医学部専門個別予備校

医学部教育と医師国家試験に活きる高校物理の知識

医学部のカリキュラムには、生物学や化学だけでなく物理学の概念も随所に登場します。特に医師国家試験では、高校で習う物理の知識が直接・間接に役立つ問題が見られます。ここでは、医学領域で問われる物理分野を整理し、具体的な試験内容との関連や、医学生が物理の理解を求められる代表的な場面についてまとめてみます。

医師国家試験で高校物理の知識が問われる分野

医師国家試験の出題範囲には、物理学の原理に関係するテーマが含まれています。以下は主要な分野とその具体例です。

  • 生理学(身体機能の物理): 血液循環や呼吸など、生体の物理現象を理解する必要があります。例えば血流や血圧の原理は流体力学で説明でき、血圧・血流量と血管抵抗の関係は電気回路のオームの法則と類似します。またラプラスの法則(壁の張力と内圧・半径の関係)やポアズイユの法則(流量と管径・粘性の関係)は循環器や呼吸器の生理学で重要で、臓器や血管の働きを物理的視点から支えています。
  • 放射線医学(画像診断・放射線防護): X線撮影、CT、MRI、超音波検査などの医用画像の原理は物理そのものです。国家試験ガイドラインにも「磁気共鳴画像検査(MRI)の原理」「核医学検査(PET含む)の原理」が明記されており、電磁波・磁場・放射線に関する知識が問われます。また電離放射線の種類・性質、放射性同位元素や放射線の単位(グレイ、シーベルト、ベクレル)といった放射線物理の基礎知識、および被ばく低減の三原則なども出題範囲に含まれています。
  • 医療機器の原理(医用工学的分野): 医療現場で使用する機器や治療法にも物理の応用が数多くあります。例えば、レーザー治療体外衝撃波結石破砕術(ESWL)などはそれぞれ光音響の物理を利用した治療です。国家試験でも、超音波内視鏡やカテーテル治療機器の基礎、ペースメーカーや除細動器の安全管理など、機器の原理に関連する知識が問われることがあります(例えばMRIでは体内金属デバイスの磁場による危険性への理解が必要です)。
  • 生活環境と物理要因(公衆衛生・法医学的分野): 環境要因による障害についても物理の知識が役立ちます。高温環境・低温環境による熱中症・低体温症、騒音による難聴、振動による障害(乗り物酔いや手腕振動障害)、気圧変化による減圧症(潜水病)や高山病、放射線被曝による障害など、これらは医師国家試験範囲に含まれており、それぞれ熱力学や波動・力学の知識が背景にあります。

以上のように、医師国家試験では生理学(力学・電気)、放射線医学(電磁気・原子核物理)、医療機器(光学・音響)、環境要因(熱・音・圧力)など、高校物理に通じる知識が必要な分野が多岐にわたります。

試験問題に現れる具体的内容と関連する高校物理分野

実際の国試問題では、以下のような具体例で高校物理の各分野が応用されています。

  • 力学(ニュートン力学・流体力学): 人体内の流れや圧力の問題に現れます。例えば血圧と血流の関係はオームの法則に倣って「血圧=心拍出量×血管抵抗」と表され、これは高校物理で学ぶ電圧=電流×抵抗の関係に対応しています。ポアズイユの法則(管径や粘性による流量変化)は、点滴ルートの太さ動脈の狭窄による血流変化を考える際に重要です。またラプラスの法則は、心臓や血管・肺胞における壁張力の理解に必要で、例えば左心室肥大で壁が薄くなると張力が増す、といった病態の物理的解釈に使われます。さらに圧力の概念は呼吸生理(胸腔内圧と肺容積の関係)や、体位変化による血圧変動(静水圧)などにも現れます。国試では減圧症(潜水病)や高山病の問題で気圧変化と体内ガスの挙動(ヘンリーの法則・ボイルの法則に関連)が問われることがあります。
  • 波動(音・光・振動): 音の物理は聴覚や超音波検査で重要です。例えば純音聴力検査の問題ではデシベル(dB)の意味(音の大きさを対数表示する単位)への理解が前提となります。実際、医師国家試験の耳鼻科領域では「0dBは無音ではない」「20dB上がると音のエネルギーは10倍になる」といった音響の基礎を知らないと誤答しやすい問題もあります。また超音波検査ではドップラー効果を利用して血流速度を測定しますが、試験ガイドラインにも「超音波検査の原理とドプラ法」が含まれており、高校物理で学ぶドップラー効果の理解が役立ちます。光学の知識も、眼科領域でレンズの屈折(近視・遠視の矯正原理)や内視鏡の光ファイバー原理などに関連します。レーザーも電磁波(光)の一種なので、レーザー治療に関する問題では光の組織への作用深達性の違い(例えば赤外線レーザーと紫外線の違い)など波長に関する知識が背景にあります。
  • 電磁気(電気回路・磁気): 医学では電気現象が随所に現れます。神経細胞の興奮は膜内外の電位差で説明され、これはコンデンサーの概念に通じます。また心電図(ECG)は心臓の電気活動を体表で記録するもので、生体を電気回路になぞらえリード配置を理解する際に電位の概念が必要です。MRI(磁気共鳴画像)は強力な磁場と高周波数の電磁波を用いる検査であり、その原理(核スピンの共鳴現象)や磁場による金属への作用は試験でも留意点として問われます。国家試験出題基準には「電離放射線」だけでなく「非電離放射線」としてMRIに使う電磁波やレーザー光も含まれており、電磁気学の基礎知識(電離の有無による作用差など)が求められます。さらに、放射線科では放射線の単位(GyやSv、Bq)や半減期といった原子物理の内容も出題されています。核医学ではポジトロン断層撮影(PET)で陽電子放出核種を用いるため、陽電子が放出する消滅放射線(511keVのガンマ線が対方向に出る現象)など、高校で習う原子核物理の知識が下地になっています。
  • 熱力学(エネルギー・熱・気体法則): 人体のエネルギー収支や温度調節も物理法則に従います。国家試験では熱中症(高温環境での熱放散失敗)や低体温症(低温環境での熱産生低下)の問題で、蒸発・放射・対流による熱放散メカニズムや、体温が下がると代謝がどう変わるか等を理解しておく必要があります。呼吸生理では気体の状態方程式(ボイル-シャルルの法則)の応用で、肺胞換気量と容積圧力の関係、人工呼吸器での設定圧と容量の関係などを考えます。例えば人工換気下でのピーク気道内圧は気道抵抗や肺コンプライアンス(弾性)に左右されますが、これは物理的な容器の弾性定数の問題として理解できます。また潜水や高地では気圧と溶存ガスの関係(ヘンリーの法則)が重要で、減圧症では急減圧により血中に気泡が発生することを物理的に説明できます。これら熱や気体に関する知識は主に生理学・公衆衛生領域の問題で問われます。

