医学部を目指す皆さんにとって、医療の現場をリアルに描いた漫画は大きな刺激と学びになります。現実の医師や医学生の奮闘が描かれた作品からは、医療の厳しさや命の重みを疑似体験でき、将来医師になる自分を具体的にイメージする助けにもなるでしょう。
また、面接などで医療観を問われた際に、これらの作品から得た知識や視点が生きることもあるかもしれません。ここでは、主人公が医学部生または研修医として医療現場に立ち向かうリアル志向の医療漫画を10作品ご紹介します。それぞれの作品のあらすじと、医学部受験生にとっての学び、気づきもあわせてまとめました。
興味の湧いた作品を手に取り、未来の自分の姿を重ねてみてください。
目次
「ブラックジャックによろしく」
あらすじ: 『ブラックジャックによろしく』は、医学部を卒業したての新人研修医・斉藤英二郎が主人公の社会派医療漫画です。理想に燃えて超一流大学病院に勤め始めた斉藤でしたが、現場は驚くほど過酷でした。研修医の月給はわずか3万8千円程度で、生活費を稼ぐために他病院でバイトを掛け持ちする日々。徹夜や雑用は当たり前、初めて担当した患者さんの治療方針を巡って病院上層部と衝突するなど、理想とかけ離れた医療の現実に翻弄されます。斉藤は悩み苦しみながらも患者に真摯に向き合い、医師として葛藤と成長を遂げていきます。
学び・気づき: 本作は日本の医療制度の問題点や医師の倫理観を真正面から描いており、医療とは何か、命とは何かという重い問いを突きつけてきます。医学部受験生にとって、医師の働く現場の厳しさ(長時間労働、薄給、医局の論理など)を知ることで、「医師になる覚悟」を再確認するきっかけになるでしょう。また、斉藤が患者本位の医療を追求する姿勢からは、将来医師になったときに忘れてはならない使命感や倫理観について深く考えさせられます。
「研修医 なな子」
あらすじ: 『研修医 なな子』は、大学病院の外科に勤務する研修医・杉坂なな子を主人公に、研修医の赤裸々な日常を描いた医療漫画です。産婦人科医を描いた『コウノドリ』などで知られる森本梢子先生が、綿密な取材のもと執筆した作品で、新人女性医師の奮闘が独特のコミカルタッチで描かれています。K大医学部附属病院の第二外科に配属されたなな子は、明るく元気いっぱいですが仕事は過酷。当直で眠たい目をこすりつつ、先輩医師や看護師に支えられながら日々患者と向き合います。医局対抗の野球大会で盛り上がったり、重症患者への告知に落ち込んだりと、研修医生活の喜怒哀楽が1話完結形式でテンポ良く綴られています。
学び・気づき: なな子の奮闘ぶりは微笑ましくもあり、研修医として直面する課題をリアルに教えてくれます。例えば、激務の中で医療と家庭の両立に悩む場面や、患者さんにどう接するべきか試行錯誤する姿は、将来同じ道を歩む受験生にとって具体的なイメージトレーニングになるでしょう。また、本作を読むと医師に対して患者や家族が無自覚にしてしまいがちなNG行動なども見えてきて、「こういう配慮が必要なんだ」という気づきがあります。コミカルな演出のおかげで楽しく読めますが、根底にはリアルな研修医教育への問題意識が流れており、読み終えると医師という職業への親近感と尊敬の念が芽生えるはずです。
「Dr.Eggs(ドクターエッグス)」
あらすじ: 『Dr.Eggs』は『ドラゴン桜』の三田紀房先生が現在連載中の、医学部生たちの青春群像劇です。タイトル通り「お医者さんの卵」=医学生が主人公で、難関医学部に合格した後の生活がどれほど大変かを描いています。主人公の円(まどか)千森くんは成績優秀という理由だけでなんとなく山形の出羽医大に進学しましたが、入学早々に教授から「熊の解体」を命じられるなど、常識破りな授業に驚かされます。解剖学、生理学など膨大な講義と試験に追われる中で、「こんなの無理!」と涙を流すこともあるようなハードな医学部生活がリアルに描かれています 。医学の知的好奇心を刺激しつつ、仲間とともに成長していく円たちの姿が爽やかに綴られています。
