面接官が担当するため、一人の評価者の価値観に評価が偏る心配も少なく、公平性が高まる利点があります。また、各ステーションごとに時間制限(数分間)があるため、受験生は限られた時間内で的確かつ論理的に自分の考えを伝えるスキルが求められます。この「即興力」が問われる点が、事前準備した答えを述べるだけになりがちな従来面接と大きく異なるポイントです。
もう一つの違いは、質問内容の広がりです。
一般的な面接では志望理由や自己紹介など定番の質問が多いのに対し、MMIではシチュエーション型の問題や思考力を試す課題が出題されます。例えば「あなたが医師として働く病院で医療ミスが発生した場合、どう対処しますか?」や「チーム医療において意見の対立が起きたとき、あなたはどう行動しますか?」といった具体的状況を想定した問いかけが行われることがあります。横浜市立大学の推薦入試で実際に出題された質問には、「地球外生命体の形状を想像して描き、その理由を説明してください」といったユニークなものもありました。このようにMMIでは答えが一つでない課題が多く出され、受験生の発想力や価値観が垣間見える点が特徴です。
MMIのメリット(長所)
MMI面接には、従来形式にはない様々なメリットがあります。
多面的な評価が可能: 一度きりの質疑応答では測れない受験生の側面を、複数ステーションを通じて把握できます。コミュニケーション能力、倫理観、協調性、論理的思考力など、医師に必要とされる資質を総合的に評価できる点はMMIの大きな利点です。あるステーションで答えに詰まっても、他のステーションで挽回できる可能性もあり、公平な評価につながります。
評価の公平性向上: 複数の面接官がそれぞれ評価を行い最終的に総合評価とするため、特定の面接官との相性や主観による評価の偏りが生じにくいです。一人の評価者に合わなかった場合でも、他の評価者が別視点から評価してくれるため、受験生にとっても公正なチャンスが確保されます。
思考力・対応力の重視: MMIでは事前に質問内容を知ることができないため、準備した答えを暗記してくるような形式では通用しません。その場で状況を理解し自分の考えをまとめる力、すなわち即興的な思考力や問題解決力が重視されます。医学部入学後や医師となった後にも必要な「未知の問題に柔軟に対応する力」を見ることができるという点で、入試として有用です。
受験生本来の人柄が見えやすい: 定型的な質問に対する用意済みの回答ではなく、初見の課題に対して咄嗟にどう反応するかを見ることで、受験生の人柄や価値観、生の意見が表れやすくなります。例えば倫理的なジレンマにどう答えるか、困難な状況でどんな判断を下すかといった点から、その人の誠実さや考え方の筋が見えてきます。「本音」を引き出すには適した形式と言えるでしょう。
MMIのデメリット(注意点)
一方で、MMIにはいくつか注意すべき課題やデメリットも指摘されています。
運営の負担が大きい: MMIを実施するには複数の面接室と多数の面接官を用意する必要があり、大学側の準備・運営負担は従来面接より大きくなります。面接官のトレーニングや評価基準の統一も必要であり、実施には手間とコストがかかります。このため、国内でも導入校はまだ限られている状況です。
受験生の緊張・負担: 短時間の面接が連続するMMIは、受験生にとって精神的・体力的に負担が大きい形式です。一つのステーションで十分答えられなかった焦りを引きずったまま次に移動することもありえます。短い準備時間で次々と切り替えなければならず、平常心を保つ難易度は高くなります。初めてMMIを経験する受験生にとっては、その特殊な形式自体がプレッシャーになるでしょう。
評価の難しさ: 多面的に評価できる半面、評価基準の標準化が難しいという指摘もあります。各ステーションで異なる能力を測るため、総合的にどう評価をまとめるか大学側の手腕が問われます。面接官ごとの採点にばらつきが出れば、せっかくの公平性も損なわれかねません。このため各大学では事前に面接官同士で評価方法のすり合わせを行うなど工夫をしていますが、受験生側から見ると「どう評価されているのか読みにくい」という不安要素にもなります。
