私立医学部の一般入試は、毎年1月下旬から2月にかけて全国31校で集中して実施されます。多くの受験生が複数の医学部に出願・併願するため、試験日程の重複がしばしば発生し、入試日程の調整はまるでパズルのように複雑です。ここでは各大学の一次試験日程の傾向と年次変化、併願のしやすさ・しにくさ、試験会場の影響、併願計画を立てる際のポイント、そして受験生と保護者へのアドバイスについて、順を追って丁解説します。
目次
私立医学部入試日程の全体像と重複状況
全国私立医学部の一般入試日程は、大学入学共通テスト終了後の1月下旬から始まり、2月中旬までに一次試験(筆記試験)がほぼ集中します。その後、2月下旬~3月中旬にかけて一部の大学で後期試験が実施されます。日程が集中しているため、複数大学の一次試験日が同日に重なるケースも珍しくありません。以下に、2024~2025年度の主な一次試験日程と重複例を紹介し、その傾向や年次変化を見てみましょう。
- 1月下旬(試験開始直後):共通テスト明けの翌週から私立医学部入試がスタートします。例えば2025年度は、1月21日に愛知医科大学、1月22日に岩手医科大学や国際医療福祉大学などが先陣を切りました。この時期には帝京大学医学部の一次試験が3日間連続で設定され(1月23日~25日)、帝京大学と他大学との日程重複が大きな話題になりました。2025年度は帝京大の試験日が前年より前倒しされ、1月23日に杏林大学(東京)と帝京大学が同日となったほか 、1月25日前後に東北医科薬科大学(宮城)や関西医科大学(大阪)とも重なる形になりました。前年の2024年度には関西医科大学と大阪医科薬科大学が同日になり大きな影響を与えました。このように試験日程の変更や重複は志願者数や合格ラインにも影響しうるため注意が必要です。
- 1月下旬~2月初旬(前半の山場):1月末から2月初めにかけて、私立医学部の一次試験日程がピークを迎えます。2025年度には、1月26日には近畿大学(大阪)と川崎医科大学(岡山)の一次試験日がぶつかり、受験生はどちらかを選択せざるを得ませんでした (※この両大学の日程重複は2024年度からの新たな組み合わせです)。2月1日には東京女子医科大学(東京)、日本大学医学部(東京)、久留米大学(福岡)の一次試験日が3校同日で、これは近年恒例の重複パターン(2023年度以降3年連続)となっています 。2月2日も東海大学(東京)と福岡大学が10年以上同じ日程を続けており 、地域を跨いで試験日が重なる典型例です。このように 毎年決まった組み合わせで日程が重なる大学も存在します。
- 2月中旬(難関校が集中):私立医学部入試の後半戦には難関校がひしめきます。2025年度は慶應義塾大学医学部が例年より10日以上早い2月9日に一次試験を実施し、産業医科大学(福岡)と同日になりました 。また東京慈恵会医科大学(慈恵医大)も例年より約1週間日程が早まり、前期試験ラッシュの最後尾(2月中旬)に位置しています。この結果、慶應と慈恵医大が他大学の前期日程に割り込む形となり、受験生のスケジュール調整は一層難しくなりました。難関私立(慶應、慈恵、日本医科、順天堂、東京医科、昭和、東邦など)の一次試験日は2月上旬~中旬に集中し、学力上位層の受験生はこれらの日程が連日続く傾向があります。例えば2025年度は、2月7日に昭和大学、2月8日に東北医科薬科大(後期試験)や北里大学、2月9日に慶應大、2月10日頃に日本医科大学・東京慈恵会医科大学…といった具合に連戦が予想され、受験生は取捨選択を迫られました。
- 2月下旬~3月(後期日程):一部の私立医学部では2月末~3月に後期試験を実施しています。例えば日本医科大学や近畿大学は2月下旬に一次試験を行い 、大阪医科薬科大学は3月10日と非常に遅い日程で後期日程の一次試験を開始します。このため、前期で不合格だった大学を受けた後でも日程が重ならない範囲で複数の後期試験に挑戦することも可能です。ただし後期募集の定員はどの大学も極めて少なく(10名前後が多い)競争率が高いため、最後のチャンスとはいえ難易度は非常に高い点に注意してください。
以上のように、私立医学部の一次試験日程は年によって少しづつ変更され、それによって他大学との重複関係が変化します。日程の前倒しや重複解消によって志願者数が増減する例もあり、その場合には倍率が変化しますから、毎年度の最新日程情報をチェックすることが大切です。
併願しやすい大学・しにくい大学
併願のしやすさは、ズバリ各大学の一次試験日程が他校と重ならないかどうかにかかっています。試験日が異なれば物理的には全て受験可能ですが、実際には試験科目の特性や地理的要因も絡むため、戦略的な選択が必要です。ここでは「併願しやすい組み合わせ」と「併願しにくい組み合わせ」の典型例を挙げ、受験校選びのポイントを見てみましょう。
