医学部合格を目指すうえで、高校の理科科目として「物理」と「生物」のどちらを選ぶべきかは多くの受験生や保護者が悩むポイントです。一部で「物理は満点を狙いやすい科目だから有利だ」という主張が聞かれますが、果たしてそれは本当なのでしょうか? ここでは 2026年度大学入学共通テストのデータや医学部入試の合格者成績をもとに、この主張の妥当性を客観的に検証します。医学部志望の高校生や保護者の方が理科の科目選択を判断する材料として、データに基づいた客観的な情報をお届けしようと思います。
目次
2026年度共通テストの平均点比較:物理 vs 生物
直近の共通テストで物理と生物の難易度差を確認してみましょう。2026年度大学入学共通テスト(令和8年度)の中間集計による平均点は、「物理」が47.46点、「生物」が56.67点(各100点満点)でした。生物の方が物理より約9点も高く、理科4科目の中でも物理の平均点の低さが際立っていました。この約10点もの差に、「物理を選んだ受験生は不利ではないか」と不安に感じた声も少なくありません。
【2026共通テスト物理・生物の平均点】
- 物理:平均 47.46点 (100点満点)
- 生物:平均 56.67点 (100点満点)
※参考:同年の化学は59.57点、地学は46.12点で、物理だけ他の理科に比べ明らかに低い水準でした。このため得点調整(科目間の平均点差が20点以上で行われる救済措置)は行われなかったものの、物理受験者の平均点の低さは異例の結果です。
平均点データから見る限り、2026年度共通テストでは「物理」は「生物」より難しく、満点どころか得点を伸ばしにくい科目だったと言えます。もちろん毎年の問題レベルによって難易度は変動しますが、この年に限って言えば「物理の方が高得点を取りやすい」というイメージとは逆の結果です。
ただし平均点は全受験者の傾向であり、科目ごとの得点分布にも注目する必要があります。物理は得点が高い層と低い層に二極化しやすい(ハイリスク・ハイリターン型)科目であり、生物は大崩れしにくく6~8割程度の得点が安定して出やすい(ミドルリスク・ミドルリターン型)傾向が指摘されます。つまり、物理は平均点が低くとも一部の上位層は満点近くを取っている可能性があり、生物は平均が高くても満点を取れる人は限られるという特徴があります。
国公立医学部の合格者データ:物理選択 vs 生物選択
次に、大学別入試(主に二次試験)での物理選択者と生物選択者の成績や傾向を見てみます。国公立大学医学部では、多くの大学で理科2科目(通常「物理・化学」または「化学・生物」の組み合わせ)を課しています。
一般に「医学部受験生の約6割が物理選択、約4割が生物選択」と言われ、実際に合格者の科目選択比率も物理:約70%、生物:約30%程度とされています。
物理選択者の方がやや多く合格しているのですが、その差は受験者層の比率(物理選択者がもともに多い)を反映した程度で、「生物選択だから不利」というほどの大差ではないことがわかります。このわずかな差は「生物選択者には(数学など)理系基礎学力がやや低い人が少し多い傾向によるもの」とされることがありますが、統計的にもその差は僅かです。
実際、多くの国公立大学医学部の在学生によれば「医学科の学生の約半数弱は生物選択だった」とのことで、物理選択・生物選択いずれでも合格者は多数存在する状況です。
大学側も公式には科目による有利不利を設けておらず(※滋賀医大の場合、「物理・生物いずれを選択しても配点上の有利不利はありません」と明言)、科目選択で差別をすることはありません。
むしろ注意すべきは 一部の国公立医学部では生物を選択できない場合があるという点です。例えば群馬大学、金沢大学、名古屋市立大学、愛媛大学、九州大学、佐賀大学などでは受験可能な理科が化学と物理に限定されており、生物選択では受験自体ができません。特に佐賀大学医学部では共通テスト・二次試験ともに「物理+化学」が必須科目です。
このように生物選択だと受験できない医学部がいくつか存在するため、物理を選んでおくと出願可能な大学の幅が広がるという戦略上のメリットは確かにあります。
