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医学部二次試験における理科科目の得点調整と公平性

物理選択と生物選択で不利・有利はあるのか?

医学部志望の受験生にとって、二次試験(個別学力検査)で選ぶ理科科目は大きな悩みの種です。国公立大学医学部の多くでは二次試験の理科として「物理」「化学」「生物」から2科目を選択します。しかし、「物理を選んだ方が有利」、「生物選択者は不利になりやすい」という噂を耳にすることもあるでしょう。背景には、年度や大学によって物理と生物の試験問題の難易度が異なり平均点に差が生じる場合があるという指摘があります。実際のところ、科目間で平均点に大きな差が出た場合に大学側で得点調整が行われ、公平性が保たれているのでしょうか。

ここでは、国公立大学医学部における理科選択科目の得点調整の有無や基準、過去の事例、そして科目間の公平性について解説します。受験生や保護者の皆さんが科目選択の不安を解消できるよう、各大学の公式情報や信頼できる見解をもとにまとめました。

理科選択科目の扱い:基本的にはどの科目も同等

まず前提として、多くの国公立大学医学部では物理・化学・生物のいずれを選択しても配点上の有利不利はなく、公式にも同等に扱うとされています。

例えば、滋賀医科大学の募集要項では、理科の科目選択による得点調整については言及されていませんが、「物理・生物は同等に扱われます」と明記されています。つまり大学側は科目間で差別を設けず、公平に評価する方針を掲げていることになります。この点は他の多くの国公立医学部でも共通した立場で、受験生側が「どの科目を選んだから不利」ということがないよう配慮されています。

もっとも、「同等に扱う」とはいえ試験問題の難易度によって科目ごとの得点分布に差が出ることがあります。例えば、ある年の物理の問題が非常に難しく平均点が低くなり、生物の問題が比較的易しく平均点が高くなるというような場合です。このように、平均点格差が大きく開いた場合に大学側はそのまま放置するのでしょうか、それとも得点調整を行って是正するのでしょうか。

得点調整は行われる?~大学の方針と基準~

大きな平均点差が生じた場合に得点調整を行う方針を明示している大学もあります。特に私立大学医学部を中心に、入試要項で得点調整の基準を定めている例が見られます。

私立大学の場合

例えば、東京医科大学(私立)では、「原則として科目間で平均点差が20点以上生じ、しかもそれが試験問題の難易度差によると認められる場合には、大学入試センター試験の得点調整方法に準じて得点調整を行う」と公式に発表しています。東京医科大学は令和2年度入試要項でこの基準を明示しており、物理・化学・生物の間で大きな点差がついた場合には共通テスト(旧センター試験)方式にならった調整を行うとしています。

また、埼玉医科大学(私立)のように「理科の科目間で平均点に20点以上の差が生じた場合のみ得点調整を行います」とシンプルに明記している大学もあります。このように「20点差以上」を一つの目安として得点調整を検討するのは、共通テストでの基準にならった方式です。

一方で、得点調整を行わない方針を明言している大学もあります。例えば、昭和大学医学部(私立)は「理科の平均点に差が開いても得点調整は一切しない」と公表しています。昭和大のように調整しない場合、もし特定科目の難易度が上がって平均点が下がってしまった年は、その科目を選んだ受験生に不運ながら不利が生じることになります。

私立医学部では、要項などに明記されている場合には、「大きな差が生じた場合は調整する」方針を示す大学の方が多いようです。つまり「原則20点以上差が出たら調整する」という基準は、多くの医学部入試で建前として採用されていると考えてよいでしょう。

一部の大学ではより厳密な方法で調整するところもあり、例えば、近畿大学医学部(私立)は「理科に関しては中央値補正法による得点調整を行います」としており、各科目の得点分布の中央値を基準に科目間のスコアを補正する仕組みを導入しています。

さらに、東海大学医学部や日本大学医学部では試験の素点をそのままではなく標準化得点で合否判定する方式を取っており(科目間の難易度差を統計的に補正する方法)、真の公平性を期す工夫をしています。このように大学ごとに調整の有無・方法は様々ですが、「明らかに不公平となる極端な難易度差」が出た場合には調整の措置をとる可能性が高いと考えられます。

国公立大学の場合

では、国公立大学医学部ではどうでしょうか。実は、国公立大に関しては入試要項で得点調整について触れていないケースが多く、公式に基準を公表している例がほとんど見当たりません。

これは、問題作成段階で難易度の均衡を図っているため調整の必要がほとんどないと大学側が考考えているからかもしれません。しかし、それでも差が大きく出た場合に備え、非公開ながら内部で調整基準を設けている可能性も否定できないと思っています。

東北大学医学部の入試情報を紹介する予備校のウェブサイトでは「科目間の難易度のばらつきによるためか、東北大では得点調整が頻繁に行われている」との指摘もあります。公式発表ではないものの、東北大のような国立でも受験生の間では「難易度差が大きい年は調整が入ったらしい」という声があるようです。このように国公立医学部でも暗黙的または非公式に得点調整が行われるケースがあることは念頭に置いておくと良いでしょう。

過去の得点調整事例:どんなとき行われた?