対策が立てにくい: 受験生にとって、MMIは従来より準備が難しい試験です。想定問答集が作りづらく、どんな質問にもその場で対応できる総合力が必要です。練習問題や過去問の蓄積も従来面接に比べると少ないため、闇雲に不安を感じてしまう受験生もいるでしょう。ただし、この点は裏を返せば「付け焼き刃が効かない公正な試験」とも言えます。後述するように、適切なトレーニングで対応力を養うことは可能です。
MMIを導入している主な医学部
日本国内でMMIを導入している医学部はまだ多くありませんが、年々その数は増加傾向にあります。ここでは、2024~2025年度時点でMMI形式の面接を実施している主な大学を紹介します(一般入試の場合)。具体的な方式は大学によって異なりますが、一例として以下のような形式で実施されています。
東邦大学:与えられたシチュエーションに基づく質疑応答を約3分×4回実施。論理的に話す力と高いコミュニケーション能力を重視し、MMIに加えて集団討論も課されるのが特徴。
東京慈恵会医科大学:7分×6回の個別面接(うち1回は通常の個人質問、残り5回がテーマ別MMI)を実施。各ステーションに異なる課題が用意され、医学知識や生命倫理に関する問いも含まれる。多様な医師を育てたいとの理念から導入された経緯がある。
藤田医科大学:1分間の課題読解+5分間の回答という形で4ステーション実施。質疑応答ではなくプレゼンテーション形式で意見を述べるユニークな方式。課題は毎回紙で提示され、その場で考え自分の考えを発表する流れ。
聖マリアンナ医科大学:個人面接(約15分)に加えてテーマ別面接(MMI)を導入。詳細な回数は公表されていませんが、複数の課題に対するミニ面接を行う形式です。個人面接では志望理由や自己PRから深掘り質問まで多く聞かれ、付け焼き刃では通用しない難易度と言われます。MMIでは医療倫理観や価値観も評価される傾向です。
帝京大学:通常の個人面接(面接官2名による質疑応答)を行った後、最後にMMI形式の課題を1問追加で実施。面接本編で定番質問に答えた後に想定シナリオに対する対応を問われる流れで、不意打ちのケーススタディにその場で答える必要があります。
横浜市立大学:学校推薦型選抜(公募推薦)にMMIを採用。5つのテーマ別面接を各約10分、計5人の面接官と順に行う形式。テーマは社会性・協調性・倫理性など多岐にわたり、医学生に求める資質を重視した評価が特徴です。
このほか、金沢医科大学や埼玉医科大学など一部大学の入試でも、年度や試験区分によってはMMIに近い形式の面接が取り入れられるケースがあります。
私立大学を中心にMMI導入校が見られます。特に藤田医科大学や慈恵医大は早くからMMIを本格実施しており、対策必須の代表例と言えるでしょう。
また、横浜市立大学のように公立大学でも推薦入試で採用されるケースがあり、今後は国公立大学でも広がる可能性があります。いずれの大学を志望する場合でも、「自分の志望校ではMMIが導入されているか」、「課されるとしたら何テーマくらいか」を事前に調べ、心づもりをしておくと安心です。
MMI面接の流れと実施方法
MMI当日の基本的な流れは、面接室間のローテーションを繰り返す形になります。大学にもよりますが、概ね以下のような手順で進行します。
各ステーション前の待機: 受験生は最初のステーション前で待機し、試験管や合図に従って入室します。他のステーションにいる受験生とは時間差でローテーションするため、整然とした進行が行われます。
課題の提示と準備時間: ステーションに入ると、まず課題文や状況設定が書かれた紙を渡されるか、口頭でシチュエーションが説明されます。藤田医科大学の例では、机の上の紙を1分間黙読する時間が与えられます。この準備時間は0~2分程度と短いですが、内容を素早く把握し自分なりの考えをまとめる大切な時間です。
ミニ面接(対話または発表): 準備が終わると、面接官との対話もしくはプレゼンテーションが始まります。東邦大学や慈恵医大では質疑応答形式で面接官から問いかけがあり 。 。、受験生がそれに答える形です。一方、藤田医科大学ではプレゼン形式を採っており、質問を受けずに5分間自分の意見を述べ続けるという特徴的な形式になっています。いずれの場合も制限時間いっぱいまで自分の考えを伝えることが重要です。時間が余った場合は追加で深掘り質問を受けることもあります。