国公立医学部全体で見れば、物理選択者の方が合格者数でやや多い傾向はあるものの、その差は小さく「満点を狙いやすいから圧倒的に有利」というほどではありません。 生物選択者も確実に合格しており、科目選択だけで明暗が分かれるケースは少ないと言えます。むしろ、物理選択の利点は一部大学への受験資格が広がる点や、物理を得意とする受験生が相対的に多い点ですが、裏を返せば生物選択でも自分が得意なら十分合格可能だということです。
私立医学部の合格者データ:物理選択 vs 生物選択
次に、私立大学医学部に目を向けてみましょう。私立医学部も理科2科目(多くは「化学+物理」または「化学+生物」)での受験が一般的ですが、大学によっては理科1科目入試を選べるケースもあります(例:帝京大学医学部や東海大医学部の一部方式など)。基本的に私立医学部では生物選択が禁止されていることはなく、物理・生物いずれの選択でも受験可能です。そのため科目選択による受験校の制限は国公立ほど大きな問題になりません。
では、合格者の成績に科目選択で差はあるのでしょうか。いくつかの大学で公表されているデータや分析例を紹介します。
- 久留米大学医学部(私立)一般入試(前期)2025年の場合:大学公表の合格者平均点を見ると、物理選択者の理科得点(物理100点満点)は平均77.0点、生物選択者(生物100点満点)は平均71.3点でした。この年の前期試験では物理選択者の方が合格者の得点平均が約6点高く、一見「物理有利」に見えます。ところが、同じ2025年入試の久留米大医学部一般入試(後期)では、物理の合格者平均71.5点に対し生物は79.0点と生物選択者の平均が物理を上回る逆転現象も起きています。つまり年度や試験回によって、物理選択者が高得点を取る場合もあれば、生物選択者の方が健闘する場合もあるということです。
- 埼玉医科大学医学部(私立)一般入試(一次試験)2024年のデータでは、全受験者の科目別平均点は物理44.0点、化学55.2点、生物46.2点(各100点満点)となっており、物理選択者全体の平均点が生物選択者より低く出ています。このように、私立医学部入試でも物理が常に高得点というわけではなく、試験問題の難易度や受験者層によって得点傾向が異なることが分かります。
一方で、私立医学部の世界では「物理選択者の方が難関国公立大との併願層が多く学力上位が集まりやすい」という指摘もあります。多くの医学部で合格者のボリュームゾーンは「化学+物理」組である傾向があります。
物理選択者は共通テストでも高得点層が多い傾向があり、私立専願の生物選択者より平均的な学力が高めという可能性は否めません。この点は各大学の受験生層によっても異なりますが、例えば先述の久留米大前期試験で物理選択者平均が高かったのは、物理選択者には難関国公立とも併願するトップ層が多く含まれていた可能性があります。
逆に後期試験では生物選択者にも優秀な受験生が残っていた、というように分析できます。いずれにせよ、私立医学部においても「物理だから絶対有利」という明確なデータ上の差は確認できません。物理選択者が多く合格しているのは確かですが、それは物理という科目自体の優位性よりも「物理を選ぶ受験生の層」に起因する部分が大きいと考えられます。
「物理は満点を狙いやすい」は本当か?客観的データからの検証
以上のデータや傾向を踏まえ、「物理は満点を狙いやすいから有利」といった主張を改めて検証します。
共通テストのデータから見る検証: 2026年度共通テストでは物理の平均点が生物より明らかに低く、物理が簡単だったとは言えませんでした。確かに物理は問題パターンが固定化しやすく対策が立てやすい科目と言われますが、近年は読解力や論理思考力を要求する出題が増え、一筋縄ではいかなくなってきています。「短期詰め込みで点数を伸ばしやすい科目ではなくなっている」との分析もあり、決して誰にとっても楽に満点が取れる科目ではありません。また、平均点が低い年でも物理には上位層が満点近く取るケースがある一方、生物は平均点が高めでも満点獲得者は限られる傾向があります。このことから、「満点を狙いやすいかどうか」はその科目の上位層にとっての伸びやすさを指している可能性があります。実際、「きちんと仕上げた場合、物理は9割〜満点が十分狙える」科目である一方、生物は「満点は取りにくいが6〜8割で安定しやすい」といえます。つまり、超トップレベルの受験生にとっては物理の方が満点を取れるチャンスが大きいのは事実かもしれません。しかしその反面、物理は一度つまずくと最後まで得点が伸びないリスクも抱える両刃の剣です。平均点が低い年には多くの受験生がそのリスクにハマったとも言えるでしょう。要するに、「満点を取れる人にとっては物理は有利だが、大多数にとっては物理はリスクも高い科目である」というのが実情です。
