防衛医科大学校(NDMC)の特色ある教育カリキュラムの中でも、特に学生の精神的な成長に大きな影響を与えるといわれる「硫黄島研修」。一般の医学部では決して体験することのできない、この重厚な研修内容とその意義について、受験生や保護者の方向けに解説します。
医学の知識を学ぶだけでなく、自衛隊の幹部候補生としての資質も磨く防衛医科大学校。そのカリキュラムの中でも、3年次に行われる「硫黄島研修」は、学生たちが「自分がなぜ医官を目指すのか」という原点に立ち返る、極めて重要な行事です。
ここでは、一般にはあまり知られていない硫黄島研修の実態とその意義を深掘りします。
目次
硫黄島研修の概要:いつ、誰が行くのか?
硫黄島研修は、例年第3学年の「冬季定期訓練」の一環として実施されます。
- 時期: 12月頃(1泊2日程度)
- 場所: 東京都小笠原村 硫黄島(いおうとう)
- 対象: 医学科・看護学科の第3学年
硫黄島は現在、自衛隊の基地として運用されており、一般人の立ち入りは厳しく制限されています。この歴史的にも特殊な環境に身を置くことが、研修の第一歩となります。
研修の主な内容
学生たちは事前に硫黄島の戦史について講義を受け、万全の準備をして島に降り立ちます。
① 戦跡の巡視と慰霊
日米合わせて約5万人もの死傷者を出した激戦地である硫黄島。学生たちは、摺鉢山(すりばちやま)や地下陣地、トーチカ跡などを巡ります。
今なお地熱で熱い壕(ごう)の中に入り、当時の将兵がいかに過酷な環境で戦ったかを肌で感じ、天山慰霊碑などでの献花を通じて、国に命を捧げた先人たちへ尊崇の念を捧げます。
② 現役医官による講話
硫黄島には、海上自衛隊の医官として実際に勤務している防衛医大の卒業生がいます。先輩から「離島という限られた医療資源の中でどう任務を遂行するか」「医官としての誇りとは何か」といった実体験を聞く時間は、学生にとって数年後の自分の姿を重ねる貴重な機会となります。
③ 過酷な環境の体験
12月でも30度近い気温になることがあり、噴出する硫黄の匂いや水蒸気が立ち込める火山島。水一滴の重みを知る「銀明水(ぎんめいすい)」の研修などを通じ、極限状態における人間の精神力と医療の必要性を学びます。
なぜ「医学生」が硫黄島へ行くのか?
単なる歴史学習であれば教科書で十分かもしれません。しかし、防衛医大が現地研修にこだわるのには、明確な理由があります。
- 「命」の重みを再認識する: 凄惨な戦跡を目の当たりにすることで、医師として守るべき「命」の尊さを、言葉ではなく魂で理解します。
- 医官としての使命感: 有事や災害派遣時、医官は最も過酷な場所へ向かうことになります。「いかなる環境でも任務を完遂する」という自衛官としての自覚を醸成します。
- リーダーシップの育成: 絶望的な状況下で組織をまとめ上げた栗林忠道中将の統率力などを学び、将来の幹部自衛官に必要な資質を養います。
受験生へのメッセージ
防衛医大を志す皆さんにとって、この研修は「単なる旅行」ではありません。医学部という狭き門を突破した先に待っているのは、「医師であり、かつ自衛官である」という二つの重い責任です。
「人の命を救いたい」という純粋な志に加え、この硫黄島研修のような厳しい伝統を乗り越えていく「覚悟」があるか。もしあなたが、その使命に胸を熱くするのであれば、防衛医大は最高の成長の場となるはずです。