日本の私立大学医学部は、単なる偏差値の差だけでなく、その「設立の歴史」が現在の医局のパワーバランスや関連病院の数、そして医師としてのキャリアパスに直結しています。ここでは、私立医学部の各分類について、設立の背景から現在の医療界への影響力まで、踏み込んで解説します。
目次
私立医学部の最高峰「御三家」
【設立の経緯:大正のプライド】
1919年(大正8年)の「大学令」により、それまでの専門学校から「旧制医科大学」へと昇格した歴史を持つ3校です。当時、医師養成は国公立が中心でしたが、私立としていち早く最高学府の認可を受けたことで、日本の医学教育の先駆けとなりました。
【現在の医療界への影響力】
- 学術的地位: 研究力・論文数において、旧帝国大学(東大・京大等)に匹敵する実力を持ちます。
- 指導層の独占: 日本医師会や各医学会の理事、厚生労働省の委員など、医療政策を左右するポストに多くの出身者を輩出しています。
- 圧倒的なブランド: 「慶應ブランド」に代表されるように、民間病院の院長職や都市部の大病院でのポストにおいて、非常に強い影響力を保持しています。
伝統と実利の「旧設(きゅうせつ)」
【設立の経緯:戦前・戦後の医療需要】
1970年以前に設立された大学群です。多くは戦前の医学専門学校をルーツに持ち、戦後の混乱期から高度経済成長期にかけて日本の公衆衛生を支えてきた歴史があります。
【現在の医療界への影響力】
- 医局のネットワーク(関連病院): 歴史が長いため、大学独自の「関連病院(医局員を派遣する病院)」の数が非常に多いのが特徴です。これは卒業後の若手医師にとって、「豊富な症例数」と「多様な勤務先」を保証するセーフティネットとなります。
- 地域医療の支配力: 特に地方の旧設校(久留米や岩手医科など)は、その地域の医療体制そのものを支える中核となっており、地元での就職や開業において無類の強さを誇ります。
- 順天堂の躍進: 近年、順天堂大学は学費の大幅値下げと病院経営の成功により、実力的には「御三家」を凌ぐ勢いを見せており、私立医学界の勢力図を塗り替えつつあります。
医師不足解消の旗手「新設(しんせつ)」
【設立の経緯:一県一医大構想】
1970年代、当時の田中角栄内閣による「一県一医大構想」に基づき、医師不足を解消するために短期間で次々と設立された大学です。
【現在の医療界への影響力】
- 教育体制の先進性: 歴史が浅い分、旧態依然とした医局制度に縛られず、シミュレーション教育や共用試験(CBT)対策など、国家試験合格に向けた手厚いサポート体制を構築してきました。
- 特定分野の専門性: 例えば北里大学は生命科学全般、藤田医科大学はリハビリテーションやロボット手術など、特定の領域で世界最先端の実績を上げる大学も増えています。
- 「入りやすさ」からの脱却: かつては偏差値的に下位とされることもありましたが、現在は医学部人気と学費の適正化により、いずれも他学部の最難関レベルを上回る難易度となっています。
21世紀のゲームチェンジャー「新・新設」
【設立の経緯:規制緩和と震災復興】
長らく「医学部は新設しない」という方針が取られてきましたが、2010年代に入り、社会情勢の変化から約40年ぶりに認可された超新設校です。
- 東北医科薬科大学(2016年)
- 東日本大震災後の東北の医師不足解消のため設立。地域枠や修学資金制度が充実しており、東北地方の医療再建の柱として期待されています。
- 国際医療福祉大学(2017年)
- 千葉県成田市に設立。「国際性」を前面に押し出し、授業の多くを英語で行うなど、これまでの医学部とは一線を画す教育を行っています。
【現在の医療界への影響力】
- 価格破壊とグローバル化: 国際医療福祉大学は、私立医学部で最も安い学費(6年間で約1,850万円)を設定し、優秀な層を国公立医学部から引き剥がすなど、業界に大きな衝撃を与えました。
- これからの勢力図: 卒業生がまだ若いため、病院経営や学閥としての力は未知数ですが、既存の大学を刺激し、日本の医学教育の近代化を加速させています。
分類から見る「大学選び」の視点
| 分類 | メリット | 注意点 |
| 御三家 | 圧倒的ステータス、研究医への道、中央政界へのパイプ | 入試難易度が極めて高い(東大レベル) |
| 旧設 | 関連病院が豊富、地元での開業・勤務に強い、OBの絆 | 伝統的な医局制度が残っている場合がある |
| 新設 | 施設が新しい、国試対策が非常に手厚い | 歴史が浅いため、他大学の医局が強い地域もある |
| 新・新設 | 学費が安い、先進的な英語教育、特定の志(復興等) | 医局の歴史がないため、自分たちで道を切り開く必要がある |
このように、私立医学部は「歴史=医療界での縄張り」といっても過言ではありません。自分の目指す医師像が「最先端の研究」なのか「地域密着の臨床」なのかによって、選ぶべき分類も変わってくるでしょう。