終了と移動: 持ち時間が終わると合図があり、受験生は次のステーションへ移動します。他の受験生とすれ違う形で順次ローテーションが行われ、全てのステーションを回り終えたらMMI面接は終了です。例えば慈恵医大では1課題7分×5課題+個人面接7分で、移動時間も含めトータル約60分かけて全ステーションを終えます。
MMI当日は以上のような流れで進みます。短時間の繰り返しに最初は戸惑うかもしれませんが、事前にシミュレーションしておくことで落ち着いて臨むことができます。次に、そのための具体的な対策方法を見ていきましょう。
MMI対策のポイントと準備方法
初めてMMIに挑む受験生にとって、「どう準備すればいいのか?」は大きな不安かもしれません。MMI対策のポイントをまとめると以下の通りです。
MMIの形式に慣れる: まずはMMIとはどういうものかを理解し、形式そのものに慣れておくことが重要です。「一度に複数の短い面接を受ける」という経験は学校生活ではなかなか無いため、可能であれば模擬MMIを体験しておくと良いでしょう。学校の先生や予備校の指導でMMI形式の練習機会があれば積極的に参加してください。形式に慣れるだけで本番の緊張が和らぎ、時間配分や切り替えのコツも掴めます。
医療倫理・時事問題の知識を広げる: MMIでは医療倫理や社会問題に関する質問が出やすい傾向があります。日頃から医療ニュースや倫理的テーマに関心を持ち、自分なりの意見を考えておきましょう。例えば「終末期医療で延命措置を続けるべきか」や「医師の働き方改革」など、医療現場で実際に論点となる話題は要チェックです。知識があると全く答えられないという事態を防げますし、議論の深みも増します。ただし暗記した知識をひけらかすより、自分の言葉で噛み砕いて話せることが大切です。
自己の価値観・経験を振り返る: 想定外の問いに対しても自分の軸がしっかりしていれば、回答に一貫性が生まれます。日頃から「医師志望の理由」「自分の長所短所」「チームで協働した経験や葛藤」などを振り返り、自分の考えの軸を整理しておきましょう。例えば高校の部活動でリーダーシップを発揮した経験があるなら、それを踏まえて「協調性とは何か」「衝突をどう乗り越えたか」を語れるように準備します。軸が定まっていれば、どんな質問にも慌てず自分の価値観に照らして答えることができます。
答え方の練習: MMIでは限られた時間で要点を伝えるスキルが求められます。問いに対し結論→理由→具体例の順でコンパクトに答える訓練を積みましょう。特に最初の1分で結論を述べる意識を持つと、その後の展開がスムーズになります。また、曖昧に濁さず自分の意見をはっきり言うことも重要です。「どちらとも言えない」と逃げるのではなく、「自分は○○と考える。その理由は…」と論拠を添えて主張する練習をしてください。もちろん内容に誠実さや共感力も滲ませると好印象です。鏡の前や録音で自分の話し方を客観視し、わかりやすく伝わっているか確認するのも有効です。
想定シナリオへのシミュレーション: 過去にMMIで聞かれた例題や、よくある医療シチュエーションをピックアップしてシミュレーションしておくと自信につながります。例えば「医学生のあなたに無断欠席を繰り返すチームメンバーがいる。どう対処するか?」といったテーマを自分で設定し、1分で考え5分話す、といった訓練をしてみましょう。医学部予備校の資料や書籍、インターネット上にもMMIの例題が公開されていることがあります。一人でも取り組めますが、可能であれば第三者に聞いてもらいフィードバックをもらうのがベストです。
以上のポイントを意識しつつ、「どんな質問が来ても自分なら大丈夫」と思えるまで練習を重ねることが理想です。特にMMIは場数経験がものを言う部分もありますので、機会があれば模擬面接を何度も受けておくと良いでしょう。準備を通じて自分の弱点(早口になりすぎる、論点がずれる等)も見えてきます。それを一つ一つ克服していけば、本番でも落ち着いて自分らしさを発揮できるはずです。
