医学部専門個別予備校

国際卓越研究大学制度とは?医学部が挑む世界トップ研究への道

国際卓越研究大学制度の概要

国際卓越研究大学制度は、日本の大学の研究力を飛躍的に高め、世界トップレベルの研究大学を育成することを目的とした新しい支援制度です。海外の一流大学が莫大な資金を背景に研究力を強化している中で、日本の大学は論文数や質の国際順位が低下傾向にあることが指摘されています。こうした状況を打開するため、日本政府は10兆円規模の大学ファンド(科学技術振興機構<JST>が運用)を設置し、その運用益を用いて選ばれた大学を重点支援する仕組みを整えました。

具体的には、「国際的に卓越した研究の展開」や「経済社会に変化をもたらす成果の活用」が見込まれる大学を「国際卓越研究大学」に認定し、その大学が策定した研究体制強化計画に対して大学ファンドから助成を行うものです。

支援期間は最長で25年と長期にわたり、認定された大学には毎年数百億円規模の支援が行われる予定です。初回公募(第1期)では東北大学が2024年11月に第1号として認定され、続く第2期公募では東京大学・京都大学・大阪大学など計8大学が2025年5月に申請を行いました。

国公立医学部の取り組みと研究強化の方向性

国際卓越研究大学を目指す国公立大学では、医学部を含む全学的な改革計画を打ち出しています。医学部は各大学の研究の要でもあるため、その取り組みも研究強化の鍵を握ります。

東京大学の取り組み

東京大学は第1期公募で認定を逃しましたが、反省を踏まえて体制を整え、第2期公募に再挑戦しています。提案書では「10年で世界トップ10の研究大学になる」ことを掲げ、旧来の硬直的な組織構造を打破して国際競争力と自律的成長力を備えた大学への自己変革を目指すと明言しました。

全学横断の新たな教育研究組織を創設して「世界の公共性への奉仕」を実践し、研究基盤の整備や人材育成の抜本改革によって学術の多様性を維持しつつ世界トップクラスの大学に肩を並べる存在になることを目標としています。このように医学部のみならず大学全体で研究環境を強化し、人材面でも若手研究者の育成や研究マネジメント力の強化に力を入れています。

京都大学の取り組み

京都大学も東京大学と同様に、第2期公募で申請を行っています。京都大学の計画は大きく三つの柱から成り立っています。その第一は研究組織の改革と人材・研究環境への積極投資、第二に研究成果の社会活用の推進、第三に自律的なガバナンス体制の確立です。これにより、自由な研究環境のもとで社会を変革する価値を生み出し続け、世界中から多様な研究者が集う知の拠点となることを目指すと表明しています。京都大学医学部としても、これまで培ってきた基礎研究力の高さを活かしつつ、研究支援体制を国際水準に引き上げ、若手研究者の潜在力を最大限発揮できる環境整備に努めています。

東北大学の取り組み

東北大学は国際卓越研究大学の第1号認定を受けた大学であり、医学部を含めた大胆な改革に乗り出しています。東北大学の強化計画では、「全方位的な国際化」「世界の研究者を惹きつける研究環境の整備」「世界に変化をもたらす研究展開」など6つの目標を掲げ、それを達成するために19の具体的戦略を打ち出しました。

従来は教授を頂点に准教授・助教で研究室を構成していた体制を改め、助教クラスの若手であっても独立して研究室を主宰できる体制へ移行することに取り組んでいます。このような若手研究者の自立支援策や明確なKPIを設定した計画が評価され、認定にいたりました。ただし、民間資金の受入額10倍増といった大胆な数値目標には現実性への指摘もあり、更なる戦略の練り直しが必要とされています。

東北大学医学部では研究力強化に向けた組織再編も進めています。例として、医学部から独立した「医学イノベーション研究所」を2025年4月に新設し、医学系の研究手法統合やデータ駆動型研究を推進する拠点としました。また博士課程の学生に対する経済支援と高度な研究研修プログラムを提供する「国際卓越研究者育成支援プログラム」を立ち上げ、医学系の博士後期課程学生に生活費相当の支援や海外研修機会を与えています。これらの施策により、臨床のみならず研究マインドを持った医師・医学者の育成に注力しています。