- 日程が重ならない大学同士は併願しやすい:基本的に一次試験日が異なる大学であれば併願可能です。例えば、1月末に試験がある大学と2月中旬に試験がある大学はスケジュール上両方受験できます。また後期日程(2月下旬~3月)の大学は前期日程の大学と日程が重複しないため、前期で合格が得られなかった場合の滑り止めとして併願しやすい傾向があります。具体例として、近畿大学医学部や日本医科大学(いずれも一次試験が2月下旬)と、大阪医科薬科大学(一次試験が3月10日)は日程が連続しないため全て受験可能です。このように日程さえずれれば最大で10校程度を併願受験することも不可能ではありません 。
- 同一日に試験がある大学は併願不可能:言うまでもなく、一次試験日が重複している大学同士は同年には両方受験できません。上で述べたように、例えば2025年度では帝京大学と杏林大学(1/23)、近畿大学と川崎医科大学(1/26)、東京女子医科大・日本大学医学部・久留米大学(2/1)、福岡大学と東海大学(2/2)などが同日程であり 、受験生はこれらから志望度や相性に応じてどれか一校を選択する必要がありました。併願校選びに迷った場合、各大学の出題科目や傾向の違いに着目するとよいでしょう。例えば、東海大と福岡大では「英語が得意なら東海大、数学が得意なら福岡大」といった具合に科目の難易度傾向から選ぶ方法もあります。同様に、埼玉医科大・東邦大・藤田医科大(いずれも2/4)のように複数校が重なるケースでは、自分の得意科目や併願パターン(国公立併願者か私立専願か)によって適した大学を絞り込む戦略も有効です。
- 複数回チャンスがある大学の活用:私立医学部の中には、複数日の一次試験チャンスを設けている大学もあります。代表例が帝京大学医学部(3日間)や順天堂大学医学部です。順天堂大学は一般入試A日程・B日程など複数回の試験を実施しており、受験生はこれらの中から都合のよい日程を選んで受験できます。帝京大学も3日間のうち最大3回受験可能で、学力に自信があれば他大学受験のために一部日程を見送る選択肢も考えられます。このように日程にゆとりのある大学や同一大学内で複数回受験機会がある大学は、併願スケジュールに柔軟性を持たせる上で有効に活用できます。
- 一次試験と二次試験の日程にも注意:一次試験だけでなく、二次試験(面接・小論文等)の日程重複も併願戦略に影響します。一次試験が終わった後、2月中~下旬には合格者に対する二次試験日程が各大学で組まれますが、この二次試験日が他大学の一次試験や他の大学の二次試験と重なる可能性もあります。多くの私立医学部では二次試験日程は受験生の希望日に沿って選べる場合が多いものの、東京女子医科大学、川崎医科大学、東北医科薬科大学のように受験番号で指定され希望できない大学もあります。例えば「第一志望の大学の二次面接日」と「別の大学の一次試験日」がバッティングした場合、基本的には第一志望を優先すべきですが、事前にそうした事態も想定してどの段階でどの大学を諦めるかまでプランを立てておくと安心です 。なお、一部大学は二次試験日をある程度指定できる制度もありますが、基本的に一次試験合格後に二次日程の調整はできない大学が多いので注意してください。
以上を踏まえると、併願校選びでは「日程の重複がないこと」を大前提に、さらに各大学の入試科目・難易度の特徴、自分との相性も考慮して取捨選択することが重要です。私立のみを受験する場合、日程的に可能な限り多く受験して合格のチャンスを増やす戦略も有効ですが、体力面・精神面も考慮しながら無理のない計画を立てましょう。
試験会場(東京会場・地方会場)の有無とスケジュールへの影響
私立医学部の一般入試では、多くの大学が複数都市に試験会場を設けています。東京・大阪・名古屋・福岡など主要都市に会場を用意する大学も多く、受験生は本学(大学キャンパス)まで行かずずに自宅から近い会場で一次試験を受けられる場合があります。この試験地の選択肢は併願スケジュールに以下のような影響を及ぼします。
- 遠方大学でも移動負担を軽減できる:地方にキャンパスがある大学でも、近くの都市会場で受験できれば長距離移動を避けられます。例えば福岡にある久留米大学医学部や、愛知の藤田医科大学を東京会場で受験できれば、連日の試験でも移動の疲労を最小限に抑えられます。移動時間を短縮できる分、勉強や休養に充てられる時間が増えるメリットがあります。特に連日の受験が続く場合、前泊・後泊の必要がない都市会場は大きな助けになるでしょう。
