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東京歯科大(歯学部)は慶應大に統合されるのか?ー「慶應義塾大学歯学部」構想の現在地と、再燃する可能性を徹底解説

東京歯科大学歯学部が慶應義塾大学に統合され、「慶應義塾大学歯学部」が誕生するのではないか――。この構想は、2020年11月に両法人が正式に協議開始を発表したことで、歯学部受験業界・医療界・大学関係者の間で大きな注目を集めました。東京歯科大学は日本最古の歯科医学教育機関であり、慶應義塾大学は医学部・看護医療学部・薬学部を持つ日本有数の総合大学です。両者が一体化すれば、私立歯学部の勢力図だけでなく、医療系大学教育全体にも大きな影響を与える可能性がありました。

しかし、2021年11月に両法人は、当初2023年4月を目途としていた統合・法人合併のスケジュールを見直し、「特に目途を設けずに協議を継続する」と発表しました。理由としては、新型コロナウイルスによって教育・研究・医療を取り巻く環境が大きく変化し、今後の状況も不透明であることが挙げられています。現時点で重要なのは、「正式に白紙撤回された」とは発表されていない一方、「いつ統合される」とも決まっていないという点です。 

そもそも、なぜ東京歯科大は慶應大との統合を目指したのか

東京歯科大学は、1890年に髙山紀齋が創立した髙山歯科医学院を前身とする、現存する日本最古の歯科医学教育機関です。東京歯科大学自身も、公式サイトで「現存するわが国最古の歯科医学教育機関」と説明しています。 

一方で、歯学教育は近年、単に「歯を治す技術」を教えるだけでは不十分になっています。高齢化社会では、口腔機能、摂食嚥下、糖尿病・循環器疾患との関連、がん治療中の口腔管理、在宅医療、認知症ケアなど、歯科医師にも全身疾患や多職種連携への理解が求められています。東京歯科大学が慶應との統合を検討した背景には、単科大学としての伝統を守りながら、総合大学の教育・研究資源を活用したいという狙いがあったと考えられます。

実際、2020年の東京歯科大学側の発表では、同大学が「10学部を擁する総合大学」であり「歴史的関係の深い慶應義塾大学」との合併可能性を検討し、2020年11月6日に慶應義塾へ申し入れを行ったと説明されています。統合のメリットとしては、医歯連携、医理工連携、先端テクノロジーの歯学への応用、医療系4学部による学際的教育・研究の推進が挙げられていました。 

慶應にとってのメリット:「医・看・薬」に「歯」が加わる意味

慶應義塾大学には、医学部、看護医療学部、薬学部がすでに存在します。特に慶應は、医学部・看護医療学部・薬学部の学生が合同で学ぶ「医療系三学部合同教育」を2011年度から実施しており、チーム医療を重視した多職種連携教育に力を入れています。 

ここに歯学部が加われば、慶應は医・歯・薬・看護をそろえる総合医療系大学としての性格をさらに強めることになります。口腔と全身の関係が重視される現代医療において、歯学部の存在は単なる学部数の増加ではありません。医学部との共同研究、病院での口腔管理、周術期医療、がん治療、摂食嚥下、再生医療、材料工学、AI診断、ロボティクスなど、幅広い分野でシナジーが期待できます。

慶應義塾は過去にも、共立薬科大学との法人合併によって2008年に薬学部・薬学研究科を開設した実績があります。慶應薬学部の公式ページでも、薬学部・薬学研究科は共立薬科大学との合併によって2008年に誕生したと説明されています。  そのため、東京歯科大学との統合構想も「前例のない突発的な話」ではなく、慶應が単科医療系大学を取り込んで医療系教育を拡張してきた流れの延長線上にあると見ることができます。

なぜ統合は延期されたのか

2020年の発表時点では、2023年4月を目途に歯学部統合と法人合併について協議を進めるとされていました。しかし、2021年11月の発表で、両法人はこのスケジュールを見直し、特に目途を設けずに協議を継続するとしました。公式発表では、新型コロナウイルスによって教育・研究・医療環境が大きく変化し、今後の不確実性も高まったことが理由とされています。 

ここで重要なのは、延期の表現です。両法人は「協議を終了する」「統合を撤回する」とは述べていません。むしろ、「学生が最大の受益者であるように」「教育・研究・医療・法人運営の各分野で連携を深める」としたうえで、引き続き統合等に関する協議を行うと説明しています。 

ただし、2021年以降、具体的な統合時期や新しい合意内容は公表されていません。そのため、受験生や保護者が現時点で「入学したら慶應歯学部になる」と考えるのは危険です。公式に確認できる現状は、あくまで「協議継続」までです。

2026年時点で統合可能性を考えるうえでの新しい材料

2026年時点で大きな材料となるのが、東京歯科大学市川総合病院の事業譲渡です。東京歯科大学は、2026年4月1日付で東京歯科大学市川総合病院の事業を国際医療福祉大学へ譲渡する契約を締結したと発表しました。背景として、同病院が2023年度および2024年度の決算で多額の赤字を計上し、赤字が恒常化した場合には法人全体の財政的健全性や存立に影響しかねないと説明されています。 

この病院譲渡は、慶應との統合可能性を考えるうえで二つの見方ができます。

一つは、統合に向けた障害が減った可能性です。総合病院の経営赤字は、法人合併を検討する側にとって大きなリスクになり得ます。東京歯科大学が市川総合病院の運営を国際医療福祉大学に譲渡したことで、将来的に東京歯科大学本体をめぐる協議は、歯学教育・歯科医療・研究機能を中心に整理しやすくなる可能性があります。