大阪大学の取り組み

大阪大学も第2期公募に申請した大学の一つで、特色ある構想を掲げています。大阪大学は「関西発世界行き」をキーワードに、産学官民が集うイノベーション拠点「サイエンスヒルズ(大阪版シリコンバレー)」の形成を目指すとしています。具体的には、国際共同研究拠点や最先端研究拠点を次々と「研究特区」として立ち上げ、研究成果を学内にとどめず社会実装まで結びつけるオープンな研究環境を整備する計画です。

医学・生命科学分野も「医療・健康」領域として重点分野の一つに挙げられており 、医学部・附属病院と産業界との連携による革新的医療技術の開発や、スタートアップ支援にも力を入れる方針です。審査意見では、野心的な提案であると評価される一方、こうした新組織が既存の学部・講座とどのように調和し機能するか、具体的な工程づくりと弊害の予防が課題と指摘されています。大阪大学医学部としては、従来から進めている医工連携や次世代医療研究をさらに発展させ、世界に通用する研究成果の創出と社会実装を加速する構えです。

私立医学部の対応と戦略

国立大学ほど直接的に国からの支援を受けにくい私立大学も、この制度の動向をにらみつつ独自の戦略で研究力強化に取り組んでいます。特に慶應義塾大学のように研究力で定評のある私立総合大学や、順天堂大学・東京慈恵会医科大学・日本医科大学といった医学部単科大学が、それぞれの強みを活かした対応策を進めています。

慶應義塾大学医学部の戦略

慶應義塾大学は国際卓越研究大学の公募には参加していませんが、政府のもう一つの研究大学支援策である「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に積極的に参画しています。2024年度のJ-PEAKS公募において慶應義塾大学の提案が採択されており、全国69校の応募中12校の採択校に名を連ねました(私立大学では慶應と沖縄科学技術大学院大学<OIST>のみが採択)。J-PEAKSは国際卓越研究大学の支援と並行して中堅大学群の研究力底上げを図る事業で、慶應はこの枠組みで最大55億円規模×5年の支援を受けることになります。これを追い風に、慶應義塾大学医学部では組織横断的な研究機能強化に乗り出しています。

慶應はこれまでも政府の「研究大学強化促進事業」(2013~2022年)や「スーパーグローバル大学創成支援」(2014~2023年)など複数の事業に採択され、研究力と国際化を推進してきました。特筆すべきは、2022年に私立大学で初めて世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択された点です。医学部の本田賢也教授らが中心となる「ヒト生物学–微生物叢–量子計算研究センター(Bio2Q)」がWPI拠点となり、世界から一流研究者を招へいする国際的研究環境を整備しています。

また、産官学連携による共創の場形成支援(COI-NEXT)事業にも参加し、都市型ヘルスケアやアップサイクル社会など先端課題の研究拠点を形成しています。慶應医学部としては、こうした大型プロジェクトの推進を通じて研究資金を確保し、人材登用や設備投資を行うことで、「未来のコモンセンス(常識)を創る研究大学」への飛躍を目指しています。医学領域では基礎から臨床まで幅広い強みを持つ伝統を活かしつつ、AI医療や再生医療など新興分野への投資も進めているようです。結果として、国内の研究力ランキングでは私立大で唯一トップ10に入るなど高い研究力を維持しています。

順天堂大学の戦略

順天堂大学は医学部を中心とした医療総合大学として、国際共同研究の推進に注力しています。早くも2021年4月に「国際共同研究機構」を設立し、海外大学との連携強化を図る組織体制を整えました。初代機構長には新井一学長が就任し、その第一歩として米国のジョンズ・ホプキンス大学やヴァンダービルト大学との包括提携を実現しています。この機構を拠点に、順天堂大学は海外の一流大学との研究ネットワーク構築や研究者の相互派遣・招聘を積極化させ、国際協力体制のもとで研究成果を世界に発信することを目指しています。

機構長メッセージでも「意欲あふれる研究者の派遣と招聘を支援し、研究を通じて社会に貢献していく」と述べられており、世界水準の研究環境づくりに大学を挙げて取り組んでいる姿勢がうかがえます。順天堂は臨床力にも定評がありますが、最近ではAIを活用した医師の働き方改革など医療DX分野で企業と共同研究を行うなど、新たな研究領域へのチャレンジも見られます。このように順天堂大学医学部は、自主財源の限られる私立大の中にあって独創的な国際連携と産学協同を武器に研究力向上を図っています。

