奈良県立医科大学(奈良医大)は、公立単科医科大学として独自の存在感を放っています。その変革の中心にいるのが、2014年4月に学長に就任し、長年にわたり同大の舵取りを担っている細井裕司氏です。ここでは、耳鼻咽喉科学の世界的権威としての顔と、医学を社会実装する経営者としての顔を持つ細井学長の歩みと、奈良医大の教育方針について解説します。
目次
経歴と専門分野:耳鼻咽喉科学の世界的権威
細井裕司学長は、1974年に奈良県立医科大学を卒業後、同大大学院を経て、一貫して耳鼻咽喉科学、特に「聴覚医学」の第一線で研究・臨床に従事してきました。
- 専門領域: 難聴の診断・治療、聴覚のリハビリテーション。
- 主な功績: 「軟骨伝導(Cartilage Conduction)」という第3の聴覚経路を発見。これは従来の「気導」「骨伝導」とは異なる仕組みであり、これを利用した「軟骨伝導補聴器」の実用化をリードしました。この功績により、産学連携の成功モデルとしても高く評価されています。
「MBT(Medicine-Based Town)」構想の提唱
細井学長の最も大きな功績の一つは、「MBT(医学を基礎とした街づくり)」という概念を提唱し、具現化させたことです。
これは、医師が病院の中だけで患者を待つのではなく、医学的知見を産業や街づくりに活かすことで、病気にならない社会や、障害があっても快適に暮らせる社会を作るという構想です。
- MBTコンソーシアム: 数百社以上の企業が参加し、医学的エビデンスに基づいた製品開発やサービス提供を行っています。
- 社会実装: 奈良県橿原市の新キャンパス整備計画とも連動しており、医学部が中心となって地域経済と健康を支えるモデルを構築しています。
教育理念:常識を疑い、イノベーションを起こす医師の育成
細井学長は、学生に対して「これまでの常識を疑うこと」の重要性を説いています。自身が「軟骨伝導」という新たな発見をした経験から、既存の医学知識を習得するだけでなく、そこから一歩踏み出して新しい価値を創造できる人材を求めています。
奈良医大の入試において、トピックス(時事問題)や論理的思考力が問われる背景には、こうした「社会と医学の繋がり」を意識できる医師を育てたいという学長の強い意志が反映されています。
2026年現在の展望とキャンパス移転
2026年現在、奈良県立医科大学は橿原神宮前駅周辺へのキャンパス全面移転プロジェクトの最終段階にあります。細井学長が掲げる「開かれた大学」として、最新の医療設備だけでなく、市民が健康について学べるエリアや、企業との共同研究拠点が集約されています。このハード面の整備により、教育・研究環境はさらに高度化しています。
受験生に求められる視点
細井裕司学長率いる奈良県立医科大学は、単に「偏差値の高い医学部」という枠組みを超え、「医学で社会を変える」という明確なミッションを持った大学です。
同校を志望する受験生は、医学知識への関心はもちろんのこと、学長が提唱する「MBT」に象徴されるような、医学の社会貢献や多職種・企業との連携、そしてイノベーションに対する意欲を面接や小論文で示せることが重要です。
(出典・参考資料)