以上のように、医師国家試験の具体的な設問では高校物理の各単元(力学・波動・電磁気・熱など)が医学知識と結びついています。物理そのものを計算させる問題は多くありませんが、物理的な概念理解が正解の鍵となるケースが散見されます。

医学生が物理の理解を必要とする代表的な場面

医学教育の中で、学生が「ここは物理を知っていて良かった」と感じる場面をいくつか挙げてみます。

  • 循環器・生理学の講義や実習: 血圧測定や輸液の管理では圧力や流量の概念が不可欠です。例えば大量出血時に太い点滴ルートを確保するのは、ポアズイユの法則で管径が流量に与える影響が半径の4乗に比例して大きいと知っていれば納得できます。同様に、起立性低血圧を理解するには重力による水柱圧(静水圧)の知識が役立ちます。
  • 画像診断学や放射線科の実習: X線撮影では「X線は距離の2乗に反比例して弱まる(逆二乗の法則)」ため、防護の際に距離を取る重要性を物理法則で説明できます。CTやMRIでは装置の原理を学ぶ際に、CT値(X線吸収の指標)やMRIの磁場強度と信号の関係を物理的に理解することで、撮影像の成り立ちが掴みやすくなります。特にMRI室で金属製品を持ち込む危険(強磁場による飛来事故)はよく知られていますが、これも高校物理レベルの磁性体の知識があればイメージしやすいでしょう。
  • 耳鼻科・眼科など感覚器の学習: 聴力検査の結果を読むにはデシベル表記や周波数特性を理解する必要があります。騒音性難聴では高周波数から聞こえにくくなるパターンを示しますが、これは音波の周波数とエネルギーの関係を知っていると覚えやすいです。視力矯正では「ジオプトリ(屈折度)」の単位(1/m)など光学の基礎知識が登場し、凹レンズ・凸レンズの作用も物理の光学で説明できます。医学生は眼科で初めてジオプトリという単位を聞いて戸惑うこともありますが、高校物理で習ったレンズの公式を思い出すと理解が早まります。
  • 公衆衛生・法医学(環境要因): 熱中症と脱水では発汗による気化熱で体温を下げる仕組み、低体温症では体表からの熱放散と体内産熱のバランスといった熱力学的視点が求められます。減圧症(潜水病)の病態は急浮上により溶けていた窒素ガスが気泡化することですが、これは気圧が下がると気体の溶解度が減る(ヘンリーの法則)ためであり、物理の知識でメカニズムを理解できます。また騒音性難聴に関する職業性疾病の学習では、どの程度のデシベルで耳に害が生じるか、騒音暴露時間との関係(エネルギー量の蓄積)など物理と生理の複合知識が必要です。
  • 麻酔科・救急医療のトレーニング: 人工呼吸管理では、患者の肺コンプライアンス(弾性係数)や気道抵抗を考慮して適切な換気圧・容量を設定します。これは物理で言うところのばね定数や抵抗の概念に似ており、圧力を上げすぎると肺が過伸展してしまうリスクを物理モデルで捉えられます。また電気生理学では除細動器で強い電流を人体に流しますが、安全に使用するには電圧・電流・抵抗の関係(オームの法則)や電流経路による影響範囲を理解しておく必要があります。実際の医療現場でも、患者の体に電極を貼る位置や除細動パッドの配置は電流の流れ方を考慮して決められています。

以上のように、医学部では「なぜそうなるのか」を物理の視点で考える場面が多く存在します。高校物理の知識があると、単に丸暗記するのではなく原理から納得して学べるため、理解が深まり応用が利くようになります。優れた臨床医になるには生理学のみならず物理学を含む基礎科学の理解が土台となります。高校で培った物理の素養は、医師国家試験の合格のみならず将来の臨床においても確かな武器となるでしょう。

関連記事

TOP