その他の主な私立医学部の動向

東京慈恵会医科大学や日本医科大学といった伝統ある私立医学部単科大学も、それぞれの立場で研究・教育力強化を進めています。これらの大学ではまず国際交流と人材育成の面で積極的な施策が取られています。

日本医科大学では「世界で活躍できる医師・医学者を育成する」ために医学英語教育に力を入れ、世界各国の医科大学・病院との国際交流を推進してきました。学生の派遣留学や海外研修を支援する国際交流センターを設置し、在学生が海外の医療現場を経験できるプログラムも提供しています。東京慈恵会医科大学でも、ボストンで高度医療を体験する留学プログラム(Boston Medical Odyssey)を実施するなど、若手医師・学生にグローバル水準の臨床研究トレーニングを積ませる取り組みがあります。

慈恵医大は2025年3月、「臨床研究プロフェッショナル育成フォーラム」を開催し、臨床医の研究力向上について議論するなど、医師としての臨床能力だけでなく科学者としての探究心と技能を持つ医師の育成に力を注いでいます。

研究設備や組織面でも私立医大の工夫が見られます。

日本医科大学では医学部附属施設に先端医学研究所を置き、基礎から臨床までシームレスな研究環境を提供しています。またAMED(日本医療研究開発機構)による医療系スタートアップ支援事業では、慶應義塾大学が代表拠点となるコンソーシアムに参画し、自大学のシーズ(種となる研究成果)をベンチャー創出につなげる動きもあります。

東京慈恵会医大も総合医科学研究センターを設け、疫学・プライマリケア領域の大規模研究を推進するなど、自前の強みを活かした特色ある研究を展開しています。

このように私立医学部では国から直接の「卓越大学」支援は受けないものの、国際化・産学連携・特色研究の強化をキーワードに、それぞれ創意工夫で研究力を高めようとしています。特に慶應義塾や順天堂のように研究志向の強い大学は、将来的に国際卓越研究大学に準じる存在となるべく土台固めを進めていると言えるでしょう。

制度が医学部入試・教育・研究体制に与える影響

国際卓越研究大学制度の導入は、医学部の入試や教育内容、研究体制にも徐々に影響を及ぼすと考えられます。

まず入学者選抜(医学部入試)に関しては、従来の学力一辺倒の評価に加えて研究への意欲や経験を持つ人材を評価する動きが強まる可能性があります。実際に国公立大学では「特色入試」や「総合型選抜」等で理科研修の経験者を募集する例が増えてきていますし、研究マインドを持った学生を早期に発掘・育成することが重要視されています。例えば大阪大学医学部では、将来研究者を志す学生向けに入学直後から基礎研究に参加できる特別プログラムを設けており、世界をリードする研究力と国際的視野を備えた医学研究者を育成することを目的としています。このような制度を活用する学生を増やすため、入試段階でも研究志向の学生が評価されやすくなるでしょう。

医学教育の内容面でも変化がみられます。研究大学を目指す医学部では、従来の臨床実習中心のカリキュラムに加えて研究リテラシー教育や研究プロジェクト型学習の充実が図られています。多くの医学部で在学中に基礎または臨床研究の実習を行うコースが用意され、希望者は指導教員の下で論文作成や学会発表を経験できるようになっています。

また、優秀な学生には医学部卒業後に博士課程へ進学する道を奨励・支援する仕組み(いわゆるMD-PhDコース)も整備されつつあります。国際卓越研究大学では博士課程の定員増や留学生受け入れ拡大も計画されており、医学系分野でも博士人材の育成と国際化が一層推進される見込みです。その結果、医学部在学中から海外の研究者と共同研究をしたり、国際学会で発表する学生も今後増えていくでしょう。

研究体制への影響としては、大学全体で研究支援人材や設備に巨額の投資が行われることで、医学部の研究環境も充実していきます。認定校となった東北大学では大学病院や医学系研究所に最新鋭の研究設備を導入し、臨床と基礎の垣根を超えたプロジェクトを興せる体制を整えています。各大学医学部はファンド支援を追い風に、研究費の獲得競争力を高めるためのリサーチ・アドミニストレーター配置や研究者の事務負担軽減策を講じるなど、教員が研究に専念できる環境づくりを加速させています。また、附属病院も研究の場として重要視されるようになり、医師主導治験や臨床研究中核病院としての機能強化が期待されます。