学び・気づき: 医学部受験生にとって、本作は入学後の姿を具体的に想像させてくれる教材と言えます。難関を突破してもなお、解剖実習で熊を解体するような厳しい課題や、2年次に留年のプレッシャーを感じるほどの猛勉強が待っている現実は、医師への道の険しさを物語ります。しかし同時に、仲間と助け合い試練を乗り越える姿からは、チームワークの大切さや学ぶ楽しさも伝わってきます。著者の三田先生は「医学部に入ってから興味を広げてもいい」と語っており、若者が成長していく柔軟さを肯定的に描いている点も印象的です。受験勉強で視野が狭くなりがちな今だからこそ、この漫画を読むことで「医師になるとはどういうことか」を多面的に考えられるでしょう。
「麻酔科医ハナ」
あらすじ: 『麻酔科医ハナ』は、研修を終えたばかりの駆け出し麻酔科医・華岡ハナ子(ハナ)が主人公の作品です。外科医の陰に隠れがちな麻酔科医の現場にスポットを当て、長時間労働とプレッシャーに晒される日々をコミカルなタッチで描いています。ハナは2年間の初期研修を終えて麻酔科に進みましたが、「麻酔しかしていない毎日」に次第にやりがいを見失いかけ、連日のカップ麺食と寝不足からついに辞表を書いてしまいます。それでも、患者の痛みや恐怖を和らげ命を陰で支える麻酔科医という仕事の尊さに気づき、自分なりにもう一度踏みとどまることを決意する――そんなハナの奮闘が描かれます。
学び・気づき: 麻酔科医は失敗が許されず目立たない仕事ですが、本作を読むとその重要性がよく分かります。医学部受験生にとって、麻酔科という専門のリアルな実情(人手不足による過重労働や専門性への低評価など)を知ることで、将来の進路選択の幅が広がるでしょう。主人公ハナが味わう「自分の専門に誇りを持てなくなる不安」は、研修医なら誰もが通る道かもしれません。しかし彼女が患者との向き合い方を見直し、周囲の支えも得て立ち直っていく姿からは、医師としてのプロ意識や働き方の問題について考えさせられます。シリアスになりすぎずユーモアも交えて描かれているので、気軽に読み進めながら医療現場の一端を学べる作品です。麻酔科に限らずどの科を志望する方にもおすすめできます。
「あたふた研修医やってます。24時間お医者さん修行中」
あらすじ: 『あたふた研修医やってます。』は、現役医師の体験をもとにしたコミックエッセイです。マジメで純朴な青年研修医「ポチ」の視点から、大学病院での研修医生活がユーモラスかつリアルに描かれます。点滴の針刺しに失敗して先輩に怒鳴られたり、優しい看護師長さんに励まされたり、患者さんとの心温まる交流に涙したり…と、研修医の汗と涙と笑いの日々が詰まっています。実務経験ゼロの状態から一人前の医師になるまで、2年間の初期研修で直面する難題の数々を「あるある」満載で描き出しており、新人医師たちの奮闘劇には思わず共感してしまうことでしょう。
学び・気づき: 本作はコミカルな絵柄ながら、研修医の現実を余すところなく伝えてくれます。研修医が具体的にどんな業務を任されるのか(朝の回診に始まり、一日中点滴に走り回る様子や、初めて参加した手術ではひたすらカメラ持ちだったエピソード等)を読むと、医学部で学んだ知識を現場でどう活かすかイメージしやすくなるでしょう。また、厳しい指導医に萎縮しつつも仲間の存在に救われる場面などから、チームで研修を乗り切る大切さも感じられます。新人時代の苦労と成長が温かみのあるタッチで描かれているため、「どんなに大変でも自分も頑張ろう」と前向きな気持ちになれるはずです。著者自身の経験に基づくエッセイなので信頼性も高く、研修医の実情を知る入門編として最適な一冊です。
「離島で研修医やってきました。お医者さん修行中コミックエッセイ」
