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防衛医科大学校卒業生が義務年限内に離職した場合の償還金

9年間の義務勤務と償還金制度

防衛医科大学校医学科の卒業生は、卒業後9年間は自衛隊に勤務する義務があります。これは防衛省設置法に基づく制度で、もしこの9年の義務期間を満たさずに離職した場合、在学中に国が負担した教育経費の全額を国に返還(償還)しなければなりません。法的には、自衛隊法第99条で「卒業後9年以上勤続しないで離職した防衛医大卒業生は、教育訓練に要した費用を勤続期間に応じて償還する義務」が規定されています。ただし9年間を全うして勤務すれば、償還金の支払い義務は発生しません(9年勤務で学費全額免除と同等の扱い)。死亡や公務上の重度障害等、やむを得ない理由で離職した場合には償還金が免除される規定もあります。

償還金額の計算方法と具体的な金額例

償還金額は、在学中にかかった教育コスト総額をベースに、卒業生が実際に勤務した期間に応じて按分されます。防衛医大では授業料や施設利用費が全て公費負担であり、学生には給与も支給されます。そのため国は1人あたり数千万円規模の経費を負担しており、離職時には未勤務期間の長さに比例してその経費を返還させる仕組みです。例えば、防衛医大医学科を令和7年(2025年)3月に卒業した場合、義務期間内に離職するときの償還金最高額(=在学中の総経費)は約4,421万円と公表されています。実際に支払う償還金は勤務期間に応じて減額され、勤務が長いほど返還額が少なくなります(逆に言えば残り義務年数が多いほど高額になります)。以下に勤務年数別の目安額を示します(令和7年3月卒業者の場合の概算)。

  • 卒業後すぐに離職(義務残期間9年): 約4,421万円の償還(金額は最高額)
  • 卒業後3年で離職(義務残期間6年): 約2,950万円の償還(金額は最高額の約3分の2)
  • 卒業後5年で離職(義務残期間4年): 約1,960万円の償還(金額は最高額の約4分の1強)
  • 卒業後8年で離職(義務残期間1年): 約490万円の償還(金額は最高額の約9分の1)

※卒業後9年が経過すれば償還金は発生しません。また上記は概算であり、正確な償還金額は離職する時期(日数)に基づき細かく計算されます。なお防衛医大看護学科の場合は義務勤務6年で、令和7年卒業生の償還最高額は約980万円とされています(医学科に比べて教育費が少ないため)。

制度の背景と算出根拠

償還金額の算出根拠は、「卒業までに国が負担した教育訓練経費の総額(一人当たり)」です。具体的には、防衛医大での教員人件費、施設維持費、教材研究費、学生手当など6年間の教育に要する経常経費の合計がベースとなっています。この金額は毎年見直されており、物価や人件費等により増減します。例えば医学科の場合、卒業年度ごとの償還最高額は令和5年卒業生で約4,363万円 、平成25年(2013年)卒業生では約4,603万円と報じられています。近年は4,000万円台後半で推移しており、令和7年卒業生の4,421万円もその一環です。

制度の背景としては、国費で医師を養成する以上、一定期間は自衛隊で勤務してもらい国に貢献してもらう狙いがあります。 実際、防衛医大卒業生は民間病院への転職志向も強く、義務満了後に退職する例が少なくありません。過去の統計では「卒業生の約3割は9年以内に退職し、約5割は14年以内に退職する」という指摘もあり、償還金制度だけでは医官の流出抑止に十分ではない実情も報告されています。それでも、本制度により少なくとも9年間は自衛隊で医師として勤務する動機付けとなっており、「経済的理由で医学部進学を諦めないで済む」ための施策という側面もあります 。償還金は違約金というより受けた恩恵の返還という位置づけであり、9年の奉職を全うすれば学費は事実上全額免除になる制度と言えます。

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