医学部としては、教育・研修の段階から「臨床と研究の車の両輪」を意識させ、研修医や若手医師が研究の道にも進みやすいキャリアパスを示すことで優秀層の流出を防ぐ狙いもあります。総じて、この制度は医学部の教育・研究体制に「研究志向の人材を呼び込み、育成し、活躍させる」方向への変革を促していると言えるでしょう。

受験生や保護者がこの制度をどうとらえるべきか

医学部を志す皆さんやその保護者の方にとって、国際卓越研究大学制度は一見すると自分達に直接関係のない政策に思えるかもしれません。しかし実際には、進学先の大学がどのような研究力強化ビジョンを持っているかは、在学中に得られる教育機会や将来のキャリアに少なからず影響します。そこで以下に、この制度を踏まえて受験校選びや今後の学び方を考える際のポイントを述べたいと思います。

まず、研究志向の強い医学部に進学したい人にとっては大きなチャンスです。国際卓越研究大学に認定された大学や申請中の大学は、今後潤沢な研究資金のもとで最新の設備や一流の教授陣を揃えていく可能性があります。学部生のうちから最先端の研究に触れたり、世界的に著名な研究者の指導を受けられたりする機会が増えるでしょう。

また、大学によっては在学中の研究成果を評価して大学院進学時に奨学金を支給する制度や、在学中に海外留学・国際学会発表する学生への支援制度が拡充される見込みです。研究に関心のある受験生は、各大学医学部のホームページで「研究医養成コース」や「特色ある教育」の情報を調べ、制度が充実している大学を志望校に加えることを検討してみてください。「世界トップレベルを目指す」という明確なビジョンを掲げている大学では、学内の雰囲気も刺激的で、同じ志を持つ仲間と切磋琢磨できるメリットがあります。

一方で、臨床医志望で研究にはあまり関心がない受験生や保護者の方も、この制度による変化を把握しておくことが重要です。研究重視とはいえ、医学部の使命である良質な医師の養成が軽んじられるわけではありません。どの大学でも医師国家試験に必要な知識・技能を習得するカリキュラムは保証されています。ただ、研究大学を目指す医学部では「臨床だけでなく研究のできる医師」を育てる方針が打ち出されているため、在学中に研究プロジェクトへの参加が半ば必須になったり、卒業後も大学院進学や留学を勧められたりするケースが増えるかもしれません。純粋に臨床一本でやっていきたいと考える場合でも、研究的思考や最新エビデンスに触れることは将来必ず役立ちます。むしろ研究経験を持つ医師は、そうでない医師に比べて問題解決能力や論理的思考力で優れるとも言われますので、前向きに捉えていただきたいと思います。

保護者の方にとって気になるのは、大学のブランド力や将来性ではないでしょうか。

国際卓越研究大学に選ばれた大学は国からの支援を受けつつ飛躍することが期待されるため、大学全体の評価が今後高まる可能性があります。研究力の高さは大学の国際ランキングにも影響する指標であり、将来的に例えば東北大学や京都大学が世界大学ランキングで現在以上に上位に入るようなことになれば、その大学出身であること自体が大きな財産になるでしょう。

また、研究力強化に成功した大学院(博士課程)では優秀な留学生や企業からの共同研究が集まるため、卒業生が進む道も広がります。お子さまが医学部でどのような道に進むにせよ、研究マインドを持った医師が活躍できる時代になってきていることを念頭に、大学選びや学習支援を考えていただければと思います。

最後に強調したいのは、医学部受験生自身の心構えです。たとえ将来は臨床医が本命だとしても、医学は日進月歩で進化する科学分野でもあります。大学で学ぶ6年間の中で、ぜひ研究にも触れてみてください。

国際卓越研究大学制度は大学側の取り組みですが、皆さん一人ひとりの学び方次第でその恩恵を最大限に生かすことができます。最先端の研究施設に飛び込み、新しい知見を生み出す喜びを知ることは、医師としての視野を広げ、人類の健康に貢献する原動力となるでしょう。制度のおかげで増えつつあるこれらの機会を前向きに活用し、「研鑽に励み社会に貢献する」という医学部生本来の目的を見失わずに歩んでいかれるよう願っています。大学側も誠実に皆さんの成長を支えてくれるはずです。医学部受験生と保護者の皆様は、この制度を一つの追い風として捉え、志望校の教育・研究方針にも目を配りつつ、それぞれの目標に向かって進むための努力されることを期待しています。



LINE友だち追加バナー

関連記事

TOP