具体的に得点調整が実施されたケースとしては、共通テスト(旧センター試験)での事例が有名です。共通テストでは科目間で明らかな難易度差が生じた場合に得点調整が行われますが、その基準は「平均点差が20点以上」とされています。そして、2023年度共通テスト本試験では理科②(物理・化学・生物)間で過去最大の平均点差が生じました。物理の平均がおよそ63.4点、生物は39.7点と物理-生物間で約23.7点もの差があったのです。

2023年度には大学入試センターは問題難易度に明確な差があったと判断し、物理・化学・生物の間で得点調整を実施しました。調整の結果、生物選択者には最大+12点程度の加点がなされ、物理と生物の平均点差は23.65点→14.93点へと縮小されています。この措置により、生物選択者が極端に不利になる事態は避けられました。共通テストの場合、このように統一試験として公式に調整が行われるため、公平性への信頼感があります。

では各大学個別の(二次試験)入試で、実際に調整が行われた年や大学はあるのでしょうか。これは私立大学ですが、入試要項で調整規定を明示している東京医科大学で過去に生物が極端に難しく物理が易しかった年に「得点調整があるのでは」と受験生の間で期待されましたが、実際には行われなかったという例があります。2022年度入試でそのような声が上がったものの、平均点差が20点未満に収まったのか、有意な差と認められなかったのか調整は行われなかったのです。

先に述べたように、私立医学部では他にも、近畿大学医学部が毎年理科で中央値補正による調整を行っていることを公表しています。このため近畿大学では物理・化学・生物間でどれかが有利になりすぎることはなく、合格最低点なども調整後の得点で算出されています。

さらに、東京女子医科大学や川崎医科大学など複数の私立医学部で「大きな差が生じたら調整する」という趣旨が要項等に記載されており、過去に調整が実施されたケースもあると考えられます(※ただし具体的な年度・点数の公表はされないことが大半)。

一方、国公立医学部で公式に得点調整実施を公表した例はほとんど見当たりません。国公立の場合、仮に内部で調整していても対外的に発表しないことが多く、受験生が知る術は限られます。ただ、前述のように東北大学では頻繁に調整が行われているとの情報もあるので、「過去に〇〇大学で物理と生物の平均点差が大きく非公式に補正が入った」という事例はゼロではないと思われます。

また、興味深い事例として九州大学医学部があります。

これらの大学は近年まで「二次試験では物理選択者しか受験できない(生物選択では受験不可)」という制限を設けていました。

つまり、極端な話ですが科目間の平均点差による不公平が生じないよう、最初から物理に科目を限定していたわけです。九州大学医学部では長らく「理科は物理+化学」が前提で、生物選択者には門戸が開かれていなかったのですが、「生物選択でも受験できるようにする」と方針転換が発表されました。2024年度以降の入試で生物選択者にも開放され、受験機会の公平性が改善されました。このように「生物を選ぶと受けられない医学部がある」という状況自体が減りつつあり、科目選択の自由度と公平性は高まりつつあります。

科目間の公平性をめぐる議論:生物選択は本当に不利?

物理・生物間の平均点差や得点調整の話題は、突き詰めれば「どちらの科目が有利なのか」「生物選択は損なのか」という公平性の問題に行き着きます。この点については、民間教育機関から様々な分析・意見が出されています。

平均点データが示すもの

全国的なデータを見ると、医学部受験生の理科科目選択比率はおおむね物理:約58%、生物:約42%程度です。一方、医学部全体の合格者データでは物理選択者の方がやや多く(合格者の約70%が物理選択、約30%が生物選択)と指摘されています。

一見すると、「物理選択者の方が合格しやすいのでは?」ととらえられかねませんが、専門家の分析ではその差はごくわずかであり、主な要因は「生物選択者には数学など理系基礎学力がやや低い人が少しだけ多い傾向があるため」と考えられていることが多いようです。つまり、物理・生物という科目そのものの有利不利というより、科目選択者集団の学力特性の差が背景にある可能性が高いということです。実際、差は統計的にもごくわずかであり「生物を選んだから明らかに不利」というほどの大きな開きではない、というのがデータから導ける結論です。

