共通テストとSNS投稿の現状と過去の事例
大学入学共通テスト(旧センター試験)では、試験終了後に受験生たちがSNS上で試験問題の話題を共有することが近年の風物詩となっていました。毎年、本番の試験が終わると、SNSに「今年の英語の問題、簡単だったよね!」 や 「数学が難しすぎて泣いた」といった感想だだけでなく、実際の問題内容に関する投稿も数多く見られ、ユニークな出題や難問の画像付き投稿が受験生の間で話題になる状況が常態化していました。
過去には、試験問題中の意外な内容がSNS上で「ネタ」として取り上げられ、注目を集めた例もあります。2019年実施のセンター試験英語(リスニング)では、翼や手足が生えたリンゴやニンジンなど計4体の不思議なイラストが登場し、SNS上で「リスニング四天王」と名付けられて盛り上がりました。また、2025年の共通テストでは化学の問題選択肢に古典文学『枕草子』の一節が登場し、「化学で枕草子出ていて国語解いているのかと思った」といった投稿が画像付きで拡散されるなど、意表を突く題材が話題となりました。このように、試験直後に受験生らがSNSで問題内容を共有し合うことが恒例行事のようになっていたのです。
一方、SNSを利用した不適切な情報拡散や不正行為のリスクも指摘されてきました。2021年の共通テストでは受験生が試験中にスマートフォンを隠し持ち、問題用紙を撮影して外部協力者に送信し解答を得ようとする不正事件が発生しています。この事案では受験生が金属探知のチェックを掻い潜ってスマホを持ち込み、試験問題を外部に漏洩させてしまいました。ここまでのケースは少ないものの、試験問題がSNS等を通じて外部に流出することの危険性を浮き彫りにしました。
大学入試センターによる注意喚起の概要
こうした状況を受けて、2026年度の大学入学共通テストでは新たに「試験問題のSNS投稿禁止」が明文化され、受験生への注意喚起が行われました。大学入試センターは試験直前の2026年1月14日付で公式Webサイトに「<重要なお知らせ>令和8年度大学入学共通テスト受験者の皆様へ」という文書を掲載し、その中で 「試験終了後であっても、共通テストの試験問題をSNSに投稿するなど、インターネット上に掲載することはしないでください」 と呼びかけています。この注意事項は2025年12月公表の「受験上の注意」にも新規項目として追加されており、従来の注意事項にはなかったルールです。
大学入試センターは受験生に対し、試験終了後でも問題内容をネット上に公開しないよう明確に禁止し、万一SNS上で試験問題の画像や具体的な内容が投稿された場合には、状況に応じて投稿の削除を求める可能性があるとしています。
ただし、この禁止事項に違反した受験生に対して直ちに試験失格などの厳しい措置を科すことまでは想定しておらず、あくまで受験生の良識に訴え協力を求める形です。実際、大学入試センターの担当者は「過去の投稿も望ましいものではなかった」と述べつつ、「公正公平な試験を実施するため、自身の試験終了後でも試験問題やその内容については載せないでほしい」とコメントしており、受験生一人ひとりのモラルに期待する姿勢を示しています。
注意喚起の背景・理由
大学入試センターが今回、新たに試験問題のSNS投稿禁止を打ち出した背景には、次のような理由があります。
- 著作権保護のため: 共通テストの問題は、国語の文章題に使われる小説など一部の引用素材を除き、著作権が大学入試センターに帰属する正式な著作物です。試験問題を無断で撮影・インターネット上に公開する行為は、著作権法違反にあたる可能性があります。実際これまでもセンター側は暗黙の了解で見過ごしてきた面がありましたが、公式には「認めていたわけではない」行為でした。今回あえて禁止を明記したのは、「試験問題の著作権はセンターにある」という事実を改めて周知する狙いもあります。受験生には問題内容を勝手に公開してしまえば法的リスクがあることを認識してもらう必要があります。
- 試験の公平性を守るため: すべての受験生に公平な受験機会を保障することも重要な理由です。共通テスト当日、大規模な交通トラブルや悪天候などにより、一部会場で試験開始時刻が繰り下げられるケースが想定されます。そのような遅延中に、他会場で先に終わった科目の問題がSNSに出回ってしまうと、移動中の受験生が事前に問題を知ってしまう恐れがあります。このような情報漏洩は、受験生間に不公平を生じさせかねません。試験日が2日間にわたる共通テストでは特に、初日終了後に内容が広まってしまうと翌日の試験に向けた準備に不平等が生じる可能性もあり、センターは慎重になります。