あらすじ: 『離島で研修医やってきました。』は、上記「あたふた研修医」シリーズの続編にあたるコミックエッセイで、主人公ポチが離島医療研修に挑戦する物語です。都会の大学病院での怒涛の研修を終えたポチが研修先に選んだのは、美しい海に囲まれたとある離島。しかし到着してみると、そこは大学病院で培った常識がまったく通用しない医療の現場でした。限られた医療設備と人手の中で奮闘するポチは、離島医療に人生を捧げるおおらかなおじいちゃん院長先生と、肝っ玉な看護師長さんに鍛えられながら成長していきます。のんびりした島民たちに戸惑いつつ、訪問看護や地域医療ならではの経験を積んでいくポチの姿がユーモラスに描かれています。
学び・気づき: 離島医療は都市部とは違った課題が山積みです。本作からは、医師が地域によって求められる役割の違いや、医療資源の偏在といった問題を学ぶことができます。研修医のポチが島で経験するエピソードは、例えば救急車が来ない環境での対応や、住民との密な信頼関係など、地域医療のリアルを教えてくれます。「もし自分が離島で働くとしたら…?」と考えることで、医師としての適応力や柔軟性について考えさせられるでしょう。また、島の人々に支えられながら奮闘するポチの姿は、どんな環境でも医師として成長していくために大切な姿勢を示しています。都会の最先端医療だけでなく地域医療にも目を向けるきっかけになる一冊で、医療への視野を広げたい医学部受験生にぜひ読んでほしい内容です。
「まどか26歳、研修医やってます!」
あらすじ: 『まどか26歳、研修医やってます!』は、女性研修医の苛酷な日常を描いた人気お仕事コミックエッセイです。主人公の若月まどかは「手術ってかっこいい!」と外科医に憧れて研修医になりましたが、現場の現実は想像以上にシビアでした。おしゃれや恋愛を楽しむ余裕もなく、きつい、モテない、睡眠時間は4時間、3食カップラーメンという研修生活。理想とのギャップに悩みながらも、先輩医師や看護師に助けられ、患者さんとの出会いを通じて一人前の医師へと成長していきます。研修医女子の日常をユーモアたっぷりに綴った本作は、そのリアルさが口コミで話題となりテレビドラマ化もされました。
学び・気づき: 女性ならではの視点で描かれる研修医生活は、医学部受験生(特に女子学生)の不安や期待に寄り添う内容です。過酷な勤務でおしゃれもできず合コンでも職業を「ナースです…」とごまかしてしまうエピソードには、笑いつつも医師の大変さを痛感させられます。一方で、患者さんに感謝された瞬間に報われる喜びや、「医師になって良かった」と感じる瞬間もしっかり描かれており、医師という仕事のやりがいを再確認できます。著者(水谷緑先生)は実際に研修医を経験した漫画家であり、自身の体験に基づくリアルな描写には説得力があります。将来医師として働く自分の姿を具体的に想像しやすくなり、「覚悟」を持って医学部に挑むモチベーションにもつながるでしょう。笑って泣けて元気が出る一冊です。
「賢者の学び舎 防衛医科大学校物語」
あらすじ: 『賢者の学び舎 防衛医科大学校物語』は、日本で唯一の自衛隊医官を養成する大学である防衛医科大学校を舞台にした青春医療漫画です。主人公の真木賢人(まき けんじん)は18歳。誰にも頼らず医師になることを志し、学費無料・全寮制・給料支給という特殊な環境の防衛医大に入学します。入学後は、白衣と自衛隊迷彩服の両方に袖を通しながら、医師と自衛官という二つの道の厳しい訓練を同時にこなす日々が始まりました。医学生としての勉強に加え、礼儀作法や体力練成まで要求される日本一ハードな医学部の青春が、生き生きと描かれています。仲間とともに壁を乗り越え、「医師とは何か」を模索していく姿はまぶしいほど爽やかです。
学び・気づき: 本作は医療とミリタリーという異色の組み合わせですが、環境が違うだけで医学生の本質的な悩みや成長は共感できるものばかりです。知識・技術・心構え…医師になるために学生たちが何を学んでいくのかが丁寧に描かれており、読者も主人公たちと一緒に学び考えることができます。防衛医大という特殊な舞台を通じて、チームワークの重要性や規律の意味など、一般の医学部では得られにくい視点も学べるでしょう。医学部受験生にとって、自衛隊医官というキャリアを知る機会にもなりますし、「医師はどんな環境でも人命を守るために成長し続けるんだ」という強い使命感を感じ取ることができます。医療×青春ストーリーとして純粋に読み応えがあり、将来の進路の一つとして防衛医大に興味が湧くかもしれません。