- 試験当日の移動リスクが減る:冬場の入試シーズンは天候不良による交通機関の乱れも起こりえます。居住地に近い会場で受験できれば、大雪や新幹線の遅延といったリスクを減らせます。また見知らぬ土地で会場を探すストレスもなく、精神的な余裕を持って試験に臨めるでしょう。余裕を持って会場入りできることは当日の実力発揮にもプラスになります。
- それでも日程重複は避けられない:注意したいのは、会場が別でも試験日が同じなら併願受験は不可能という点です。当然ですが、「東京会場でA大学、同じ日に大阪会場でB大学を受ける」といったことはできません。試験時間は終日または半日以上にわたるため、同日の試験を掛け持ちすることは不可能です。したがって会場選択の自由はあっても、前述の日程重複そのものは引き続き最大の制約条件となります。
- 二次試験は本学会場のみの場合が多い:一次試験は地方会場が充実していますが、二次試験(面接など)は本学(大学所在地)でのみ実施する大学がほとんどです。例えば東北地方の岩手医科大学は珍しく東京や大阪で二次試験面接を受けられますが、それ以外の多くの大学では最終合格を目指すなら現地に赴く必要があります。そのため一次試験は都市会場で気軽に受けられても、合格後の移動予定(交通・宿泊手配など)は事前に考えておかなければなりません。
- 会場選択は出願時に指定:どの会場で受験するかは出願時に選択・指定するケースが一般的です。希望者が定員を超えた場合は大学側が会場を指定したり、締切が早まったりすることもあります。人気の東京会場などは早めに定員に達することもあるため、願書提出は余裕をもって行いましょう。
総じて、試験地の選択肢が多いことは併願スケジュール上の利点です。しかし「移動しなくて済む=疲れない」というわけではありません。連戦が続けば自宅から近い会場でも疲労は蓄積します。遠方受験の場合は前泊や休養日を織り交ぜる、近場受験でも油断せず体調管理に努める、といった心構えが必要です。
併願戦略を立てる際に考慮すべきポイント
複数の医学部を併願する場合、スケジュール管理が合否を左右する重要要素となります。以下では、併願プランを練る際にぜひ考慮したいポイントを整理します。第一志望校の優先から合否発表や入学金納付まで、トータルで戦略を立てましょう。
- 第一志望の試験日程を最優先する: 併願校を決める上でまず大切なのは、第一志望大学の試験日に他校の試験が重ならないようにすることです。第一志望の一次試験日に他大学を受けて受験できない、という事態は絶対に避けましょう。また第一志望の二次試験日程も念頭に置き、他校の予定と衝突しないよう調整します。第一志望に全力投球できるスケジュールを組むことが合格への近道です。
- 移動と体力管理を計画に入れる: 併願スケジュールを立てる際は、地理的な距離と移動時間、受験生の体力面も必ず考慮しましょう。連日異なる都市で受験する計画は机上では可能でも、実際には移動の疲れが集中力を削ぐ恐れがあります。遠方で朝早い試験なら前日入りして宿泊する、試験後は速やかに移動して休息するといった対応が必要です。連戦が続くときこそ睡眠・栄養を十分確保し、試験本番で実力を発揮できるコンディション管理を心がけてください。
- 合否発表と入学手続き(入学金納付)のタイミングを把握する: 私立医学部では、一次試験合格発表から数日以内に入学手続き(入学金支払い)を求められるケースが多くあります。そのため、併願校の合格発表日と入学金納付期限が重なった場合にどう対処するか、事前に方針を決めておく必要があります。 たとえば「第二志望の合格発表前に第三志望の入学金納付期限が来たらどうするか」、「繰り上げ合格の連絡待ちの間に他大学の手続きを進めるか」等、想定シナリオごとに家族で意思確認しておきましょう。特に私立医学部特有の繰上げ合格(補欠合格)は、合否連絡の時期が読みにくく計画を難しくします。上位校の合格者が他大学へ流れることで下位校の補欠が繰り上がる玉突き的な構造があり、その年の日程や偏差値動向によって繰上げ発生時期・人数が左右されます。繰上げ合格を待つ間にやむを得ず別大学に入学金を納めるケースも想定し、金銭面・進路面での判断基準をあらかじめ話し合っておくと良いでしょう。
- 受験費用の見積もりと予算管理: 私立医学部は1校あたりの受験料が約6万円と高額で、受験校数が増えるほど出願費用は嵩みます。さらに遠征受験では交通費・宿泊費もばかになりません。併願プランを立てる際は、受験にかかる総費用を試算し、経済的負担が無理のない範囲に収まっているか確認しましょう。合格後に複数校の入学金を押さえる場合の費用(各校数十万円ずつ)も念頭に置き、家庭の予算内で計画を組むことが大切です。金銭面の不安を減らすことも精神的な余裕につながります。