医学部入試の合格データから見る検証: 国公立医学部では物理選択者の方がやや多く合格しているものの、その差は小さく、「科目選択そのものが合否を左右する決定打にはなりにくい」ことが合格者データから導けます。生物選択でも十分に合格している大学がほとんどであり、「物理を選ばないと医学部に受からない」という極端な状況ではないことは各種データから明白です。私立医学部でも、物理選択者に難関大志望者が多い影響で平均得点が高めに出る傾向はあるものの、それは物理という科目が簡単だからではなく、物理選択者の学力層が高いからと分析されます。実際に個別の大学入試を見ると、物理有利・生物有利の差は年度や試験ごとに入れ替わり得点差もまちまちです。総合的に見れば、「物理だから圧倒的に有利」とは言えず、過去のデータはその主張を強く裏付けていないと言えます。
科目内容・適性の観点から見る検証: 物理と生物は科目の性質が大きく異なります。物理は数式や原理の深い理解に基づき論理的に問題を解く科目で、数学ⅡBレベルの素養が土台となり「ハマれば高得点が狙える」反面、「苦手な人には伸びづらい」傾向があります。一方、生物は膨大な知識の暗記に加え、文章読解力や記述力も要求される科目で、コツコツと安定した得点を積み上げやすいものの「満点を取り切るのは難しい」といえるでしょう。このように科目ごとに求められる能力やリスク・リターンの型が違うため、「どちらが有利か」は一概に決められません。極端な話、数学が得意で思考系問題が好きな受験生にとって物理は武器になりますが、そうでなければ物理を選んでも高得点は望めません。逆に、生物が好きで知識を着実に積むのが得意な受験生なら、生物選択で安定した高得点を狙う方が賢明です。結局のところ、科目選択によるアドバンテージよりも、自分の得意科目で高得点を取れるかどうかの方が合否に直結するのです。
科目選択の判断ポイントとまとめ
結論: 「物理は満点が狙いやすいから選ぶべき」という主張は、万人に当てはまる絶対的な真実ではありません。確かに物理は上級者にとって高得点を狙いやすい科目ではありますが、それは裏を返せば「高得点を狙えるだけの十分な理解と訓練が必要な科目」だということです。共通テストや入試の平均点・合格者データを見ても、物理選択者だけが飛び抜けて有利になるほどの差異は確認できず、生物選択で多くの受験生が医学部に合格しています。
また、一部の大学で物理必須の場合を除けば、制度上も物理選択だけが有利になることはありません。
したがって、科目選択は自分の適性・得意不得意や興味に基づいて決めるべきです。以下に判断の目安をまとめます。
- 物理を選ぶと有利なケース: 数学や物理現象の論理に強く、演習を積めば難問でも解ける自信がある人。計算ミスを減らし安定して満点近く狙える人。将来的に受験校の選択肢を最大限広げたい人(※生物選択では受けられない一部国公立医学部も受験可能になる)。物理の学習プロセス自体を苦に感じない人。
- 生物を選ぶと有利なケース: 暗記や知識の積み重ねが得意で、文章を読み取り整理する力にも自信がある人。コツコツ学習して安定して8割前後の得点を取る戦略をとりたい人。生物学への興味関心が高く、勉強を続けるモチベーションにできる人。医学への志望動機に生命科学への興味が含まれている人(※医学の基礎は生物であり、興味が持てないのに無理に避けるのは好ましくないとの指摘もあります )。
最後に、実際の医学部合格者からのアドバイスを紹介します。「高校の先生からは『医学部なら生物はやめておけ』と言われたけれど、最終的には好きな教科を選んだ方が点数も伸びると助言された」という体験談があります。合格者データや多くの声が示すように、科目選択そのものよりも「自分が得意な科目でしっかり高得点を取ること」の方が合否を左右するのが現実です。
「物理有利」、「生物不利」といった世間の評判やイメージに振り回されすぎず、ぜひ自分が一番得点源にできる科目を選択することをおすすめします。その上で選んだ科目を徹底的に磨き上げれば、物理であれ生物であれ医学部合格への道は拓けるはずです。