- 問題漏洩や不正行為を防止するため: 試験問題がネット上に出回ること自体、不正行為や漏洩のリスクに直結します。上にのべたように試験時間中に問題を外部に送信する悪質な事例も起きており、センターとしては試験問題を外部に持ち出さない風土づくりが不可欠だと判断したと考えられます。仮に試験後であっても、問題冊子の画像がネットに投稿され不特定多数に共有されるような事態は、今後の追試験や問題作成にも影響を与えかねません。試験問題の厳格な管理と、受験生自身による情報統制への協力が求められています。
- 受験生の心理面への配慮: 試験直後にSNS上で問題の正解や難易度の議論が過熱すると、受験生の精神状態に悪影響を及ぼす可能性もあります。まだ試験日程を残している受験生が、他の人の投稿で「◯◯の問題は解けた?自分は間違えた」といった具体的情報を目にすると、不安や焦りでコンディションを崩してしまうかもしれません。また、遅延措置でこれから同じ試験科目を受ける人が移動中に内容を知ってしまえば、動揺して本来の実力を発揮できなくなる可能性もあります。試験当日に余計な情報に惑わされず実力を発揮してもらうためにも、問題内容をSNSに出さない環境作りが重要と考えられたのだと思います。
以上のように、著作権上の問題から公正・公平な環境の確保、そして受験生保護の観点まで、複合的な理由があって今回の注意喚起にいたったといえるでしょう。
今後への影響と受験生・保護者が留意すべき点
今回の「試験問題SNS投稿禁止」のルール化は、受験文化や情報伝達の在り方にもいくつかの影響を及ぼすと考えられます。まず、予備校や教育関係機関による試験分析・解答速報への影響です。これまでも大手予備校は共通テスト当日の夜に解答速報を公開し、翌日には問題内容の詳細な解説講義を配信するなど迅速な対応を行ってきました。こうした解答速報の作成には、試験終了後に入手した問題冊子や受験生の協力による再現答案が利用されていますが、情報収集の方法が変化する可能性があります。もっとも、大手予備校は独自に問題冊子を入手する仕組みを持っているため、解答速報の公開スピード自体は従来と大きく変わらないと予想されます。
受験生や保護者のみなさんも、試験当日にネット上で飛び交う真偽不明な情報に惑わされず、信頼できるメディアの報道や公式発表を待つようにすると良いでしょう。
受験生および保護者が特に留意すべきポイントをまとめます。受験生は何より、試験当日の「受験上の注意」を遵守することが大前提です。試験問題冊子は試験後に持ち帰ることが可能でも、それを写真に撮ってSNSに上げることや、問題文・選択肢の詳細を文章で書き込むことは禁止されています。もしうっかり投稿してしまった場合、大学入試センターから投稿削除を求められる可能性がありますし 、悪質と判断されれば後日トラブルに発展するリスクもないわけではありません。試験後で解放感があっても、問題内容だけはネットに出さないという節度を持ちましょう。感想や自己採点結果を友人と共有したい場合でも、SNSではなく、直接の会話やクローズドなグループ内に留めるなど配慮すると安心です。保護者のかたも、お子さんが試験直後にSNSで情報発信しようとしていたら、「今年から問題をネットに載せるのは禁止らしいよ」と一言アドバイスしてあげてください。
2026年度共通テストで新たに設けられた「試験問題のSNS投稿禁止」は、デジタル時代の入試を公正かつ円滑に実施するための措置です。著作権の尊重、公平性の担保、不正リスクの低減、そして受験生のメンタル面への配慮といった観点から、大学入試センターは受験生に協力を呼びかけています。受験生・保護者の皆さんはこの背景を理解した上で、試験本番ではルールを守り、落ち着いて実力を発揮することに集中してください。試験後に問題が気になる場合も、SNSに頼らず公式発表や信頼できる予備校の解説を待つようにすれば何ら支障はありません。人生を左右する大切な試験を無事成功させるために、情報社会との適切な向き合い方にも十分注意して臨みましょう。