- 学科試験と面接・小論文対策の両立: 併願校が増えると、それだけ各大学ごとの入試傾向研究や対策範囲も広がります。特に国公立との併願者は共通テストや二次筆記に追われがちですが、私立医学部の問題形式や面接形式も大学ごとに多様であり、油断できません 。MMI(多項目面接)やグループ討論を課す私立大もあります。学科試験対策と並行して、面接や小論文の準備も早めに着手しておくことが望ましいです。一次合格後に焦って準備する余裕はほとんどありません。スケジュールが詰まっている受験生こそ、効率よくポイントを押さえた対策が必要になります。
- 柔軟な計画修正と冷静な意思決定: 入試本番が近づくと、出願状況の変化や模試結果によって志望戦略の修正が必要になる場合があります。「やはりこの大学は見送ろう」、「新たに○○大学も併願しよう」といった判断を迫られることもあるでしょう。そんな時は、当初の計画に固執しすぎず柔軟に対応することも大切です。もちろん場当たり的に増やしすぎるのは禁物ですが、受験直前期の学力や精神状態を踏まえて最適な受験校数・併願パターンに調整する冷静さを持ちましょう。迷った場合は信頼できる先生や予備校のアドバイザーに相談し、客観的なアドバイスを得るのも有効です。
受験生と保護者へのアドバイス
最後に、複雑な併願受験を乗り切るための実践的なアドバイスをいくつか述べます。受験生本人だけでなく、保護者の方も一緒にスケジュール管理や情報収集をサポートしてあげてください。
- 入試日程カレンダーを作成・活用する: 私立医学部31校分の試験日・合格発表日・手続き締切日を一覧できる受験スケジュール表を用意しましょう。予備校や医学部受験サイトが公開しているカレンダーPDFを印刷し、自分が出願する大学の一次試験日・二次試験日をチェックして丸を付けると全体像が把握しやすくなります 。日程が密集している箇所や余裕がある期間が一目瞭然になるため、併願計画の検討に非常に役立ちます。また、各大学の出願締切日も見落とさないよう併せてカレンダーに記入し、直前の出願忘れを防ぎましょう。
- 情報源は最新のものを信頼する: 医学部入試の日程や制度は毎年変更があります。昨年度までの常識が翌年度には通用しないことも珍しくありません。大学公式発表の日程はもちろん、予備校発行の「入試日程一覧」、「変更点まとめ」など最新資料に目を通し、誤った前提で計画を立てないよう注意してください。2025年度は慶應や慈恵医大の日程前倒しや、帝京大の日程変更など大きな変化がありました。日程だけでなく、定員増減や試験科目変更など関連情報もチェックしておくと万全です。
- プロの知見を積極的に借りる: 併願戦略や受験校選びに悩んだら、医学部受験に精通した予備校や塾のアドバイザーに相談するのも賢明です。 医学部専門予備校では、蓄積したデータや合格実績に基づいて的確なアドバイスを提供してくれます。各大学の出題傾向や繰上げ合格の動向まで踏まえた戦略立案は、受験生や保護者だけでは難しいこともあります。信頼できる指導者の助言を仰ぎつつ、最終的な志望校決定は親子で納得して行えるようにしましょう。
- メンタルと健康のケアを怠らない: 長期にわたる受験シーズンでは、心身のコンディション維持が合否を左右すると言っても過言ではありません。睡眠不足や疲労が蓄積するとミスが増え、本来の実力を発揮できません。保護者の方は栄養バランスの取れた食事やリラックスできる環境づくりに協力し、受験生がベストな状態で試験に臨めるようサポートしてください。連日の試験で落ち込む日もあるかもしれませんが、一喜一憂しすぎず常に次に集中できるようメンタル面でも支えてあげましょう。
- 合否結果と進路の整理: 複数校併願すると、合格、不合格、補欠など様々な結果が入り混じります。合否結果や補欠繰上げの連絡日を一覧表にまとめて管理し、どの大学に進学するか最終判断する際に整理できるようにしましょう。特に補欠合格は電話連絡で突然来ることもあるため、連絡手段を常に確認できるようにし、繰上げ合格を辞退する場合もすみやかに大学に意思を伝えるようにします。最終的に入学する大学を決めたら、他の大学への入学辞退手続きも忘れずに行いましょう。
私立医学部の併願受験は、その緻密なスケジュール管理と戦略立案こそが合格への鍵です。試験日程の重複情報を正確に把握し、無理のない受験計画を立ててください。第一志望を軸に据えつつ、併願校それぞれへの対策も抜かりなく進めましょう。受験生と保護者が二人三脚で情報収集とスケジュール調整に取り組めば、きっとベストな受験パフォーマンスが発揮できるはずです。