「19番目のカルテ 徳重晃の問診」
あらすじ: 『19番目のカルテ 徳重晃の問診』は、“なんでも治せる医者”を目指す若き医師を描いた医療漫画です。現代の医学には内科や外科など18の専門分野がありますが、自分の専門外の病気は他科へ紹介するのが通常です。しかし専門分化の弊害で患者がたらい回しにされるケースも少なくありません。そうした問題を解決すべく設置されたのが、第19の専門「総合診療科」です。本作では、3年目の整形外科医・滝野が総合診療医の徳重晃と出会い、「何でも治せるお医者さん」を目指して新たな道を歩み始めます。総合診療医の鋭い観察眼と幅広い知識で患者の謎の病を次々と解明していくストーリーはスリリングでありつつ、理想と現実のギャップに悩む若手医師の成長物語としても読み応えがあります。
学び・気づき: 医学部受験生にとって、総合診療医というキャリアはあまり馴染みがないかもしれません。本作を読むことで、専門医と総合医の役割の違いや、日本の医療の抱える「縦割り」の問題点に気づくでしょう。主人公の滝野が、自分の専門分野にこだわるあまり見落としていた患者の全体像に気づいていく過程は、医師に必要なのは知識や技術だけでなく包括的に患者を見る視点だということを教えてくれます。 また、どんな症例にも真摯に向き合う徳重医師の姿勢からは、患者に寄り添う医療の原点を学べます。総合診療は今後重要性が増す分野と言われており、本作で興味を持ったらぜひ調べてみるのも良いでしょう。医療の最前線のトレンドも掴める一作です。
「Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~」
あらすじ: 『Dr.DMAT~瓦礫の下のヒポクラテス~』は、災害現場で活動する医師たちを描いた異色の医療漫画です。「DMAT」とは災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の略称で、大規模災害時に出動し多数の負傷者に対応する専門部隊のこと。主人公の八雲響は気弱な青年医師ですが、ひょんなことから病院のDMAT隊員に任命されてしまいます。倒壊した建物の下敷きになった被災者たち、刻一刻と迫る時間の中での救命活動――極限状態の現場では、救える命と救えない命を選別するという非情な決断も迫られます。最初は圧倒される八雲でしたが、持ち前の冷静な判断力を発揮し、次第に災害医療のプロフェッショナルとして成長していきます。命の重みと医師の使命を真正面から描いた熱いドラマです。
学び・気づき: 本作から得られる最大の学びは、平常時の医療と非常時の医療の違いです。災害医療の現場では、限られた人員・物資・時間の中で多数の傷病者に対応しなければなりません。そのため、やむを得ず救命の優先順位を付ける「トリアージ」が必要になる場面も描かれます。医学部受験生にとって、そうした判断を迫られる医師の苦悩を知ることは、医療の本質を考える上で非常に貴重です。「一人でも多く救いたい」という理想と、「全員は救えない」という現実のはざまで葛藤する八雲の姿は、医師の倫理観と現実的判断力の両方が試される状況を教えてくれます。平時の医療体制についても、災害への備えという視点で見直す契機になるでしょう。命の尊さと同時に、医療従事者のメンタルケアの重要性など幅広い視点が得られる作品です。
どの作品も医学部受験生にとって有益な気づきを与えてくれるものばかりです。漫画という形であれば、受験勉強の合間のリフレッシュにもなり、かつ医療へのモチベーションも高められて一石二鳥でしょう。気になる作品を手に取ってみて、未来の自分像を思い描いてみてください。医学部で学ぶ知識が実際の現場でどう活かされるのか、患者さんや先輩医師とどう向き合うのか…、漫画の中の主人公たちの姿は、きっと皆さんの心に深く刻まれ、「医師になりたい」という思いをさらに強くしてくれるはずです。
