島根県における医局勢力図について、地理的背景や歴史的経緯を踏まえて分析・解説します。
島根県の医療提供体制は、県北東部の「出雲・松江」を中心とした東部・中部圏域と、地理的に広大な面積を持つ「石見(いわみ)」と呼ばれる西部圏域で、その医局構成が大きく異なります。
2026年現在、医師の働き方改革(時間外労働上限規制)の定着に伴い、各大学医局による「医師派遣の集約化」が進んでおり、勢力図はより明確な境界線を見せています。
目次
東部圏域(松江・安来):鳥取大学と島根大学の混在
松江市および安来市を中心とする東部圏域は、地理的に鳥取県米子市(鳥取大学医学部所在地)に近接しているため、歴史的に鳥取大学の影響力が非常に強いのが特徴です。
- 松江赤十字病院: 長らく鳥取大学が主要な診療科のポストを占めてきましたが、近年は島根大学からの派遣も増え、両大学のバランスが調整される傾向にあります。
- 安来市立病院: 米子市に隣接しているため、依然として鳥取大学が主軸を担っています。
- 松江市立病院: 島根大学と鳥取大学が複数の診療科で混在しており、県内でも特に両大学の連携が求められる拠点となっています。
中部圏域(出雲):島根大学の絶対的基盤
出雲市は島根大学医学部(旧・島根医科大学)の本拠地であり、県内でもっとも強固な医局基盤を有しています。
- 島根大学医学部附属病院: 県内唯一の特定機能病院として、高度医療を牽引しています。
- 島根県立中央病院: 県内最大の公立病院であり、島根大学からの医師派遣が中心です。一部の診療科で岡山大学などの他大学との関わりが見られますが、基本的には島根大学の最重要拠点として機能しています。
西部圏域(浜田・益田):島根大学主導と他県大学の補完
西部(石見地方)は、島根大学から距離があるため、歴史的に山陽地方や九州地方の大学による支援が行われてきました。しかし、医師不足の深刻化に伴い、現在は島根大学による一元的な管理・集約が進んでいます。
- 浜田医療センター: 石見地方の中核拠点であり、島根大学が中心となって医師を派遣しています。
- 益田赤十字病院・益田地域医療センター医師会病院: 地理的に広島県や山口県に近いため、かつては広島大学や、一部で九州大学などの影響もありましたが、現在は島根大学が地域枠医師の配置を含めた調整の主導権を握っています。
2026年現在の構造的変化
現在の勢力図に影響を与えている主要因は以下の3点です。
① 医師働き方改革による「引き揚げ」と「集約」
2024年4月からの時間外労働規制を受け、各医局は小規模病院への分散派遣を維持することが困難となりました。その結果、島根大学を中心に、特定の基幹病院へ医師を集約させる「選択と集中」が加速しています。
② 「島根県地域枠」の運用
島根大学や鳥取大学に設けられた島根県地域枠の卒業生が、キャリア形成の過程で県内各地に配置されています。これにより、医局の伝統的な「縄張り」以上に、県の医師配置計画に基づいた柔軟な異動が行われるようになっています。
③ 広域連合と大学間連携
かつては「島大か鳥大か」という対立構造が見られましたが、現在は医師確保という共通課題に対し、大学の垣根を超えた連携(例:寄附講座の共同運営や、専門外来の持ち回り派遣)が一般化しています。
まとめ
島根県の医局勢力図は、「出雲・中部を中心とした島根大学の圧倒的シェア」を基盤としつつ、「東部における鳥取大学との共存」、そして「西部における島根大学による広域支援」という構図で安定しています。
今後は、大学別の勢力争いよりも、限られた専門医リソースを県内全域でどう最適配置するかという、行政(島根県)と大学医局の折衝がより重要な局面を迎えています。