難易度差と心理的な印象

とはいえ、受験生にとって自分の年の試験問題の難易度は死活問題です。もし自分が選んだ生物の問題がとても難しく、物理が易しかったら「科目選択を誤ったのでは」と感じるのも無理はありません。前に述べたように、ほんとうに極端な難易度差があれば多くの大学で何らかの救済措置(得点調整)が検討されるので必要以上に心配する必要はありませんが、それでも不安は残るでしょう。

過去にはインターネット上で「〇〇大学は物理選択者が不利らしい」、「△△大学では生物選択だと足切りされやすい」等の噂が話題になったこともあります。しかし具体的な公式発表があるケースはほとんどなく、噂の域を出ません。

例えば滋賀医科大学では「物理選択者不利」という風聞が2015年前後に受験生間で取り沙汰されましたが、大学が公式にそのような差別を設けている事実はなく、真偽は不明なままデマと考えられています。噂の発端は「ある年に物理の試験が難しすぎて平均点が伸び悩んだ」ことにあったようですが、客観的なデータが不足しており信憑性は低いと言わざるを得ません。実際に滋賀医大に合格した学生も「自分の大学では周りの医学生の話を聞いても科目で有利不利を感じたことはなく、結局は好きな科目を選んで伸ばした方が良い」という体験談を述べています。

「得意科目で高得点」が何より大事

多くの予備校講師や合格者が口を揃えるのは、「科目間の有利不利より、自分が得意な科目でしっかり得点することの方が合否を左右する」という極めてシンプルな事実です。苦手な科目を無理に選んで平均点のごく僅かな差に望みを託すよりも、好きで伸ばしやすい科目を選んで可能なかぎり満点近くを狙う方が、合格に近づくのは明らかです。「物理か生物かの選択で迷ったら、どちらの科目が自分にとって高得点を取りやすいかで選ぶべきだ」というのがアドバイスです。

また、中堅以下の医学部では傾向として「英語や生物をコツコツ学習できる受験生」を好む場合もあるという指摘もあります。難関校では物理選択者が多いとのデータもありますが、それは生物選択が不利というより、難関校合格者に物理好き・数学得意の学生が多いという裏返しに過ぎません。要するに各大学が求める学生像により出題傾向が異なることはあっても、「科目選択ひとつで一発アウト」というほど単純な話ではありません。

科目間の公平性は概ね保たれている

国公立大学医学部の二次試験における理科科目の得点調整と公平性についてまとめると、以下のようになります。

  • 多くの大学は科目選択による有利不利がないよう努めており、公式にも「同等に扱う」と謳っている。配点も科目間で差をつけない設定になっている。
  • それでも生じてしまう難易度差・平均点差への対策として、得点調整制度を設けている大学もある。 特に20点以上の平均点差が出た場合に共通テストにならった調整をするという基準が一般的。私立大で明示例が多いものの、国公立でも非公式に対応している可能性もある。
  • 過去に得点調整が実施された事例としては、共通テスト2023で物理・生物間の平均点差23点→調整後15点になったケースが代表的。個別大学では東京医科大などが基準を公表しつつ、実際に発動されるケースは少ない。
  • 科目間の公平性については、データ上も物理選択者の合格率がわずかに高い傾向はあるものの差は少しで 、「生物だから不利」という決定的な不平等は確認されない。万一大差が生じれば調整で是正されることも期待できる。
  • 科目選択の際のアドバイスとしては、「自分が得意な科目・伸ばしやすい科目を選ぶ」ことが鉄則。好きでもない科目を無理に選んで平均点差に一喜一憂するより、得意科目で高得点を狙う方が合格可能性は高まる。

受験生や保護者の方は、「生物選択だと不利なのでは?」、「物理にしないと医学部は厳しいのでは?」と心配になるかもしれません。

しかし、どの大学とも優秀な人材を幅広く取りたいと考えており、科目選択だけで門前払いするような不合理は避けようとするものです。科目ごとの難易度差が出ても、極端な場合は得点調整や標準化でカバーされる仕組みがあります。

科目間の公平性は大きく損なわれないよう配慮されていますので、どうか安心して自分が最も力を発揮できる科目を選んでください。それが合格への近道であり、入学後も医学を学ぶ上でのモチベーションにつながるはずです。自分に興味があって好きで得意な科目であれば、きっと勉強にも身が入り良い結果に結びつくはずです。

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