もう一つは、統合の前提条件が変わった可能性です。東京歯科大学市川総合病院は、歯科医学教育における全身管理や医科歯科連携を学ぶ場として重要な役割を担ってきたと東京歯科大学自身が説明しています。譲渡後も国際医療福祉大学との協定により、歯科医学教育や医科歯科連携を学ぶ場は維持される見通しとされていますが、かつてのように東京歯科大学が自ら総合病院を保有する形とは異なります。 

つまり、市川総合病院の譲渡は「慶應統合が遠のいた」とも「統合しやすくなった」とも単純には言えません。むしろ、東京歯科大学が法人として将来の経営基盤を再整理していることを示す重要な動きと見るべきです。

東京歯科大学のブランド力は依然として高い

東京歯科大学は、私立歯学部の中でも国家試験実績が非常に高い大学として知られています。第119回歯科医師国家試験では、全体の合格率が61.9%、新卒合格率が80.2%だったのに対し、東京歯科大学は総数で147人出願、133人受験、125人合格、合格率94.0%、新卒では141人出願、127人受験、123人合格、合格率96.9%でした。 

これは、東京歯科大学が単に歴史のある大学というだけでなく、現在も歯科医師養成機関として高い教育成果を出していることを示しています。したがって、慶應側から見ても、東京歯科大学は「救済対象」ではなく、医療系教育・研究の質を高めるパートナーとしての価値を持っていると考えられます。

一方、私立歯学部全体を見ると、学費負担や国家試験合格率、留年率、定員充足率などの面で大学間格差が広がっています。東京歯科大学の2026年度入学者の初年度納入額は945万7,000円、2年目以降は毎年度453万7,000円と公表されており、歯学部受験は家庭にとって極めて大きな投資です。  その中で、国家試験実績やブランド力の高い大学に人気が集中しやすくなるのは自然な流れです。

統合が実現した場合、受験生には何が起きるのか

仮に将来、東京歯科大学歯学部が慶應義塾大学に統合される場合、受験生への影響は非常に大きくなります。

第一に、偏差値・志願者数が上昇する可能性があります。「慶應義塾大学歯学部」という名称になれば、医学部・薬学部・看護医療学部との連携、慶應ブランド、三田会ネットワーク、総合大学としての知名度が加わります。現在の東京歯科大学も難関私立歯学部ですが、慶應ブランドが付加されれば、歯学部受験における位置づけはさらに上がる可能性があります。

第二に、入試制度が変わる可能性があります。現在の東京歯科大学の入試方式がそのまま維持されるとは限りません。慶應義塾大学の学部として再編される場合、一般選抜、学校推薦型選抜、内部進学、一貫教育校からの進路選択など、制度設計が大きく変わる可能性があります。2020年の発表でも、慶應義塾の一貫教育校の生徒にとって専門領域が増え、進路の選択肢が広がることがメリットとして挙げられていました。 

第三に、カリキュラムの総合大学化が進む可能性があります。医療系三学部合同教育に歯学部が加われば、医・歯・薬・看護の合同教育が可能になります。口腔と全身、薬物療法、看護、在宅医療、地域包括ケアを横断的に学ぶ環境が整えば、将来の歯科医師像も大きく変わるでしょう。

統合のハードルは何か

統合の可能性は残っている一方で、ハードルも少なくありません。

最大の論点は、学生・卒業生・教職員・病院・財務・キャンパス・学費・入試制度をどう整理するかです。東京歯科大学は135年以上の歴史を持つ大学であり、同窓会や卒業生ネットワーク、建学の精神、大学名への愛着があります。慶應との統合は、単なる名称変更ではなく、法人、学部、カリキュラム、学生身分、教職員組織を含む大規模な再編になります。

また、2026年に市川総合病院の運営主体が国際医療福祉大学へ移ったことで、東京歯科大学の臨床教育体制は新しい形に移行しました。譲渡後も歯科医学教育の継続は協定で担保されるとされていますが、将来的に慶應と統合する場合、この国際医療福祉大学との関係をどう位置づけるかも論点になるはずです。 

さらに、慶應側にとっても、歯学部を持つことは大きな投資です。施設、教員、研究、臨床実習、国家試験対策、学費設計、既存学部との調整など、慎重に検討すべき事項は多くあります。2021年の時点で両法人が「双方に不利益が生じないよう」「学生が最大の受益者であるように」と強調したのは、統合が単純なブランド統合ではなく、教育機関としての責任を伴う難しい作業だからです。 

結論:短期実現は不透明。ただし、中長期では可能性は残る

現時点での結論は、「東京歯科大学歯学部が慶應義塾大学に統合される可能性は残っているが、短期的に実現するかは不透明」です。

公式情報だけを見れば、2020年に協議開始、2021年にスケジュール見直しと協議継続が発表され、その後、新たな統合時期は公表されていません。したがって、受験生や保護者は「近いうちに慶應歯学部になる」と決めつけるべきではありません。

一方で、統合構想が完全に消えたとも言い切れません。慶應にとって歯学部は、医・薬・看護に続く医療系教育の最後の大きなピースです。東京歯科大学にとっても、総合大学との連携は、歯学教育をさらに高度化するための有力な選択肢です。両者には歴史的な関係があり、2020年の時点で公式に統合協議へ踏み出した事実もあります。 

今後の焦点は、東京歯科大学が市川総合病院譲渡後にどのような法人戦略を描くのか、慶應が医療系教育の拡張をどこまで進めるのか、そして両法人が学生・卒業生・教職員にとって納得できる統合条件を再設計できるのかにあります。

受験生にとって大切なのは、「慶應になるかもしれないから東京歯科大学を選ぶ」のではなく、「現時点の東京歯科大学の教育力、国家試験実績、学費、臨床教育環境を見て判断する」ことです。そのうえで、もし将来、慶應義塾大学歯学部が誕生することになれば、それは日本の歯学教育にとって大きな転換点になるでしょう。

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